180 やっぱり親子丼?ーライックside
オレ、ライックは今カツ丼を作っている。ナナミさんの書いてくれた作り方は、かなり大雑把だがカツ丼の他にも親子丼の作り方も書かれている。親子丼? コッコウ鳥の卵と肉で作るらしい。なるほど、確かに親子だ。カツ丼は材料的に高くなりそうなので、親子丼の方が売れそうだな。
「お父さんこのカツ丼、とても美味しいよ」
娘のミーザはいつも美味しそうに食べてくれる。
「おう、これは美味いな。でも高いだろう」
パン屋のゴングは商売人らしく値段が気になるようだ。
「ああ、醤油の割合がよくわからなくて失敗もしたがこの味付けで良さそうだな。カツ丼はどうしても高くなるからそんなに売れんだろうが、同じ味付けで親子丼があるからこっちを主に売って行く予定だ」
オレは二人にナナミさんから教えてもらった親子丼の説明をした。コッコウ鳥は安いしこれならうちの名物になるだろう。
「このごはんはお腹にズンとくるから良さそうだけど、ごはんは高くつくんじゃないか?」
「大量に買ってくれたら割引してくれるってナナミさんが言ってくれたからなんとかなるだろう」
『マジックショップナナミ』は良心的な店で、この街にある孤児院にも大量の品を寄付している事で有名だ。小さな娘さんが一人で売ってる事でみんな心配していたが、勇者タケルの出現で被害は最小限におさめられている。
「そうそう。最近はお客さんが多いし、他所にはないものがないか聞かれるから困ってたの。サラダにつけるマヨネーズだけでも喜ばれてるけど名物になるものがあったほうがいいわ」
「で、俺に用事ってこのカツ丼のことだったのか?」
ゴングはカツ丼は美味しかったからいいけどと言いながらガツガツとカツ丼を食べる。
「いや、《マジックショップナナミ》に行ったらパンを作ってたんだ。柔らかいパンだって言ってたから教えようと思ったんだ」
「なに? パンも売るのか?」
ゴングが焦ったような顔で聞いてくる。それはそうだろう。《マジックショップナナミ》で柔らかいパン売りに出されたら、ゴングのパン屋は大打撃だ。下手をしたら倒産する可能性だってある。
「いや、売るつもりはなさそうだった。柔らかくする『いーすときん』を売るとか言ってたな。おれには『いーすときん』が何かよくわからなかったが」
「『いーすときん』? なんだそれは?」
てっきりパン屋であるゴングは『いーすときん』を知ってるのかと思ってた。ゴングが知らないと言うことは新しい発見なのか? だとしたらどうなるんだ? この街は小さな街なのにどんどん栄えて行ってる。この世界の主食はパンなのだ。どう変わっていくのか、その中心にいるゴングはきっと大きな渦に巻き込まれるに違いない。
オレは親子丼でも作りながら高みの見物だな。