221 ティーグルと空を飛ぼう 2
ティーグルが空を飛んだ瞬間、私は目を閉じていた。ナムサンと思わず唱えていた。
ふわっと浮く感じは飛行機の飛び立つ時のアレに似ている。シールドもおかげか寒くもないし風もあたらない。これならなんとかなりそうだ。そう思って目を明けると別世界だった。
飛行機から外を見るのと違って、眼に直接映る大自然と、大きな建物がとても小さく見え不思議な光景だった。そして静かで穏やかなこの感じは表現できない。
「わぁ〜! 私、空を飛んでるんだ!」
「ニャニャーー、ニャニャ!」
「なんだ、思ったより平気じゃないか。もっと興奮して大変なことになるかと思ってたよ」
竜に乗ったタケルが隣に並んだ。なかなかサマになっていていつもより三割増しかっこよく見える。
「でも不思議な感じ。だって猫が空を飛んでるんだよ。翼があるけど人を乗せて飛べるなんてビックリだよ」
「ウイングドキャットは気まぐれだからなかなか人を乗せて飛んでくれないんだからナナミはティーグルに気に入られてるんだよ」
「ニャニャーー」
なんかティーグルがそうじゃないって言ってる気がするのは気のせいだろうか。基本的に怠け者のティーグルが逆らうことのできないタケルとエミリア。二人に強制されて……。まあ、いいか。運動不足だと猫も長生きできないって聞くし、空を飛ぶのも結構楽しいからまた飛んでもらおう。
「あ、あれが教会なんだ。上から見てもやっぱり大きいわね。それに敷地もすごく広い。あんなに大きな教会がこの街にあるのって変な感じ」
「俺も最近、気になって調べてるんだけどあの教会は今から百年くらい前に巫女姫さまが女神さまからのお告げを受けたことによって建てられたって話だ」
「女神さまからのお告げって、そんなのがあるの? と言うか巫女姫さまって言うのも初めて聞くんだけど」
「あるんだよ。そのお告げのせいで此処に教会が急遽建設されて領主さまは隣街に住居があったのにこの地に引っ越され、ここにガイアって街ができた。それまでは小さな村があっただけだったらしいぞ」
「女神さまからのお告げってそんなにすごいんだ。だってあの教会この間見た王都の教会に匹敵するくらい大きいもの」
「女神さまがわざわざお告げするくらいだからこの街で何か起こるのではって思われてたんだけど、百年たった今も何も起きてない……最近ではお告げがあった事すら忘れられそうだって話だ」
女神さまにとっての百年と私たち人間の百年はきっと違うのだろう。だから本当に女神さまのお告げがあったのならいつかこの街に何かがあるのかもしれない。私はなんとなくだけどそんな気がした。
教会が見えたらもうタケルの屋敷の位置は私にもわかる。私は孤児院で子供達が遊んでいるのが見えたので思わず手を振った。すると一人の子供が気づいたようで何か叫んだ。するとみんなが私たちを見るために空を見上げる。手を上げて何か叫んでいるようだが、遠くて声が届いて来ない。
私はティーグルに頼んで三回ほど孤児院の上を回ってもらった。タケルもため息を吐かれたけど私と一緒に回ってくれた。子供達が喜んでくれた何よりだ。
その後はタケルの家に一直線で帰った。ティーグルの背中から降りる時は不覚にも転びそうになった。思ったよりも力が入っていたみたいで体が固まっていたのだ。
転びそうになった私を助けてくれたのはクリリだった。クリリはここで待っていてくれた。ちょうど休憩時間になったので自転車でここまで来て私たちを眺めていたそうだ。
「俺もティーグルに乗ってみたいなぁ」
「今日はもう疲れてるけど今度乗せてもらえばいい。ナナミより軽いから喜んで乗せてくれるさ」
むむぅ。クリリは子供なんだから私より軽いのは当たり前だよ。それをネチネチと……。
でも確かに今日はお疲れだったみたいで眠たそうな顔になっている。本格的に寝てしまう前に帰った方が良さそうだ。
「竜って誰にでも召喚できるの?」
クリリは竜が召喚したいのかタケルに尋ねている。私はモフモフのティーグルの方が良いけどクリリは男の子だから竜にも乗りたいのだろう。
「どうだろうな。俺は他には見た事ないけど俺にできるんだからできるんじゃないかな」
タケルは簡単そうに言うが、勇者のタケルにできるからって誰でもできるとは思えない。クリリもそれがわかったのかがっくりとしていた。