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第八十六話 先輩ってだけで年齢よりも大人びる

 日が経つにつれて、少しずつ学園がお祭りの雰囲気に包まれて行く。

 とはいえ私は何もする事がないのでいつもと変わらず、むしろ普段ならいるはずのプリメラ達が学園祭の準備に出ているのでとても暇。

 唯一心配していたケイトは部活の方で参加するらしい。

 何とも、平和。むしろ手持ち無沙汰。

 学園内もオズも、人のいる所はどこも準備に追われていて一人くつろぐには気を遣う。一応オズのお店は営業中だけど端では作業をしてる訳で。 忙しそうにしているそばでぐうたらするのは気まずい、そう思うのは私だけじゃないはず。

 だからといって無駄に歩き回るのも迷惑になりかねない。という事で、私にとれる行動は二つ、自室に帰るか誰かのお手伝いをするか。部屋で一人過ごすのも落ち着くだろうけど、友人と一緒にお祭りの準備をするというのも楽しそう。


 魅力的な二択から私が選んだのは。



× × × ×



「マリアちゃん、それはこっちにお願い」


「分かりました。こっちはもう使いませんか?」


「あー、その色は合わないしなぁ……」


「カトレア様、採寸良いですか?」


「あ、うん!すぐ行くー!」


 人が入り乱れ誰もが忙しく動き回る、布を抱えてあっちこっち。それは制服を着た学生だったり顔見知りの教員だったり見知らぬ大人だったり、 子供よりも大人の割合が多いのはここが金持ち学校だからです。

 私がいるのは演劇部の部室……というには広すぎる一室。教室くらいあるんですけど、演劇部ってそんな大所帯ですか?しかも男女別だからもう一室あるらしいし、道具を仕舞う倉庫もあるそうだから……うん、冷静に考えるのは止めておこう果てしない気持ちになる。

 暇を持て余していた私は、プリメラかエルの手伝いにでも行こうかと思って部室棟を訪ねた。そしたら二人より先にカトレア様に会って、お手伝いを頼まれ今に至る。


「質感を重視するなら本物を使うべきだけど……」


「それだと重くなるわよ?確かクリスを抱き上げるシーンがあったはずだから」


「だったら軽い素材で作って着色を──」


 学園祭で演劇を披露するための準備らしいけど、クオリティーの高さに比例して忙しいというのは当然だ。

 衣装や小道具を作るのは大人の職人だが、そのデザインや使う材料まで決めるのは部員の役目らしい。学園祭の準備というよりも何かの企画会議みたい。

 私は急拵えな猫の手なので、手伝いといっても単純作業くらい。伝言役だったり、道具の個数を数えたり、見本と完成品が同じかを確認したり。

 目の前を行ったり来たりする部員の皆さんを見ていると、一人楽な作業で申し訳なくなったりするのだが……出来ない事を無理に手伝って仕事を増やしても申し訳ないので黙って言われた事をこなすが吉。


「ごめんねマリアちゃん、これもお願い!」


「あ、はい!」


 全体的にばたばたしている室内の中でも一番動き回っているカトレア様は、あっちに行っては逆から呼ばれそっちに行けば他から呼ばれ……三年で主演だという以上に本人の性格もあるのだろう。

 採寸していたと思ったらデザインも決めて、道具の出来上がりを確認して、照明の相談にも加わっていた。出来上がりを確認する作業だけでも他の人に任せたら楽になるだろうに。

 だからといって私がそれを担える訳ではないので口出し出来ず、黙って自分の仕事に集中するしかないのだけれど。

 

 忙しくはないが慌ただしくはあり、終わった途端に与えられる仕事をこなしてたまに休憩して、気が付くと窓から見える景色が赤と黒で別れていた。


「マリアちゃん!ごめんね、こんな時間まで手伝ってもらって……」


「いえ、そんな……暇を持て余していたので、お役に立てたなら良かったです」


「大助かりだよー!今日はクラス参加もある人が来られなくて人手が全然足らなかったから」


「あぁそれで……」


 どうりで仕事数に対して部員数が足りないと思った。カトレア様が奔走していたのもそのせいか、いつもはいるはずの人がいないからやる事が増えたと。

 私一人では仕事になれた不在部員一人分も賄えなかったろうに……足を引っ張らなかっただけでも良しとすべきかも知れないが。


「後はクリス……ヒロイン採寸と道具の確認だけだから、終わってもらって大丈夫だよ。本当にありがとね」


 パッと見ただけでも仕事はまだまだ残っているし、忙しく動いている人こそいないがそこかしこで話し合いが行われている。

 きっと私が帰った後もこの部屋の明かりはしばらく点いたままだろう。それでも私の手を必要としないという事は、私の与れぬ重要な部分なのだろう。勿論時間の考慮もしてくれただろうけどね、カトレア様は性別を超越した王子様ですし。

 だとすれば、ここで無理を言って手伝いを強要するのは逆に迷惑になる。押し問答をする時間すら無駄だ。


「……分かりました、それじゃあお先に失礼致します」


「うん!寮はすぐ近くだけど、気を付けてね」


「はい。皆さんも無理なさらないで下さいね」


 部屋を出る前に一礼をすると、部屋中からさようならの挨拶だったり感謝の言葉だったりが聞こえてきて。今まで一度も部活動を経験していないからか、少しくすぐったかった。

 やっぱり少しでも興味が湧いた所にでも入ったら良かったなー……高等部を経験しているせいか中等部の人を先輩として敬えるか心配だったけれど、私が考えるよりも先輩というのは大人な物らしい。

 ほんの少しの後悔を振り払う様に飛んでいた思考を引き戻して、寮への道をゆっくりと歩き始める。今日の夕飯はなんだろうなー、なんて考えながら。

 私が背を向けた後に、演劇部へと入って行った人物には、気付かぬまま。



「ただいまー」


「あ、クリス、おかえり。クラスの方は大丈夫だった?」


「えぇ、手伝えなくてごめんなさい。ね、さっき出ていった子って……」


「私の知り合いの後輩が手伝ってくれたんだ。前に綺麗な子がいるって話したろ?あの子の事」


「あぁ、カトレアが気に入ってるっていう子ね。初めて見たわ」


「目立つ子なんだけどなー……クリスは部活以外で後輩と交流持たないもんね」


「カトレアみたいに気に入ったからってナンパしないだけよ……名前はなんて言うの?」


「あぁ、マリアちゃん……マリアベル・テンペストちゃんだよ」



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