177 あんぱんを作ろう
パンを作ろうと思い立ったのは、あんこを買ったからだ。パンにあんこであんぱん。日本にいるときはあんぱんなんて滅多に食べなかったのに不思議と食べたくなる。
「パンの生地ってこねるのに力がいるんだね〜」
う、うん。でもクリリは力入れなくていいと思うよ。
「でも、楽しいわ。こうパンッ、パンッすると、スッキリするし」
コレットさん、クリリより力あるってことはないよね。調理台が揺れてるんだけど.....。
「猫パンチ! 猫パンチ!」
かわいい。ベスさんも獣人だけあって力が強い。役立たずは私とティーグルだけ。
店が終わってからあんぱん作ると言ったらクリリとコレットさんが一緒に作りたいと言うので、ベスさんも混ざってパン教室を開いた。さすがに遅くまで拘束するのもアレなんで、タケルにベスさんを迎えに行ってもらって、その後、タケルには店番をしてもらってる。
「生地の伸びが良くなってツヤが出てきたら、このくらいの大きさに切って丸めてね」
クリリの顔は粉だらけだ。背が低いせいで調理台に顔が近いからだろうか。
「一時間ほどおいといて発酵させるよみんなお疲れさま」
「「「発酵?」」」
「そう、発酵させるとパンがふわふわになるのよ」
「「「ふーん」」」
みんな半信半疑で頷いてる。この世界のパンは発酵させてないみたいだから仕方ないね。この間、王都で食べたパンはふわふわしてたから、エールか何か入れて作ってるのかなって思う。もしかしたら天然酵母を作れるようになったのかもだけどね。
私は酵母の作り方は知ってるけど、イースト菌を買えるからわざわざ作らない。
「さあ、発酵させてる間に夕飯を食べるよ。今日はカツ丼。肉はオークを使ってみたよ」
「カツ丼? 俺のは?」
タケルが店から顔を出して聞いてくる。
「私が変わるから先に食べて」
「おう」
タケルはボランティアで手伝ってくれてるだけだから、先に食べてもらおう。まだベスさんをホテルまで送ってもらわないといけないし。
「カツ丼って何杯でもいけるよ」
「だろう? この肉と卵の絡みあいがたまんないよな」
カツ丼の匂いとタケルとクリリの会話が店にまで聞こえる。買い物の手を止めてゴクリと喉を鳴らす人。この時間だもん、お腹空いてるよね〜。
「この匂いは?」
ウサギの獣人の五十代くらいの男の人が耳をピクピクさせながら尋ねてくる。
「カツ丼の匂いです」
「カツ丼?」
「うちの賄いです。作り方教えましょうか?」
教えるのは簡単だけど、作れるかどうか。一応醤油は売ってるけど、ほとんど売れてない。醤油の料理って知らないから仕方ないけど。
「お、教えてくれ。あっ、店で売ってもいいか?」
えっ? 店で売るって.....ああ、この人《うさぎ亭》のマスターだ。