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第九十二話 プライバシーを主張したい

 予想していたとはいえ、わずかながらあった期待はこの日全て打ち砕かれた。

 掲示板を埋め尽くす大きな宣伝ポスターと出場者欄に、コンテストの規模を再認識させられる。クラス、名前、顔写真まで……クリスティン様は舞台に立ってる時の写真だし、他の人も魅力を最大引き出されているのに、私だけ証明写真みたいなやつ。これ生徒手帳のやつだよね。


「地獄の始まりか……」


「大袈裟」


「他人事だと思って!」


「ドンマイ」


 頭を抱えたい私とは対照的に、隣のケイトはいつもと何ら変わらない。一人で行くのは心細いからと泣きついてついて来て貰ったが、これならプリメラ達に頼んだ方が優しくしてもらえたかも。

 とはいえ、クリスティン様との勝負の事はあまり言いたくない。プリメラ達が言い触らすとは思えないけど、何かあった時に疑ってしまう可能性が無いに越した事はないのだから。二人にその気がなくとも、壁に耳あり障子に目あり。人はどこで聞き耳を立てているのか分かったものではない。


「思ったより出場者多いんだな」


「そうね……十人、か」


 こんなにいるなら私が出なくても充分だろうに、私の平和な文化祭を返せ。

 クリスティン様以外知っている名前はないが流石の美人揃い、ただの掲示板が神々しい物に見えてくる。今はまだ余白の方が目立つが、その内白い部分の方が少なくなるだろう。

 文化祭の連絡を受けた時、プリント以外にも幾つか必需品が配られた。文化祭の必需品って何だよと思ったが、突っ込む方が大変なのでスルーしてたけど。

 その中の一つが、事前投票に使う造花。これを写真の印象が一番良いと思った人の所に貼れば優勝候補は一目瞭然、生徒の中には賭けを行う者もいるのだとか。勿論非公認で。


「やっぱりクリスティ様が圧倒的ね」


「演劇部の看板女優だからなー……俺は初めて見たけど」


 十人が同じ面積を貰っているはずで、まだ発表されたばかりだから投票人数も少ない。それでもすでにクリスティン様の名前の下には真っ赤な薔薇がちらほらと。


「やっぱこの造花良く出来てるよなぁ。型崩れも全然ねぇし」


 多分、抱くべき感想はそれじゃないぞ。さっきから真剣な顔で、初めて見るクリスティン様に見惚れてるのかと思ってたのに、視線は写真のそばにある造花に一直線。

 そういえば貰ってすぐも感動してたっけ。


「これさ、事前投票しなかったら貰えんのかな」


「特に回収する訳でもないから、大丈夫だと思うけど」


 気にする所はそこではない、思春期の男子中学生ならもう少し他に思うところはないのか。これだけ美人の写真が並んでいるのに……私の印象が偏ってるだけ?

 昔から変わらなさすぎて安心すべきなのかどうなのか。


「これなら持ちも絶対いいし、色合いとかも本物そっくりだから」


「そういえば、ケイトもたまに作ってたよね」


「父さんの手伝いくらいだけどなー」


 基本的に生花が多いけど、造花の方が都合が良い場面も多々ある。生花が苦手な相手への贈り物だっだり、装飾品に使ったり、使い方は様々だが偽物である以上ある程度見劣りするのは仕方がない。

 その概念を覆す代物を生徒全員に配っちゃうんだから、豪快なのか頓着がないのか。


「これどうなってんだろ……」


「文化祭が終わったら私のもあげるわ」


「おー、さんきゅ」


 あまりにいつも通りのケイトに、私まで気が抜けてしまう。平常心を保ちたくて連れてきたから、まぁ思惑通りではあるけども……何か思ってたのとは違う様な。

 だからといってケイトがクリスティン様に食い付いたりしてたら、それはそれで複雑な気持ちにはなったと思うけど。


「出場者って、この後どうすんの?」


「実行委員と一緒に打ち合わせするんだって」


「今日?」


「放課後」


「じゃあ待ってるわ、園芸部はいつもとする事変わらんし」


 一応園芸部も文化祭に向けて色々と予定はあるらしいが、やる事は花壇の手入れと草花の育成。目的が変わろうと道筋は同じらしい、少なくともケイトにとっては。

 聞けば文化祭を飾るアーチを任されているらしいのだが……それをいつもと同じテンションで請け負ってるのは流石肝が座っている。図太いとも言えるが。


「花壇に行けばいい?」


「ん、いつもと一緒」


「了解」


 打ち合わせに辟易してたけど、帰りにケイトが話を聞いてくれるなら少し楽になった。

 多分それを見越した上で言っているんだろうけど、わざわざ口にする事ではないだろう。ケイトが優しい事も、同じだけ素直じゃない事もよく分かっている。


「じゃ、放課後な」


「うん、授業頑張って」


「マリアも、寝んなよ」


「っ、寝ないわよ!」


 自分の目元を指で数回叩いてから、ヒラヒラを手を振って背を向けた。後ろ姿が遠ざかり、曲がり角に消えたのを確認して、私も自分の目元に触れてみる。

 まぶたはいつもより重く感じるが、特に充血もしていなかったし隈が出来ている訳でもなかった。血色も悪くなかったし、体調だって至って普通。

 朝、鏡で見た顔はいつもと変わらぬ様に見えたのに。


「……バレてたか」


 昨日の夜、あんまり眠れなかった事。

 目元を指したって事は、今更になって隈でも出来たか。そう思って手鏡を取り出したけど、今目の前に貼り出されている写真とどこが違うのか……自分なのに分からなかった。


「なんで分かるのかなぁ……」


 ケイトには私がどう見えているのか、心底不思議だ。もしかして気付かない内に態度に出ていたのだろうか、もしくは主観では気付けない部分で変化があったのか。


 しかし結局放課後になっても、ケイト以外に指摘される事はなかった。

 ……ケイトの第六感ってどうなってるんだろう。



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