197 エミリアは力持ち
「えっ、じゃあこのエミリアがタケルさんと魔王退治に一緒に行ったの? あの吟遊詩人の唄に出てくるエルフってエミリアなの?」
クリリはショックを受けたようで半泣きの顔だ。
吟遊詩人の唄って何? 聴きたい。どこに行ったら吟遊詩人っているの?クリリが聴いた事があるって事は酒場でだけ唄ってるんじゃないだろうし。今度連れて行ってもらおう。
でもなんでクリリはショックを受けてるんだろう。
「ああ、あれは俺も旅をしてる時に聴いたが詐欺のような内容だった。エミリアがすごく美化されて誰のことかと思ったよ」
う〜ん。エミリアって口さえ開かなければ絶世の美女も裸足で逃げ出すくらいの容姿してるから勘違いする人がいてもおかしくないよね〜
「何よ〜酷い言い方じゃないの! タケルだってたいして変わらないじゃないの。黒い髪に黒い瞳、かの君の瞳には世界の平和を願う真摯な決意が秘められている......って、全然そんなのなかったよね」
「仕方ないだろう。全然知らない世界の平和なんて願えるかよ」
確かに突然連れてこられてこの世界のために魔王と戦ってくれって非常識だよね。しかも命がけだし。タケルは日本に帰れるって思ってたから必死で戦っただけなんだろう。それが嘘だってわかった時に荒れなかったのかな。
私なら喚いて泣いて、それからどうするのか.....あれ? 今私も似たようなものだけど、なんでか相手が神様だからあまり怒りとか湧かない。変だなぁ。
「ああ〜俺の憧れのエルフが.......ショックだよ」
クリリはまだ立ち直れないようだ。もしかして初恋だったのかな。
「何よ〜クリリって私に憧れてたの? ふふ可愛いじゃないの」
「いや、エミリアのことじゃないし。全然違うし」
「照れない、照れない。さあ、食べ終わったみたいだから、スケートを教えてあげるわ」
「えっ、別に教えてくれなくていいよ〜」
「遠慮しなくていいわ。憧れのお姉さんが手とり足とり教えてあげるからね〜」
エミリアはクリリの腕を引っ張って連れて行った。クリリは抵抗してるようだけど、エルフの力はクリリより強いようでズルズルと引きずられてた。
「エ、エミリアって見かけと違って力が強いのね」
「吟遊詩人の唄は詐欺だって言っただろう。エミリアは精霊使いと言うより力技の方なんだ。力比べだけだったら俺でも負けるかもな」
エミリアと喧嘩するのはやめておこう。クリリが助けを求める視線を送ってきたが、頑張ってね〜と手を振った。