184 レース編みに挑戦
孤児院の子供たちは編み物の本の説明だけで簡単なものは編むことができた。クリリみたいに早くはないけど、女の子らしい色づかいで可愛い帽子だ。
「すごいよ〜! みんな上手だね〜」
私が褒めると子供たちは恥ずかしそうに微笑んでいる。少し誇らしげな顔だ。
「これなら夏用の毛糸でカバン作ったり、レース編みでコースター作ったりは簡単にできそうだね。さっき院長先生に夏のバザー用のレース糸や毛糸の注文を受けたのでみんなこの調子で頑張ってね。来年の夏のバザーは大盛況だよー!」
「「「おおーーーー!!!」」」
レース編みは糸が細いから難しいし時間がかかるけど、冬は日が暮れるのも早いからする事がなくて丁度いいみたい。
クリリもレース編みに興味があるみたいでみんなと一緒に編み始めた。
「これ、本当に時間かかるね」
「初めは簡単なのから挑戦するといいよ、クリリ」
「うん。このコースターを作ってみる」
クリリは本の初めに載ってるコースターを作り出した。それを見てた他の子たちも一緒にあーでもないこーでもないと相談しながら針を動かす。
「これなら夏までに沢山できそうですね」
私は後ろに立っている院長先生に声をかけた。
「夏のバザーはナナミさんのおかげで売れそうなものが用意できそうですわ」
「いえ、私は材料を用意するだけで作るのは子供達ですから。それに今回は材料も買っていただいたしこちらこそありがとうございます」
材料は寄付しようと思ってたけど院長先生は夏のバザーの予算から買うと言ってくれたのだ。
「先日、パン屋のゴングさんに成人する獣人の子供がいたら春から働きに来れないかと話がありました。ナナミさんが紹介してくれたそうで本当に助かりました」
本当はパン屋のゴングさんはクリリを狙っていたのだ。ゴングさんにイースト菌の使い方を実演して欲しいと頼まれて、仕方なくクリリを貸してあげた。するとクリリのパンをこねる時の姿に惚れ込んだらしくクリリを雇いたいと言い出した。もちろん丁重にお断りした。クリリがどうしてもパン屋で働きたいと言うのなら反対はしないけど、そんな気はなさそうだったからね。
お断りしたのに未練がましくクリリを見てるゴングさんに、孤児院の成人する子供を雇ったらどうかと勧めた。孤児院の子供たちはとても働きものだし、クリリと同じ獣人の子供は力持ちが多いですよと。その時は考えてみると言っていたが雇う気になったようだ。
「それは良かったです。ゴングさんは商業ギルドのショルトさんに聞いてみたところ従業員の待遇も良いし、獣人を差別しないと言ってたので心配ないですよ」
うさぎ亭のご主人と仲が良いので大丈夫だと思っていたけど一応ショルトさんに確認しておいた。紹介したのはいいけど劣悪な職場だったら悪いからね。
「何から何までありがとうございます。ナナミさんのおかげで本当に助かります。王都の方からは就職の話もありますが、どんな職場かわかりませんから迂闊に受けられないんです。人買いもいますから気をつけないと」
人買い? 何それ! 怖い。
平和な国だと思ってたけど、日本とはやっぱり違うようだ。私は運が良かっただけなんだね。
一人で出歩くなってタケルが煩いほど言うけど、どうやら理由があったみたい。これからは気をつけよう。
そんな話を聞いたせいか孤児院からクリリと一緒に帰る時も、キョロキョロと辺りを伺いながら歩いていると
「ナナミさんどうしたの?」
とクリリが呆れたような顔で聞いてきたので院長先生から聞いた人買いの話をする。
「いくら何でもこんな大通りで攫ったりしないよ」
まあ、そうだよね。でもやっぱり人買いって怖いよ。