173 グラタンを食べよう
王都で買ったシーフードを使ってグラタンを作った。
「グツグツいってるね〜。まだダメなの?」
「後五分。もう少し焦げ目があったほうが美味しいよ」
「クリリ、あんまり開けるなよ。余計に時間がかかるぞ」
こっちのオーブンは外から見えないのが欠点だ。これだとシュークリームを作るのが難しいから、今度プリーモさんに相談してみよう。
五分後。オーブンを開けるとふわっと湯気が上がってホワイトソースとチーズの香りが部屋全体に広がった。部屋の隅で寝ていたティーグルが顔を上げてクンクンしている。
「わー! 美味しそう。これがグラタン!」
クリリは尻尾をブンブン振ってテーブルに近づく。
「クリリ、熱いから気をつけてよ。お皿に触ったらダメだからね」
「うん。わかってるよ」
百均で買った鍋つかみでグラタン皿をつかみテーブルの上にあるランチョンマットの上に並べていく。テーブルの中央には王都で有名なパン屋さんで買った熱々のふわふわパンを盛り付けてある。
「ニャッ!」
ティーグルから催促が.....。
「ティーグルはさっき食べたでしょう。それに猫舌なんだからグラタンは食べられないよ」
私がメッと叱ると「グルルルー」と鳴いて丸くなった。催促されるままにあげてたら実家で飼ってたミーヤンみたいになちゃうからね。ここは鬼にならないと。
クリリは食べる前の長々とした神様への感謝の言葉を呟いている。私とタケルは「いただきます」と一言だけ。
グラタンはまだグツグツと煮えている。熱そうだ。やっぱりオーブンを買ってよかったよ。
「熱ッ! フウフウ、冷ましながら食べたほうがいいぞ」
タケルは舌を火傷したようだ。急いで食べるからだよ。
「ハフ、ハフッ。ナナミさん、グラタン美味しいよ。このなんかよくわからない海のものもいいね」
エビのようなものとイカもようなものを入れてる。こっちではマールとビラと呼ばれているようだ。匂いも味も同じだから違う料理にも使えそうだ。
「このパンも王都で有名ってだけあって上手に作ってるな。でもイースト菌がないのにこのふわふわってどうやって作ってるんだろう」
「イースト菌ってないの?」
イースト菌がなくて、どうやってパンを作ってるんだろう。
「ないからパンが堅いんだ。このパンは頑張ってるけど.....」
そっか。それでこの世界のパンはパサパサして堅かったんだ。
「百均にイースト菌があるから、今度作ってみるよ。上手に作れたらパン屋さんに売ってもいいかも」
美味しいパンを食べたいからイースト菌を広めないと。あの発酵する匂いが食欲をそそるのよね。
「おいおい、何かするときはショルトさんに相談した方がいいぞ」
タケルに注意されたけど、そんな事言われなくてもわかってる。初めっからショルトさんに言う予定だったよ。嘘じゃないよ、本当だからね。