220 ティーグルと空を飛ぼう 1
翌日の持ち越されたティーグルと空を飛ぶ計画は忘れてくれという私とティーグルの願いもむなしく翌朝には実行されることになった。
「タケルってばいつもは昼から現れるのに、今日はどうして朝からいるのよ」
「どこかの誰かが逃げ出さないようにだよ。それに昼からやってまた明日ってことになったらいけないだろ? 今日は余裕を持って行動することにしたんだ。きのう、失敗したからな」
どうやら逃げることは許されそうにない。あんな山の上から練習しなくてもいいと思うんだけど。ここの屋根の上からとかでも良くない? もし落ちたらどうするのよ! いくら女神様の加護があるっていってもあの高さから落ちたらグシャだよね。
有無を言わせず昨日と同じ山の上に私とティーグルは転移させられていた。もう家に帰るにはティーグルと空を飛ぶしかない状況だ。これって泳げない人を海に投げ込むのと同じだよね。それで泳げるようになった人の話は聞いたことあるけどそのまま溺れた人もきっといると思う。
「もしもの時には俺が助けるから大丈夫、大丈夫」
こういう時だけはタケルも頼もしいかもしれないけど、突き落とす本人に言われてもね。
「タケルはどうやってついてくる気なの? もしかして飛べるの?」
「いや、俺は召喚して竜を出すから」
「竜?」
私が尋ねるとタケルはあっという間に竜を召喚した。
ティーグルが心なしか青ざめている気がする。私も青ざめてる。物語で想像するのと違って超怖いんですけど。存在感もすごいけど爬虫類の大きいのってやっぱり生理的に受け付けないっていうか……。
「可愛いだろ? ミーヤンって言うんだ」
なんだ、その猫みたいな名前は! ツッコミたいけど怖くて突っ込めないよ。どこから見ても可愛いとは思えない姿だ。これを可愛いと言えるタケルってある意味すごい男だ。
「コ、コンニチワ」
怖いけどお世話になるかもしれないから挨拶だけはしておこう。
「キーーーー!」
竜は私の言葉に返事をよこした。目が笑っているようだ。とても綺麗な目をしてる。遠くまで見通すかのように私を見つめてくる。日本では想像上の生き物だった。それなのに何故か干支に竜が入っているのだから不思議だ。でもこの竜は日本や中国で考えられてた竜とは違ってどちらかといえば西洋の竜だ。竜騎士の物語はとても好きだったなぁ。乗りたいって思ってたけど実物を見ると腰が抜けちゃってそれどころではない。
「乗ってみるか? ティーグルと違って二人乗りも楽勝だぞ」
「ゴエンリョシマス」
二人で乗れるのはありがたいけど竜に乗るのは遠慮したい。モフモフのティーグルの方が乗り心地も良さそうだ。でもティーグルがちょっと頼りない。寝てるところしか見たことがないのだから仕方ないか。
タケルに促されてティーグルの背中に乗った。そしてシールドを張る。これをシールドと言ってるけど少し違うのかもしれない。シールドって盾っていう意味だからこんなティーグルごと風の抵抗を感じなくさせるのって違う気がするのだ。でもこれのおかげで冬なのに寒くないし雨が降ってきても平気だ。……たぶん。
「下は見ない、下は見ない」
下は見ると怖いから下は見ない。シールドもあるから大丈夫。
「目はつむるなよ。ティーグル、ナナミに任せてたらいつまでたっても家に帰れないぞ。あと行き先は俺の家だ。まだナナミの店には降りられないし、竜が現れたら驚かれるだろうからな」
おいおい、タケルさんや。なんで行き先をティーグルに言ってるのかな。
「なんでティーグルに行き先言うのよ。ティーグルに分かるわけないでしょ」
「へぇ、じゃあナナミはわかるのか? ティーグルにどっちに進めば俺の家か言えるのか?」
タケルに言われ山の上から街を眺める。タケルの家ってどの辺だっけ? 私の家は? 孤児院は?
全然わからん。でもきっと近くまで行けばわかるはず。
「ふん、近くまで行けば大丈夫よ。ティーグルより私の方が……」
「ニャニャニャー(俺に任せろ)」
生意気にもティーグルは私のセリフを遮ってタケルに何か訴えている。
タケルは私とティーグルを見て
「任せたぞティーグル」
とだけ言った。なんでだよー。