178 あんぱんを作ろう 2
「カツ丼をメニューで出すんですか? 食べてから決めた方が良いと思いますよ」
《うさぎ亭》のマスターであるライックさんは少し茶色がかった長い耳をハニーブラウンの髪の間から立ててる細いけど背が高い人だ。
「いや、この匂いでわかる。絶対に美味い」
匂いでわかるんだ。うさぎなんだから耳でわかってほしかったけど.....流石に耳じゃあ無理か。
「字は読めますか?」
この世界は識字率が思ってたより低いから一応尋ねる。
「読めるぞ」
ライックさんは胸を張って答えてくれた。字が読めるのなら、説明するより書いたほうがいいだろう。
「じゃあ、作り方書いておきますね」
私は紙にサラサラと書いていく。分量は私も目分量だから適当に入れてもらおう。料理人だからきっと大丈夫なはずだ。
「今日はクリリは居ないのかい?」
「今、あんぱんを作ってるので奥にいるんですよ」
「あんぱん?」
ライックさんが首をかしげると長い耳も傾いてとってもかわいい。
「あんこっていう甘いのを中に入れてるパンです。パンもイースト菌入れてるから柔らかいんですよ〜」
「いーすときん? それを入れるとパンが柔らかくなるのか?」
キラーンと目が光ったような気がする。
「そうですね〜〜ふわふわして美味しいですよ。硬いのが好きな人もいるからどっちが良いかと言われると困りますけど」
「いーすときんとやらの事はパン屋のゴングに教えてもいいか?」
「どうぞ。イースト菌はこの店でいつでも売ってますから宣伝してください」
「わしのところのパンはゴングから仕入れてるからな。パンの種類が増えるのは大歓迎だ」
ライックさんは醤油とみりんとパン粉を買うと、私の書いたメモを握りしめて帰っていった。匂いで美味しさがわかるとライックさんは言ってたけど、実物を見てないのに説明だけで作れる料理人はいないだろうから私が食べる予定だったカツ丼を安く売ってあげた。私はあんぱんが出来たら食べるからこれ以上のカロリー摂取は控えることにした。
カツ丼を食べて満足したタケルと変わって、あんぱん作りに戻る。
一時間おいた生地は膨らんでいた。これをあんぱん入れる大きさに切って丸める。そしてベンチタイム。15分くらい待つ。
「生地って置いてると膨らむんだ。おもしれー」
「膨らむって事は増えるって事だからお得ですね」
「なんかぷにぷにして丸めるのが楽しいです」
生地を潰して中に餡を入れて詰めて閉じる。みんな初めてだから真剣な顔で生地が破れないように伸ばすけど伸ばしすぎて破れそうになる
後は焼くだけだね〜〜。どうか上手に焼けますように。ここオーブンは温度調節が難しいからなぁ。