227 靴下を売ろう
意外なものが売れている。
靴下だ! 初めは少しずつ、そして最近は一番売れている。
「寒さが厳しくなったから靴下が良いって評判らしいよ」
クリリが教えてくれた。靴下は百均で売っているものだけだから種類はあまりない。靴下が売れるのに合わせて、タイツも売りだした。寒さ対策で去年も売ったけど、靴下もタイツも今年になって異常なっくらい売れ出した。
私は靴下を履く派なのでこの世界に来てからも履いている。百均がなかったら靴下を履くために自分で編んでいたかもしれない。自分でかぎ針を作って糸を買って作るそれは市販の靴下とは全く違うものになってたいただろうけどそれでも冷え性の私には靴下は必需品なのだ。
「クリリも靴下を履いてるの?」
クリリの靴はひざ下まであるロングブーツ。サスペンダーで下がらないようにしているズボンの裾をブーツの中に入れているから靴下を履いているのかどうかイマイチよくわからない。
「うん。夏は履かないけど冬は寒いから履いてる」
獣人のクリリでも冬は寒いのか。あの尻尾フカフカでさわったら暖かそう。
「なんかナナミさんの目つきが怪しいんだけど...」
「えっ? 怪しくないよ。クリリの尻尾が暖かそうって思ってただけだから」
「まさか首に巻きたいとか思ってないよね」
クリリの尻尾を首に巻く? 気持ち良さそうだけどちょっと長さ的に無理だよね。私が真剣に考え込んでいるとジリジリとクリリが離れて行く。
「ナナミ、お前誤解されてるぞ」
「誤解?」
「まさか本当にクリリの尻尾で襟巻き作ろうとか思ってるのか?」
クリリの尻尾で襟巻き。暖かそうだ。モフモフだぁ。ん? クリリの尻尾で襟巻きって.....。
「いや、流石にそんな事しないから。ちょっと逃げないでよ~クリリ~ぃ」
クリリの尻尾で襟巻きって変なこと言わないで欲しい。クリリに尻尾がなくなるなんてクリリじゃないよ。
たまにお金に困った獣人が尻尾を売ることがあるらしい。でもそれってとても残酷な気がする。
「でも尻尾がなくて困らないの?」
「毛はまたすぐ生えてくるからって気にしない人もいるんだよ。でも毛を刈られた尻尾は惨めだよ」
クリリの言葉でホッとした。なんだ毛を刈るだけなんだ。てっきり尻尾ごと売られるのかとおもちゃったよ。うげぇ、なんかすごいこと想像したから気分が悪くなってきた。詳しく聞くと私が想像していた通りに尻尾ごと売る人もいるそうだ。襟巻きとかになるのかはわからないけどクリリが私から離れるはずだよね。
「まさかクリリも尻尾の毛を売ったことがあるのか?」
タケルが何を思ったのかクリリに尋ねている。
「うん、院長先生の誕生日プレゼントを買うためにね。大きい上着を着て毛が生えるまでは隠してたんだ」
誕生日プレゼント? なんか懐かしい言葉だ。あれ? クリリがこの店に初めて買いに来た時に言ったセリフだ。確か院長先生の誕生日プレゼントにってオールド眼鏡を買ってくれた。ってまさかあのオールド眼鏡の為に尻尾の毛をを売ったの?
「まさか院長先生のオールド眼鏡を買うために尻尾の毛を売ったの? あれ? でも私と出会った時は尻尾に毛があったよね」
「うん。別にオールド眼鏡を買う為に売ったわけじゃないよ。売ったのはもっと早い時期なんだよ。院長先生のために毛を刈ったって知られたら喜んでくれないかも知れないから、前もって売ってたんだ。でもそのおかげでオールド眼鏡を買う事が出来たし、こうしてナナミさんやタケルさんたちと知り合いになれたんだからね。売ったことは後悔してないよ」
そっか。それなら良いけど。あの時クリリは怪しいお金じゃないって言ってたもんね。でもまさか自分の尻尾の毛を売って作ったお金だとは思わなかったよ。
でもオオカミの毛皮は聞いた事はあるけど、毛だけを何に使うんだろう。羊の毛だったら使い道があるけどオオカミの毛? うーん。あとでタケルに聞くことにしよう。
「えー。クリリの尻尾に毛がない時があったなんて! どんな感じなの? もう一回刈ってみようよー」
エミリアは空気が読めないエルフだった。残念な子だ。クリリのことも気に入っているようだが全然クリリにはわかってもらえてない。
「はぁ? もう売る必要ないから。『マジックショッップナナミ』で稼いでるからお金には困ってないよ」
クリリはそう言うと『シッ、シッ』とエミリアを追い払う動作をする。でもエミリアはメゲない。
「えー。いいじゃん。売らないのなら私がもらってあげるから毛を刈ってみようよ」
「な、何いってるんだよ。エミリアは変態なのか? と、とにかく俺に近付くなよ」