215 栄養ドリンク
栄養ドリンクのことを思い出してタケルに話したのはダンジョンから戻って数日も経ってからだった。
コレットさんが売って欲しいと言ってきたので思い出したのだ。コレットさんは自分が飲む為に欲しいのではなく、旦那さんのためだった。
めっきり寒くなって夜の見回りが辛い季節だ。彼のために栄養ドリンクを渡したいというコレットさんの気持ちはよくわかる。でもコレットさんの場合は手料理のレパートリーも増やした方が良いと思うけどね。カレーばっかりじゃあ倒れてしまうよ。
「一日一本だからね。これを守らないと大変な目にあうよ」
コレットさんに格安で栄養ドリンクを売った。散々脅しておいたので一日一本は守ってくれるだろう。
タケルにはコレットさんに売った後に話した。栄養ドリンクが何故か私たちと違って異世界人にはものすごく元気になるというと驚いていた そしてついでに風邪クスリのことも話した。
ダンジョンからの帰りにあらかじめに聞いていたヨークとドールの家に寄った。すると彼らの母親はとても元気で病気には見えなかった。彼らに騙されたのかと思ったが、騙していたのなら本当の住所は言わなかっただろう。
ヨークはクスリと栄養ドリンクを飲ませた途端に母親が元気になったのだと喜んで教えてくれた。さすがにおかしい。クスリを飲んだからといってすぐに治るものではない。おそらくもう治りかけていたのだと思う。
「どうもクスリにしても栄養ドリンクにしてもあっちとこっちでは効き目が違うようだな」
「治らないよりは良いけど、私たちって病気したらこっちの治療で治るのか心配だね」
私がこの間から心配をしている事を話すとタケルから呆れたような表情をされた。
「ナナミは女神様の加護があるんだから病気の方で逃げていくさ。まあ、女神様の加護が効かない病気が流行したらナナミだけでなく、この世界がヤバイってことになるんだろうけど」
女神様の加護って病気にもかからないの? タケルが言ってるだけだからどうなんだろう。まあこの異世界で病気にはなりたくないから助かるけど。
「風邪クスリも数に限りがあるんだったらあんまり使わない方がいいな。クスリを求めて押し寄せて来られても困るだろ。他のものなら売り切れてますって言えば諦めてくれるが、クスリだと諦めないだろうから厄介なことになるぞ」
タケルの言ってる事はもっともだと思ったので、風邪クスリは広めないことにした。百均の商品はいくらでも用意できるけどクスリは数が少ない。暴動とか起きる可能性だってあるのだ。
「うん。わかった。気をつけるよ」
私が神妙に頷いたのに、タケルはまだ心配そうな顔で私を見てた。それを見て心配性な父親みたいだと思った。




