214 領地でのタケルータケルside
俺がいない間にナナミがダンジョンに行っていたと聞いてショックを受けた。まあ、ナナミのバリアは無敵だしエミリアもコレットも強いから危険は少ないだろう。だが万が一という事もある。自分がいない所で危ないことをして欲しくない。それが愛なのかと聞かれればよくわからないとしか言えない。ただナナミにはいつまでも隣にいて欲しいと思っている。
今回ナナミをおいて領地に戻っていたのは書類にサインをすることが主な仕事だったが、ナナミから貰ったタミ◯ルの効果について聞くためでもあった。
ナナミには内緒だが人体実験を行なっていた。もちろん先に動物で実験しているから死人が出るような薬ではないとわかったからだ。さすがに死人が出るような薬で人体実験しようとは思ってない。
毎年この時期になると日本でいうインフルエンザのような症状で死んで行く人が何処かの国で必ずいる。『コルダ』と呼ばれている病気は今年はどこの国で流行るのかまるで予想がつかない。
「その男はこの国の人間ではないんだな」
俺がルドリアに尋ねると彼は頷いた。
「流れ者のようです。この国に来たのも事件を起こす前日のようです。たまたまそれがうちの領地だったみたいです」
家畜を盗もうとして捕まった男だった。その男は捕まった日の夜から高熱で倒れた。その症状が『コルダ』を思わせたのですぐに隔離したらしい。
「それで薬は効いたか?」
ルドルアから手紙で知らされた時すぐにタミ◯ルを使うように指示した。人体実験になるが死ぬよりは良かろうと判断したからだ。
「はい。そのおかげでしょう。今は熱も下がりました」
「そうか。それならこの薬は使えそうだな」
「はい。まだひとりなので全員に効くかどうかは分かりませんがこの薬によって何十人、何百人が助かることになるかもしれません」
ルドリアが興奮したように喜んでいるが、残念ながら何百人も助けられるほどの量はない。
「いや、これはもう作れないんだ。使える量は決まっている」
「えっ! そうなんですか! だったら早めに買い占めましょう」
ルドリアの言いたいことはわからないでもないが、さすがに買い占めるわけにはいかないだろう。ナナミは一応違う国の人間だからな。
「いや、それは無理だ。それよりこの薬をもとにして同じものが作れないか試してくれ」
「同じものですか? 薬師も見たことのないものだと言ってましたから無理ではないでしょうか」
「魔法でもなんでも使って同じものが作れないか考えてくれ。もし成功したら毎年何人の人間が助かる事になると思う?」
ナナミはきっと熱が出て死にかけている人がいたらタミ◯ルを惜しむことなく渡すだろう。その薬のおかげで助かったと噂が広がれば薬を求めてどれだけの人がナナミに会いにくるだろうか。薬が際限なくあるのなら何の問題もないが数が限られているのだ。
女神様も何を考えてタミ◯ルをナナミにプレゼントしたんだか。もしかしてあのガイアの街で『コルダ』が流行するのか? 女神様なら流行するのがどこの街か知っててもおかしくない。
「あれ、タケルぜんざいのお代わりいらないの?」
俺は領地での事を考えてぜんざいを食べる手が止まっていたらしい。慌てて掻き込む。何しろここにはライバルが多いから下手をすると全部食べられてしまう。
「私もお代わり。このお餅ってとっても美味しいわ」
「エミリアったらお餅は喉につまらせる人がいるから気をつけて食べてよ」
ナナミとエミリアの平和な会話を聞きながら、やっぱり薬の開発は急いだ方が良さそうだなと思った。