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第六十八話 怖いものは少ないが

 言い訳をさせて欲しいのだが、これは私のくじ運がド底辺だった訳でもフラグに愛され過ぎている訳でもない。と言うか私のせいじゃない。

 元々私のペアはサーシアでもクラスメイトの女の子でもなく、隣のクラスの男の子だったらしい。そのままの相手だったら私の合宿は平和に終わったはずなんだけど。


 それが何故サーシアへとチェンジしたのかと言うと、とある二人の甘酸っぱい恋愛模様が原因で御座いまして。


 私の本来のペアであった男の子と、サーシアのペアだったクラスメイトの女の子は、幼馴染みであり親公認の許嫁なのだと言う。

 まだ中学生なのに、と言う疑問はあったがこの学園では珍しい事じゃない。生まれた時から顔も知らない相手と……なんて事もあるくらい由緒正しい家柄の結婚話は多種多様で面倒臭い物なのだ。

 今回の二人は家同士での決定事項でもあるらしいけれど、元々は当人同士の初恋が実ったが故に発展したらしい。乙女ゲームの世界では名前も無いモブにまでこんな可愛い青春が用意されているなんて、攻略対象の全ルートで悪役を演じた私とは待遇の格差が凄まじい。

 そんな羨ましい様な妬ましい様な、でもやっぱり微笑ましい中学生カップルは幼馴染みと言うだけあって仲は良好。大きな不満の無い健全な男女交際だが、女の子の方は不満がない事が逆に不安らしい。


 付き合っているのに幼馴染みの時と何も変わらない距離感、変わらない態度、あまりの変化の無さに本当に好き合っているのか考えてしまう。


 中学生の女の子らしい可愛いお悩みだ。始まりが幼馴染みなら付き合いたての初々しさが無くても不思議は無いと思うけれど……恋は人を盲目にする物。

 まだ中学生だし、恋愛小説みたいな恋人同士とは違う自分達の関係性に不安を抱いても無理はない。

 ハラハラドキドキの恋愛よりも平穏な恋愛の方が良いと思うけどね、波瀾万丈な悪役令嬢としては。

 しかし少しでも変化が欲しい彼女にとって今回の肝試しは絶好のイベントである訳で。そんな可愛らしい恋のお悩みを聞いちゃったら断る訳にもいかないじゃん。

 

 特に疑問も持たず軽い気持ちで頷いた事を、現在進行形で後悔してる。


「でもあいつのペアがマリアさんで良かったー」


「そう……」


 私は全然良くないけどな!

 彼女のペアを確かめなかった私にも落ち度があったかも知れないが、まさか乙女ゲームの攻略対象がペア交換されるなんて思わないし。あの女の子はイレギュラーだけどサーシアはモテるし、ペアを望む子だって大勢いるだろうに。何故よりによって婚約者にぞっこんな子とペアになるのか。

 前言撤回して物凄く運が悪いのかも知れない。


 と言うかこいつ、本当に参加するの?


「……参加して、大丈夫なの?」


「え?」


「だってあなた……」


「サーシャ、マリアベル様とペアなの?」


 私の言葉を遮った可愛らしい声と共に、 耳から来る印象通りの可愛い女の子が私とサーシアの間に顔を出した。

 人懐っこそうな笑顔は見た事がある、よくサーシア達と一緒にいるクラスメイト。


「サラ、どうかした?」


「地図、渡しに来たの」


「あれ、サラの担当はくじ作りじゃなかった?」


「参加者が多いからお手伝いだよー」


 軽い調子で交わされる会話は仲良の良さを物語っている気がした。私完全に置いてきぼりです。

 そんなに仲が良いなら、是非ペアを交代して頂きたい。


「マリアベル様、サーシャに変な事されたらすぐに大声を出してくださいね!」


「誤解を招く様な事を言うな!」


「あはは……」


 フレンドリーな子だなぁ。サーシアの友達だからある程度似た様な性格でも可笑しくないけど、未だにクラスメイトの大半と打ち解けてない私にまでこの対応とは。

 私の友達は皆性格違うからあんまり信じていなかったけど、類は友を呼んだらしい。


「サーシャ達最後でしょ?私二番手だから、お先ー」


「転けんなよー」


 終始笑顔を絶やさなかったサラは去っていく時まで可愛い。女子力の差を見せつけられた気分だ。

 サーシアとも仲良しみたいだし……うん、関わらない方が無難だな。良い子そうだけどタイプが全然違うから機会も無さそうだけど。


 あれ、そう言えばスルーしちゃったけど……。


「私達が最後なの?」


「あぁ、うん。俺達が主催みたいな感じだから、最後の見回りついでに……ごめん、嫌だった?」


「いいえ、私は平気だけれど」


「良かった。ペア交換もしてもらったのに申し訳ないんだけど」


 うん、それは激しく後悔してるけどね。サーシアだけじゃなくて私が確認を怠ったせいでもあるし、別に肝試しくらい十分やそこらの辛抱だ。

 だから私がの心配はそこではないんだけど……。


「俺まだやる事あって、一番のペアが戻って来たら交代だからそれまで待ってて」


「え、えぇ……」


「じゃ、後で!」


 ひらりと片手を上げて去っていく後ろ姿に得体の知れない不安が過って。

 私はただこの肝試しが無事に終わる事を祈った。

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