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229 セーターを売ろう


「うわー! すごい! これクリリが編んだの?」


「俺が編んだのはこのセーターで、このカーディガンはアルビー。編み物は俺よりアルビーの方が得意みたい。やっぱり女の子の方が上手だよね」


「そうかな。クリリだって十分上手いよ。とても素人の子供が編んだとは思えないよ」


確かにアルビーの方が網目が綺麗な気がするけどクリリは複雑な網目にも挑戦していて素人の作品とは思えない出来になっている。夏のバザーには出せないけど、うちの店で売ったらどうだろう。


「ねえクリリ 、この作品『マジックショップナナミ』で売ってみない?」


「え? ここで売るの?」


「そうよ。値段は自分たちで決めたらいいわ。売れたら孤児院のものにしてもいいし、自分たちのお小遣いにしてもいいと思うわ」


「お小遣い?」


「そうよ、これだけの作品を作るのに時間も手間もかけたんだから自分のものにしてもいいのよ」


孤児院の子供たちはどうも稼いだらほとんど孤児院に寄付している。もちろんそれは悪い事ではないけど少しは自分のものにしても良いと思う。特にこれから学校に通う事を考えたらクリリはいっぱい貯金した方が良い。


「アルビーも来年は就職するんだからお金を少しは持っていた方が良いよね」


「来年、就職なんだ。クリリは学校だし寂しくなるね。それでアルビーはどこに就職するの?」


「まだ決まってないよ。働けたらどこでもいいみたいだけどあんまり変なところはダメだと思うんだ」


女の子だから変な就職先もあるみたいでよく選ばないと大変な目にあうらしい。異世界でもそんな事があるのか、どこでも同じなんだなと思った。


「ねえ、だったらうちで働かないか聞いてみてよ。こんなに手先が器用な子なかなかいないわ。クリリも学校に行くしここも従業員増やさないとね」


私がクリリにそういうとクリリは目を見開いた。そんなに驚くようなことは言ってないよ。


「いいの? そんなにすぐに決めていいの?」


「え? 別にいいと思うよ」


「タケルさんに相談しなくてもいいのかな」


「タケルに? 孤児院の子だから反対しないよ。急に働きたいって現れたりしたらさすがに反対されるだろうけど、クリリの紹介だから大丈夫だって言うはずよ」


クリリは変なところで真面目だよね。昨日今日の仲でも無いんだからもっとわがままになってくれてもいいのにな。



でも一度面接はしとこうかという話になったので今日クリリがアルビーを連れて来た。

彼女はウサギの獣人だった。これは看板を作り変えることになりそうだなと思った。目がクリクリしてとても可愛い。ちょっと内気なのかあまり覚えのない子だった。


「アルビーは外で遊ぶより家の中で遊んでたからナナミさんとはあんまり会ってないんだ」


私が首を傾げているとクリリが教えてくれた。それでアルビーは編み物が得意なんだ。


「ここではお客様の接客もあるけど大丈夫?」


私がアルビーに尋ねると


「大丈夫です。私、頑張ります。クリリみたいにはなれないかもしれないですけど……」


と最後の方は声が小さくなっている。


「クリリの代わりじゃなくていいのよ。あなたはあなたはが出来ることをしてくれればいいの。特別なことはしなくていいのよ。お客様の接客とこうして編み物でもしてくれたら良いのよ」


アルビーは私の話を聞いて安心したようだった。クリリが出来る子だから心配だったみたい。

面接の後は新作の試食をしてもらう。


「ホットケーキミックスを使ったマドレーヌを作ってみました。どうぞ食べてみて」


マドレーヌは私の好きなお菓子の一つだ。


「美味しい! 口の中でホロホロするの」


「なんか上品な味だな」


クリリにはもっとガツンとするようなお菓子が好みらしいけどアルビーには好評だった。

お菓子だから女の子の意見は大事だよね。


「お! マドレーヌじゃないか。また俺に黙って食べてるな」


突然現れたタケルにアルビーは驚いていたけど、タケルは孤児院でも有名だから紹介の必要はなさそうだ。

タケルってなぜか私たちが新作を食べると現れるけど本当に盗聴器とか盗撮とかされてないよね。魔法がある世界だから逆に心配だよ。

試食も終わってクリリとアルビーが並んで孤児院へ歩いている後ろ姿を眺めながらクリリが学校へ行くのは来年だし、アルビーが働きに来るのも来年なんだけど少しだけ寂しくなって来た。クリリとはこの世界に来てまだまだだった時からの付き合いだから離れるのは本当はとっても嫌だ。でもクリリのためには絶対に学院に通った方が良い。クリリみたいな頭の良い子がこんな店で埋もれるのは勿体無いもんね。


「分かってるけど寂しいなぁ〜」


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