223 みかんを食べよう
「もう、悪阻も落ち着いた頃ね」
ベリートリア国の王妃、カホ・ベリートリア様が悪阻で苦しんでいると聞いて心配していたが、ミニ白あんぱんやヨーグルトなど日本の懐かしい食べ物で食欲も回復したと聞いていた。
異世界でもやっぱり悪阻ってあるのね~って人ごとのように思っていたが、もしこの世界ので一生暮らしていくのならいずれは私も同じ目に会うのか。どうも魔力のせいで普通の妊娠よりも身体の拒否感みたいなものがあるらしい。どんな病気も跳ね返す女神様の加護も病気ではないからか悪阻には役に立たなかった。カホ様のお見舞いに行った時のカホ様のやつれた姿。綺麗な人はどんな姿も美しく見えるから不思議だ。
「ああ、この間様子を見に行ったら元気そうだったよ。そういえばみかんが食べたいって言ってたな」
「百円コンビニに売ってるけど、この世界にみかんはないの?」
柑橘類ってありそうなのにないのかな。
「オレンジに似たのはあるけどみかんは見たことないな」
タケルも食べたそうだから百円コンビニで買えるだけ買っておこう。みかんって食べやすいからついつい何個でも食べてしまうのよね。
「みかんって美味しいの?」
いつのまにかクリリが……ってエミリアもいるよ。みんな食べ物のことになると耳が良くなるんだから。
「そうだな。こっちのマリンダに似てるかな。マリンダは皮が厚いけどみかんは皮が薄いから食べやすいんだ」
「マリンダって食べたことないよ。売ってるのは見たことあるけど」
クリリは物知りだけどお金のかかることの経験値は低い。でもマリンダって私も食べて見たいな。
「マリンダ食べたい。クリリ、買いに行こうか」
「うん。前から食べたいなって思ってたんだ」
「えーー?どうしてマリンダなの? ここはみかんを食べましょうってなるでしょ普通は」
エミリアが文句を言ってるけどみかんは百円コンビニでいつでも買えるけどマリンダは市が開いてる時にしか買えない。よってみかんよりもマリンダを優先する。
でもあまりにもエミリアがガックリしてるので一個百円のみかんを人数分買った。
「これがみかん!」
エミリアが目を輝かせてみかんを見る。
エミリアもクリリも見てるだけで手を出さない。
「どうしたの? 食べないの?」
「食べ方がわからないんだろ。こうやって手で剥いて食べるんだよ。中の薄皮は食べてもいいし残してもいいからな」
「わー。本当に手で簡単に剥ける」
クリリはタケルを真似てみかんのヘタがある方から向いている。私は反対側から剥く。人によって剥き方に癖があるんだよね。
「これはマリンダと確かに似てるけど、このみかんの方が甘いし食べやすいわ」
エミリアはマリンダというのを食べたことがあるから比べているみたいだ。
私も久しぶりのみかんを食べる。みかんが入ってるゼリーとはまた違った感じで美味しいよね。
ああ、でもこのみかんはいつも食べてたみかんよりも甘い気がする。値段の違いかもしれない。
「ああ、そういえばみかん鍋ってあるのよ」
「「「みかん鍋???」」」
なんでタケルまで驚くの? 結構有名ななべだと思ってたんだけど違ったのかな。
「それってどんな鍋なんだ?」
タケルがちょっと嫌そうな顔だ。
「鍋はこの間したからみんな食べたことあるよね」
この間の鍋はごく普通の鍋だ。ポン酢で頂いた。
「みんなで一つの鍋を食べるって新鮮だったわ」
「まあ、みかん鍋ってその具の中にみかんがまるごと入ってるのよ」
「なんだそれは。うまいのか?」
「一回だけ食べたことあるけど……」
「どうだったんだ?」
三人が私の答えに注目している。う、言わない方が良かったかな。
「……内緒」
「はぁ?」
「えー!」
「へ」