第八十二話 色々無理ゲー
一泊二日とは思いの外短くて、夜通しトランプで遊んでいたらあっという間にに日付は変わり太陽が出ていた。トランプの勝敗は黙秘しますが、深夜テンションで記憶が飛んだ事にしよう。
ケイトには勝てた事なかったけど、まさかネリエル……絶対私と同じで顔に出るタイプだと思ってたのに!
「やっぱ断トツで弱かったな」
「マリアちゃん、素直だから……」
「ありがとう……」
でもね、ネリエル。優しさが人を傷付ける事もあるんだよ、心が痛い。
「お世話になりました。とても楽しかったわ」
「僕もです!久しぶりに二人と話せて凄く嬉しかったです」
「次の休みは家に招待するわね」
「はい!」
次の休みはー……いつだったけな。多分冬休み的なやつだと思うけど、秋休みとかはきっと無い。
となるとネリエルに会えるのはまた半年後くらいかな。家に帰る機会はもう少しあるだろうけど、ネリエルと遊ぶには時間が足りない。その後はネリエルも入学するし、幸い寮も同じ。
そう思うと寂しいとか感じる必要無いな。
「それじゃ、またね」
「はい、また」
「お邪魔しました」
来た時と同じ手ぶらで帰るという状況に、一泊した実感がない。時間帯を考えると数時間遊んで帰ります、でも通じる気がしてしまう。実際は二十四時間以上経ってるんだけど、日付感覚って結構簡単に狂うものだ。
見送るネリエルに手を振って、私達は別荘を後にした。
× × × ×
「ただいま帰りました」
「お帰りなさい、楽しかった?」
「はい、とっても!」
お出迎えしてくれたのはお母様だけ。お父様は忙しいがデフォだからいつもの事で 、むしろ夕飯を一緒に取れるだけでも凄い事だと知っているから文句などない。
「着替えたら夕飯にしましょうね」
「はい」
「マリアちゃん宛の荷物と手紙が来てたから、お部屋に置いてあるわ」
「荷物……分かりました」
多分プリメラかエルのお土産だろう。まさか私の出掛けている日にちピンポイントで来るとは思わなかったけど、後でお礼の手紙を送らなければ。
自室に入るとテーブルに上にラッピングされた荷物が置かれていた。真っ先に目に入る分かりやすい場所。
直ぐにでも開けたいが、夕飯が控えているしお母様達も待たせている。ついでに私自身腹ペコ。
さっと着替えて、脱け殻はアンに任せる。今ではなれた事だけど、初めの頃は庶民感覚で洗濯機を探していた。他人の括りに入る相手に自分の脱いだ服を片付けさせるって中々ハードよ。
「お待たせしました」
「お帰り、マリア」
「ただいまです、お父様」
食堂に向かうと、すでにお父様とお母様が席に座っていた。笑顔で出迎えてくれるお父様は、やっぱ恐ろしくイケメン。この人本当に十代の子持ちなのか疑わしくなる、自分の親なんですけどね。
「ネリエル君は元気そうだった?」
「はい!次は家に招待しようと思うんですけれど」
「勿論、私も久しぶりに会いたいわ」
そういいながらも、お母様は私の友人に積極的に話し掛ける事はしない。あくまで友達の親として、少し離れた所から私達を見守っている様子はやっぱしお母さんなんだなって思う。見た目は私のお姉さんでもいけそうなのに。
お母様を初めて見たプリメラ達が受け入れるのに困っていたくらいだし。目の色が同じじゃなかったら継母疑惑が浮上してたかもしれない。実母ですと紹介したのに……確かに成長するにつれて元から少ないお母様要素がどんどん削られてっているけれど。完成系を考えると最終的には目の色以外は全てお父様へと変貌するんだろうなー元々少ないけど!
「来る時は知らせてね、何かお菓子でも作るわ」
「わぁ、楽しみです!次の長期休みだからずっと先ですけど」
お母様のお菓子は私の好物でもある。元々お菓子が好きといのもあるけれど、シェフが常駐している我が家でのお袋な味はお母様お手製のお菓子達。あまりパーティー会場では出会えない物だって作ってくれる。太らない体質で本当に良かった。
夕飯が終わるとそのままお風呂に入って、部屋に戻ったのはパジャマに身を包んだ後の事。
テーブルに置いてある荷物を見るまで、届いた事をすっかり忘れていた。明日の朝にはお礼の手紙を送ろうと思っていたのに、寝る前だからセーフだけど。
「あ、やっぱりプリメラからだ」
荷物にくっついていたカードに書かれた名前は予想通りの人物。エルとどっちかなーとは思っていたけど、プリメラのだったか。
どこに行って何をしたのか、小さなカード一杯に書かれた思い出は読んでいるだけで楽しそう。お土産はどうやらご当地の伝統的なアクセサリーらしい。
魔除けにもなるそうで、新学期になったら毎日付けよう。本当にありがとう、私にもっとも必要な物をくれるとは……別荘にはお土産とか売ってないんで何も返せないのが申し訳ないです。
「あれ?こっちは何……」
お土産の隣に並んだ手紙は真っ白な封筒で、宛先に私の名前が書かれているだけで差出人はない。勝手にプリメラからだと思ったけど、付いていたカードで全てが完結してしまっている。
エルからか、なんて警戒もせずに封を切る。
二つ折りにされたそれは、手紙というより招待状に近い。
「……は?」
思わず気の抜けた声が出たけど、内心は混乱を通り越して色々と昨日が停止していた。
固まった私の手から滑り落ちたカードに書かれていたのは、夢の様な現実。夢は夢でも悪夢の方ですが。
内容は三日後、とあるレストランで話がしたいという物だった。
店の名前は『Dear』。個室完備の王室貴族御用達レストラン。といっても私の様な子供が行くのではなく大人が接待とかで使う類の、名前は知っているけど行った事はないし行く予定もなかった。
そんな場所に学生の私を誘う常識外れは誰なのか、最後に書かれた名前が見間違いであって欲しくてカードを拾い上げる。
白に金で装飾のされたデザインは美しいけれど、余計にある人物を連想させる。
『ルーナ・ビィ・レオーノヴァ』
整った文字は読みやすく、見間違いの希望は潰された。
血の気が引くとはこの事か、さっきから指の感覚がおかしい。痺れる手前みたいな、段々と温度が奪われていく。
ちょっと吐きそうになって、そのまま体調不良を理由に断れないかななんて思った。無理だって分かってたけど、そのくらいの現実逃避は許されるはず。




