187 体重計はいらないよ
タケルは一升瓶を片手に満足そうに微笑んでいる。テーブルの上には肉じゃがや焼き鳥、餃子と百円コンビニで買える各種惣菜が並んでいる。
そして一番大事な炊きたてのご飯。うーん。いい匂い。新米かな。ふくよかな甘い香りが漂う。 百均で買ったしゃもじでみんなに取り分ける。
「これが炊きたてご飯! 美味しそうだね」
クリリは匂いに敏感だから待ちきれないだろう。
「俺のはおこげも入れてくれ」
仕方ない。今回のおこげタケルに譲ってあげよう。
「もちもちして甘い」
「ハフハフ、幸せだね。やっぱり炊き立ては違うよ」
タケルはいつものごとく飲むような勢いで食べている。あれで味がわかるのだろうか?
「ん? ナナミさんのご飯少ないよ。それにおかずもそれだけで足りるの?」
クリリが不思議そうに尋ねてくる。
「今日はお腹が空いてないの」
「ふーん」
「おかわり」
タケルが自分でよそうと全部取りそうなので私がご飯をよそう事にしたけど失敗だったかも。落ち着いて食べれそうにないよ。
「クリリ、ナナミは食べる前にそれに乗ってただろう」
タケルが部屋の隅にある四角い体重計を指差す。
「うん。あの四角いのってなんなの?」
「あれはヘルスメーターと言って、食べる前に乗ると食欲が失せるものだ」
「えっ? 食欲が失せるの? 俺は絶対に乗らないよ」
「クリリは乗っても大丈夫だ」
「よく分からないけど、ナナミさんも食べる前に乗らなければ良かったのに。食べた後ならいいんでしょう?」
「いや、食べた後に乗る人はいないよ」
「そうよクリリ。ヘルスメーターは食べる前に乗らないとね。食べた後だと増えるんだよ」
タケルにおかわりのご飯を渡す。
「ナナミ、これ少なくないか?」
「タケルもダイエットしたらいいのよ」
「俺は太ってないから大丈夫。昔からいくら食べても太らない体質なんだ」
くぅ、悔しい。明日からは私のダイエットの食事にタケルにも付き合ってもらうからね。体重計が当たるなんてハズレもいいところだよ。
「ナナミさん、もうヘルスメーターに乗らないといいよ。乗らなかったらいくらでも食べれるよ」
私から出る不穏な空気を感じたのかクリリが提案してくる。
クリリが言うように、この一年体重計はなかったから、体重を気にする事もなくいくらでも食べることができた。でもね、体重計があるのに乗らない事は出来ないんだよ。気になって仕方がないからね。
「はぁ〜、なんで体重計が当たるかなぁ〜」