226 みかん鍋を食べよう
みかん鍋を食わせろとみんながあまりにも煩いので今日の夕飯はみかん鍋を作った。
一人用の鍋で作ったので私のは普通の水炊きにした。
「なんでみかんが丸ごと入ってるんだ」
「だからみかんが丸ごと入ってるって言ったよね」
「そうだったかな。みかん鍋って聞いてどんなものなのか想像してたからあんまりナナミの言ってること聞いてなかった」
いやいや、タケルはきちんと質問もしてたし答えてくれてたよ。もういい加減なんだから。丸ごとみかんが入ってるのを見たショックで、聞いてたこと忘れちゃったのかな。
結構聞いててもボンと出されるとビックリだよね。
みかんが茹だってるんだもん。
鍋をするときはいつも思うけど大っきい鍋が欲しい。プリーモさんに頼んでみようかな。
小さい鍋で一人一人食べるのはなんか鍋って気がしないんだよね。鍋焼きうどんの時は今の大きさで十分なんだけど。
「大きい鍋で鍋パーティーとかしたいよね」
「そうだな。闇鍋とかも面白そうだ。ナナミは闇鍋じゃなくてもこっちの野菜とかあんまり知らないからクリリやコレットさんが持ってきた食材だと手が出せないかもな」
この世界の野菜は変わってるものがあるのでギャーギャー叫ぶ食材はやめて欲しい。とても食べる気がしないよ。
「闇鍋ってどんなものでも入れていいの?」
クリリが珍しくちょっと悪い顔で聞いてくる。何かたくらんでる顔だ。
「ああ。食べれるものならなんでも良いな。俺はちくわの中にワサビを大量に入れて鍋に入れたことがある」
ちくわの中に大量のわさびって……。
「それってわさび溶けて出て来るんじゃないの?」
「正解。もう鍋のなかがぜんぶわさびに占領されてわさび鍋になったよ」
闇鍋はやめておこう。クリリもヤバそうなものを入れそうだし、タケルも何を入れるかわからない。もっと違う鍋パーティーがしたい。ヤバイ系じゃなくて美味しい系が良いよ。
「闇鍋は反対! 」
「なんだよ、ナナミはわがままだなぁ。じゃあナナミは何が入れたいんだよ」
「それは、やっぱりフグとかカニでしょう。鍋の定番だよ」
「カニ? 今カニとフグって言ったのか? よりにもよって海の中で一番凶悪な二つを食べたいとか言うのか?」
え? この世界にもフグやカニがあるの? タケルが何か喚いてるけど気にならない。この世界にカニやフグがいたなんて。ああ、どうして去年は気付かなかったのかな。
「タケルはカニ好きだと思ったのに」
「日本では好きだったけどここのカニは大変なんだよ。捕獲するのも大変だけど茹でてる間も暴れるからとてもじゃないけど鍋にならないよ」
「ずっと暴れてるの? そんなものどうやって食べるの?」
「さすがに身だけになったら暴れないよ。身だけにして鍋に入れるか?」
「なんか違う。カニ鍋にならないよ。じゃあフグ鍋にしよう」
「猛毒だから。捌ける人なんていないから。それにこっちのは大きいから味も違うと思うぞ」
「えー、せっかく海鮮鍋にしようと思ってたのに」
「海鮮鍋かぁ。それはいいな。セルビアナ国のウータイで海鮮買って来るから明日は海鮮鍋にしようぜ」
「あれ? 海鮮鍋はいいの?」
「ホタテとか白身魚の切り身は売ってるから、エビも確か鍋にできるのがあったはずだ」
なんだエビもホタテもあるのか。それなら美味しい海鮮鍋ができそうだ。カニとフグは残念だけど仕方ないね。
「明日は海鮮鍋で良いけど、今日のみかん鍋を先に食べてよ」
私がそう言うとタケルは神妙な顔になった。あんなに食べたがっていたのに実物を見ると躊躇するとは困ったものだ。
ぷかぷかと浮かんでる丸ごとみかん。もちろん皮付き。皮ごとパクリと食べるのがみかん鍋のみかんの食べ方だ。
「さあさあ、食べて見てよ。皮ごとパクリだからね」
「本当に皮ごとなのか?」
「そうだよ〜。鍋奉行の人が言ってたもん」
私の勧めでみんな鍋から茹だったみかんを取り出して口に運ぶ。
「………」
「ん……」
「ミョ………」
微妙だ。反応が微妙だったけど残さず食べてくれた。
まあ、こんなものだろう。たまにすごく美味しいと言う人もいるけどね。
ちなみにタケルたちには言わなかったがみかん鍋に使うみかんは環境保険協会からの厳しい検査をクリアした専用の焼印がされているらしい。農薬とか怖いもんね。もちろんこの世界でそんなみかんが手に入るわけないから普通のみかんを使ってみかん鍋にしたんだけど(すごーく洗ったよ)……。
タケルもクリリもエミリアさんも丈夫そうだから大丈夫だよね。