第五十八話 水色が目に優しいとは限りません。
「二人はテンペストの令嬢と知り合いだったのか」
「えぇ、何度かお会いする機会があって」
「何かと、ご縁があるようですね」
「あ、はは……は……」
この世界って縁切りとか出来る所あるのかな。この際怪しい占い師とかでもいいから、誰か助けてください。
私の息の根が止まってしまう。
「じゃあ簡単に紹介する。会長のルーナと会計のツバル」
今考えるとルーナが会長であるならツバルだって生徒会に入っているのは当然だ。重度の幼馴染み厨、最早病気の域ですからね。
何故もっと早く思い出せなかったの……!
私の危機回避能力は恐ろしくポンコツらしいが、だとしてももう少しマシな危険は無かったのか。
生徒会メンバーと入れ替わりに部外者のカトレア様は帰ってしまったので私の心の拠り所は初対面のユリウス様。
二人の攻略対象と、今日会ったばかりでとりあえずは好印象だけど基本謎な人を比べたら確実にプラマイマイナスだ。
私もまだ部外者です!と主張して退席する勇気はなかったけど。
「で、そっちの二人はもう一人の会計と書記な」
私の心の葛藤に気付く事無く、ユリウス様が指したのは、眼鏡をかけた茶髪の人と黒髪に狐の様な細い目をした人。校章の色を見ると茶髪の人が二年で黒髪の人は一年らしい。
「シーカ・ニールです。同じクラスですが話すのは初めてですね」
そう言えばユリウス様がさっき言ってたっけ。水色の衝撃が強すぎて記憶から飛んでいた。
だけど……もう月単位で同じ教室で生活しておきながら、名前を聞いても全くピンと来なかった。申し訳ない。
私にとっては馴染み深いが、この世界では初めてお目にかかる黒髪なのに……記憶の端にもかすらない。いくら私がサーシアへの警戒に全力を注いでいるとはいえ、流石に自分の視野の狭さを問題視すべきかもしれない。いや本当に申し訳ない。
「ごめんなさい、私人の覚えが悪くて」
「いいえ、僕もあまり目立つタイプではありませんから」
それはあれか、暗に私が目立ってるって言ってます?止めてくれ私は二軍の中間、もしくは三軍に片足突っ込むくらいが理想なんだ。
地味って言っても、顔立ちは綺麗なのに……少なくともさっきから視界に入る水色よりはずっと好感が持てる。
本当に、さっきから視界の端で仮面みたいな笑顔が見えて怖い。三日月を三つ使った笑顔の仮面を思い出す。
「で、こっちが二年のトーマだ。今の所唯一の書記になる」
「トーマ・クラエスです、どうぞよろしく」
最後の一人をユリウス様が紹介して、そっちに視線を向けるとようやくツバルが視界から消えた。私の分からない所でこっちを見てると思うと怖いけど……せめて少しの間だけでも思考から消しておきたい。
トーマ様は、良い意味で普通、と言った所だろうか。
整ってはいるが特徴がある訳ではない顔立ち、体型。恐らく初対面では『眼鏡の人』と言う印象しか残らない様な、特出して目立つ要素のないタイプ。
私にとっては素晴らしく目に優しいけどね。今の所特出したイケメンに関わると録な事になってないから。
「マリアベル・テンペストです。今日は見学させて頂きたくて参りました」
「テンペスト嬢が入るなら書記だからな。トーマ、頼む」
「了解です。僕の仕事が減るなら、協力は惜しみませんよ」
「まだ入るとは決まってねぇから、情報の管理は気ぃつけろよ」
生徒会って言っても、学生が営んでいる物にそんな機密物置いてあんのか……とも思ったが、部費の管理とか配分は基本的に生徒会が取り仕切っているらしいし私が他の部に入る可能性を思うと当然の配慮かと納得した。
ユリウス様の一言で皆仕事を始めるため自分の席へ向かった。私はトーマ様の傍に付き、同じく一年のシーカはツバルの隣で教育を受けていた。
もし足りないのが会計だったら私はツバルの傍で見学をしなければならなかったのだと、シーカの立場に自分を置き換えたらゾッとしたのでとりあえずは書記で良かったと思った。
ただよく考えると、もし生徒会に入ったらほぼ毎日ツバルと顔を合わせなきゃならなくなる訳で。想像するのも恐ろしい未来予想図に、どうやってこの話を断ろうかと見学を片手間に頭を悩ませる事になった。
いや、マジでどうしよう……。




