219 散歩をしよう
「今日はティーグルと散歩に行くぞ」
タケルが宣言したのは昼ごはんが終わった時だった。ちなみに今日のお昼はカレーの焼きドリアとシーフードサラダだった。食べたばかりで動く気がしなかった私は
「嫌だ、勝手に行けば」
と言ったが
「太るぞ」
と言われ泣く泣く散歩に行くことになった。足元を見ればティーグルも行きたくなかったようで
「ニャーー!(しっかり断れよ)」
と鳴かれた。
散歩と言ったのでてっきり街の中を散歩するのだろうと思っていた私は何故か山の上にいた。そうハングライダーとかそういうのこういう所に来るよねーっていいう感じの山の上だ。確かに景色はすこぶる良いけど散歩だよね。帰ろうよ。ティーグルは諦めているのか目が虚ろだ。
なんか嫌な予感がする。ティーグルは今から何が行われるのか本能で察したのだろう。
「エミリアの話だとティーグルもやっと人を乗せて飛べるようになったそうだ。とは言ってもまだエミリアを乗せただけだ」
そこで一息つくと私をチラッと見て首を振る。なんかバカにされた?
「ダイエットすると言ってたから期待してたが一向に改善されないようなのでティーグルに頑張ってもらう。エミリアよりは格段に重いだろうが落とすなよ」
最後の言葉はティーグルに言ったようでティーグルも私を見て溜め息をついた。
「春までには痩せる予定だから大丈夫だよ。今冬だから寒いし、何もこんな季節に空を飛ばなくてもいいんじゃないかな」
「この間は冬までに痩せるって言ってたよな。その前は夏痩せするからって言ってた。ナナミの痩せるからは信じらんねーよ」
それを言われると何も言い返せない。でも嘘をついた訳じゃない。本当に痩せる気だけはある。ただ痩せないだけで……。
「でもさ、なんか寒いし風邪を引きそうだよ」
「ナナミは女神の加護があるから滅多なことでは風邪なんか引かないから大丈夫。それより先にバリアの要領でシールドを張る練習だ。これができれば寒さも感じなくなるはずだ」
何よ、そんな便利な魔法があったのなら初めから教えてくれれば良いのに。タケルが寒そうにないのはそのせいだったのね。
「バリアじゃダメなの?」
「ニャニャニャーーーー!!!!」
なんかティーグルが必死で私に訴えて来る。何か怒らせるよなこと言ったかなぁ。
「ティーグルをグシャってしたいなら止めないが……」
そうだったグシャってなること忘れてたよ。
「それならティーグルごとバリアで包み込んだらどうかな」
「それでも良いけど、空の上は鳥がいっぱいだぞ。鳥がグシャってなってバリアが血だらけになるかもな」
何それ怖い。私は血だらけになったバリアを想像してティーグルと一緒にブルブル震えた。(でもこれはタケルが魔力を大量に使うバリアを使用させないための嘘だったことが後でわかるんだけどね)
仕方ないのでシールドを張る練習をする。これがなかなか難しい。最近、魔法の練習をサボっていたからかも。私の練習を温かい目で見守ってくれていたティーグルもいつの間にか日の当たる場所を見つけて丸くなっている。私がシールドを張れるようになるまで出番がないから寝たくなる気持ちはわかるけど目の前で気持ちよく寝てられると腹がたつ。タケルもスマホいじって遊んでるし。絶対ゲームしてるんだよ。でもスマホのゲームってオンラインでなくても遊べるのかな。課金も出来ないし楽しくないと思うんだけど。いや課金地獄に陥いるよりはマシか。
結局、私がシールドを張れるようになったのは日が落ちそうな頃だった。
「さすがに初心者が日が暮れてから飛ぶのは危険だから明日にするか。せっかくティーグルを連れてきたのに無駄になったな」
よくよく考えたらシールドの練習なら家でも良かったのに。こんな寒いところで練習しなくても良かったのに。女神様の加護があって風邪をひかないからって寒いものは寒いんだからね。
タケルにはいっぱいいっぱい文句を言ってやった。
「まさかシールドの張れるようになるのにこんなに時間がかかるとは思ってなかったんだよ。ナナミって本当に予想を外す事ばかりして……治癒魔法は教えなくても直ぐ使えたのに」
なんかタケルがブツブツと呟いてるけどスルーした。早く帰って暖かいところで鍋にでもしようかな……。