217 『ビビ』クリームを売ろう
隣の倉庫はもう工事が始まった。冬にわざわざ工事しなくてもと思わないでもなかったけど、エミリアが張り切っているので急ぎで工事してもらう事になった。
ティーグルの部屋もかなり広く上の天井が魔法で開くタイプだ。雨の日に閉めるのを忘れないようにしないと大変な事になりそうだなと思った。
ハンバーガー好きのエミリアが今ハマっているのがホットケーキミックスで作ったカレーパン。タケルとクリリには前に食べさせたことがあったのでそれほど驚かなかったんだけど、エミリアはカレーパンの美味しさに目を丸くした。パンを焼くのではなく揚げる事にも驚いたようだ。
揚げたパン特有の香ばしい匂い、ホットケーキミックスを使ったせいか甘い匂いも漂っている。それだけでも食欲を刺激するのにパンを二つに割るとカレーとチーズの匂いがするのだ。
「今日のカレーパンはチーズまで入れてるのね!」
エミリアがカレーパンにかぶりつく。アツアツにカリカリの食感に夢中だ。
「今日のカレーはゴルギーの肉も沢山入ってるのよ」
ゴルギーと聞いた途端にクリリの尻尾がブンブン動く。クリリの好物はゴルギーのお肉。狼だから本当は生で食べたいのかもしれないけど、生で食べてる姿を想像すると怖いので聞いたことはない。
「あれ? タケルは今日もいないの?」
「うん。今度は風邪薬と栄養ドリンクを調べてもらうってまた領地の方に帰ったの。明日には帰ってくるって言ってたよ」
今度ダンジョンに行く時は『手紙』で知らせるようにって何度も言ってたよ。よっぽどダンジョンに行きたかったんだね〜。
「この豆乳化粧水と米ぬか化粧水を試したけど肌に良いわ」
コレットさんはカレーパンを食べながらエミリアに化粧水と乳液の感想を言ってる。百均の商品を売るにあたって気になるのが異世界人の肌にも大丈夫なのかってこと。これからは大々的に売りに出すので変なものがあったら大変だ。
私が心配しているとタケルは心配ないだろうと言ってた。一年間百均の商品を売ってきたが不良品は全くなかった。おそらく女神様経由で買っているので不良品は存在しないのではないかとタケルは言う。だから化粧品もきっと大丈夫だって言うんだけど、だったら風邪薬を調べる必要もないと思う。どうして薬のことは心配するんだろう。
「ねえ、この『ビビ』って下地クリーム厚塗りにしなくても隠したいものが隠せることができるでしょう。きっと開店の時の目玉商品になるわよ」
「私はこの眉ブラシやチークブラシが売れると思うわ。これで眉を整えたら別人になるから」
コレットさんもエミリアも試供品を試しては何を売るべきかを検討しているのだけど、私が提供した試供品のどれもが気に入ったようでほとんどの商品は売る事になりそうだ。
この世界で売ってる化粧品は鉛が使われているものが多いので、肌あれがすごくそれを隠すためにさらに厚化粧になっているとエミリアが文句を言ってた。エミリアは化粧をしなくても肌が白いので、肌が荒れても鉛入りの白粉を使う人の気持ちは理解できないが、少しでも美しくなりたいと願う女性の手助けをしたいとは思っているようで積極的に『ビビ』クリームを宣伝すると言ってる。
エミリアのやる気満々の姿を見ていると『ビビ』クリームはもしかしたらこの国だけじゃなく世界中でヒットするかもしれないなと思えてきた。百均の商品は品切れしたら入荷しなくなる事があるから多めに買ってた方が無難かもしれない。
私は百均を開くと『ビビ』クリームを大量に注文した。