第九十四話 クラスメイト
覚えてるし、知ってます。思い当たらないとか嘘付きました。
サラ・マクレシア、だっけ。ゲームでは全く見掛けなかったと思うけど、今はサーシアとよく話してるし、私も何度か話している。
確かに可愛くて明るくて、パッと見た印象はリア充だった。化粧とか好きっていうのも、何か納得。
「そういえばサラちゃん、髪型変えるの好きだって言ってたね。学園では朝が辛いから凝ったのしないけど、休日は色々変えてるって」
女子力の塊か。見た目と中身が合致しすぎて、ギャップまみれの身としては羨ましい。
「お化粧も一通り出来るはずだし、一度頼んでみて損はないんじゃないかな」
「そうね……お願いしてみようかしら」
出来るならあまり話を広げたくはないが、今はそんな事を言っている場合ではない。少しでも勝率を下げる為には精鋭ではなく凡庸であるべきで、サラの腕前がどれ程かは分からないが、中学生がプロに勝てる事は万が一にもないだろう。彼女に超天才的なメイクの才能でもない限りは。
「善は急げ、少し行ってくるわ」
「ん、いってらっしゃーい」
「受けてもらえるといいね」
ヒラヒラと手を振る二人に見送られ、私は席を立った。
サラは……多分あいつと一緒なんだろうなぁ。
× × × ×
「失礼」
「あれ、マリアさん?」
見つけたサラは、予想通りの人の隣にいました。不思議そうに首を傾げたサーシアと、数人の男女に囲まれて、目を真ん丸く開いている。
「サラ様に少し頼みがあるのだけれど、お借りしても宜しいかしら?」
「私?」
私の発言に、自分を指差してきょとんとするサラとざわつくクラスメイト達。もしかしたらクラス外の人もいる可能性があるけど、どうせ私には名前もクラスも分からない。
一人サーシアだけは特に驚く事も怪訝な顔をする事もなく、そうなんだ、と頷くだけだった。
「うん、いいよ!ちょっと行ってくるね」
「うん、行ってらっしゃい」
呆けた表情はすぐに笑みを取り戻し、跳ねる様な歩調で私の隣へ立つ。元気の良い挨拶に返答したのはサーシアだけで、他はどこか心配そうな視線だった様に感じた……多分気のせいじゃないんだろうね。
いやほんと、誤解を与えて申し訳ないが、別に呼び出して痛め付けようとか思って無いんで安心してください。
少し歩くと、人気のない階段の踊り場についた。ケイやカトレア様と話す時は大抵ここだが、施設が充実する学園内では、話すにもここよりずっと整った場所が多い。
「えっと……それで、私に頼みってなにかな?」
「サラ様は、お化粧や髪弄りが得意だと聞いたのだけれど」
「得意かは、分からないけど……好きではあるかな。趣味みたいな感じ」
「それで、文化祭のコンテストで私のメイクを頼みたくて」
「……え?」
うん、そういう反応になるよねー。友人に頼んだ時もそうだったら、ただのクラスメイトなら余計に驚くだろう。プロに頼むのが通例なのに、趣味だという中学生に頼むって……あれ、もしかして結構無謀な事してる?
「え、えぇ!?わ、私が!?」
「勿論強制ではないから、断って頂いても構わないけれど……出来るなら、お願いしたいわ」
「それはっ、あの、嬉しい……けど、プロの方でなくていいの?私のは独学だし、趣味だし……」
「プロの方だと私の理想通りにはならない気がするの。出来るなら、学生の私を知っている方に託したい」
嘘は言ってない、嘘は。ただ本当も言っていないだけで。
プリメラに頼みたかったのも、私の内面を知っている相手だったからだし。私をコンテストの出場者として美しくするのではなく、一学生としてちょっと飾るくらいの気持ちでお願いしたい。
間違っても優勝を狙ったりしない。プロの仕事より趣味の一貫で全然問題ないので。
「……分かった。私で良ければ……力になります!!」
何度も目をパチパチと瞬かせて、両手を胸の前でぎゅうっと握りしめる。緊張を落ち着ける為の行動なのか、何かを覚悟したが故の行動なのか。
どちらにしても彼女の中で一つの区切りがついた事には変わりない。その証拠に、私と合わさった視線は何か覚悟している様だった。
「飛びっきり可愛くするからね!!」
「ありがとう」
「それじゃあ、当日どんな風にするのか相談しよっか」
話が早くて助かるわー。ただ出来ればそんなにやる気に満ちないで、ただの文化祭だから、たとえ規模がとんでもなくても、国家予算みたいな金の掛け方をしていても、あくまでこれは一学園の一文化祭の一コンテストだから。
「衣装はどんな感じなの?」
「何着か家から送ってもらうつもりだけど、出来るだけ……清楚な感じにするつもりよ」
地味な感じ、良く言えば清楚で大人しい。出来るだけ装飾も控えるとつもりだし、化粧も髪も簡単なものが理想。何度でも言います、目立たず地味に、記憶にも記録のも残らないが私の目標です。
「清楚かぁ……衣装が届いたら見せてもらえるかな?」
「えぇ。衣装は控え室にそのまま運ばれるから、届いたら案内するわね」
「うん!」
話は終わり、二人並んで教室へ戻る。友人が増えたという訳ではないが、こうしてクラスメイトと話すのは新鮮だった。入学してかなりの月日が経っているのに、いまだクラスメイトと話すのが新鮮って結構問題な気もするが。
一先ず、目的は達せたので良しとしよう。




