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225 『デンタク』を売ろう


『デンタク』の売り上げは順調だ。とは言ってもほとんどは商業ギルドを通して売られている。店で売れるのは一日一個くらいだ。それは『デンタク』が普通の家庭では全く必要としない物だということと『デンタク』の存在が知られていないからだと思う。


「便利だけど家では計算なんてしないからいらないわね」


コレットさんも必要ないわと言っている。この世界の主婦は家計簿なんてつけていないらしい。


「コレットさんも家計簿とかつけたほうが良いですよ」


私は前の世界ではお小遣い帳すらつけていなかったのにコレットさんには家計簿を勧める。


「カケイボですか?」


「そうですよ。家計簿は家庭での収入と支出を記録する帳簿のことです。店でもしてることですが、これをすることによってお金の流れがわかるから何に使いすぎているのかも一目瞭然ですよ。貯蓄を増やすためにもオススメです」


サッと百均で買ってあった家計簿を差し出す。


「これは見本にあげましょう。特別に『デンタク』も付けますから試してみてください」


これは投資である。異世界の主婦にも家計簿なるものが通用するのかコレットさんに試してもらう予定だ。ふふふっと笑みを漏らしていると視線を感じた。エミリアとクリリだ。


「もしかして二人も欲しいの?」


コクリと頷く二人。でもこの二人に家計簿がいるとは思えない。


「二人は家庭を持ってないからいらないと思うよ」


ショックを受けたような顔で私を見るので仕方なくお小遣い帳を二人には渡した。もちろん『デンタク』付きで。

三日坊主で終わりそうな気もするけどね。

かくいう私も三日坊主で終わった。店の帳簿は仕方がないから毎日つけてるけど、仕事以外では計算なんてしたくない。しなくてもいいことはしない主義だ。


「でも『デンタク』は店ではあまり売れないけど今後は数を減らしますか?」


コレットさんの問いに私は首を傾げた。確かに『デンタク』のスペースは広い。勿体無い気もするけど、これから女性ものの雑貨は隣の店に移す予定だから、店がガラガラになっても困る。


「落ち着くまではこのまま行こうかなって思ってるの。宣伝の意味も込めてもうしばらくは『デンタク』を十分置いて……」


『カランコロン』


ドアを開けたと同時に慌てて入ってきたのはプリーモさんだった。


「酷いじゃないですか! 『デンタク』を売りに出したら教えてくださいって言ってたのに」


そんな約束してたかな。全然覚えがないけどプリーモさんの妄想じゃないの?


「待ってください。プリーモさんはよその国との取引があるから大量には売れませんよ。まだよその国に売るのは禁止されてるので」


「え? そうなんですか? 」


前は定価で卸してたけど最近はプリーモさんの店には二割引で卸している。このデルファニア国内で売るのは問題ないけど決めるのはプリーモさんだ。


「そうなんですよね。それでも売りますか?」


「それでも十分売れますよ。わざわざここまで買いに来れない方も多いんです。王都は近いようで遠い。ここにまで来るための旅費で『デンタク』が一つ買えるんじゃ話になりません」


プリーモさんはこの街に来るまでがどれだけ大変なことか延々と話している。私もこの間ダンジョンまでの馬車の旅を経験したので身につまされる話だ。


「わかりました。プリーモさんに卸しましょう。でも約束は必ず守ってくださいよ。王命ですからね」


「私だってこと命が惜しいですから王命には背きませんよ」


どうやら王命に背くと命を取られるらしい。そこまでとは思っていなかったので怖くなった。これはタケルに相談しておいたほうが良さそうだ。私は気をつけていてもうちの商品をかっただれかが売った場合も連帯責任を取らされるなんて嫌すぎる。


「プ、プリーモさん。王命ってそんなに大層なことなんですか?」


「そりゃそうでしょう。私たちは平民なんですから王様に逆らったら一瞬でチョンですよ」


プリーモさんは首のところを手で斬る真似までして教えてくれた。

貴族とか平民とかこの一年であまり考えてこなかった。サイラス様は王様だけど偉ぶったところがなかったので誤解していたようだ。私はタケルと違ってこの世界の救世主ではないただの平民にすぎない。ここは日本とは違って裁判とかもなくいきなり首を斬られる事もある世界。

この間は人買いに驚いたけど、まだまだ私はこの世界のことを知らないらしい。

この後、プリーモさんは店の中を散々見尽くして気に入ったものを買うとホクホクとした顔で帰って行った。

私はプリーモさんが落としていった爆弾のせいでタケルが来るまでティーグルのそばでゴロゴロしていた。落ち着かない時はモフモフしていると気分が紛れるのだ。

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