第五十七話 泣き付き三時間コース
扉の先は絢爛豪華な一室。
左右を壁を埋め尽くす本棚に挟まれながら、正面は一面窓で狭苦しい感じは一切無く明るい雰囲気で。椅子に机に、一つ一つの家具だけじゃなくて敷いてある絨毯にまでこだわっているだろう空間は、ここが豪邸の一室であるかの様な錯覚を受ける。
いや、お城みたいな建物の一室だから間違ってはいないかも知れないけど……ここ、一応学校なんです。金持ち学校だし、教室とかも豪華だから許容範囲はかなり広いはずなのにつっこまずにはいられない。
まず、広さの設計可笑しいよね?私が入ったとしても六人で使うんだよね?
何で二十五人が使う教室の半分くらいの広さがあるの。半分って聞くと大した事無いんじゃないかって錯覚しそうになるけど、使う人数の差を思い出すと可笑しい。元々教室自体も恐ろしく広いし。
応接セットまで完備されてるし、お金の使い道考え直せ。
「コーヒーか紅茶、どっち?」
「私は紅茶」
「私も同じ物を」
普通コーヒーか紅茶どっちかしかないと思うんだけど。いや、普通の生徒会室にはまず棚一つ分の茶葉とか道具は無いはずだ。使ってもインスタントだろう、個人的には水で充分。
「じゃあコーヒー一つと紅茶二つな」
あ、ユリウス様はコーヒーなんですね。じゃあわざわざカトレア様と同じにする必要無かったかな……あぁでも私コーヒー飲めないから一緒だわ。
チリンチリンとユリウス様が金色のベルを鳴らしたら一瞬の間を置いて扉から執事服を着こなした白髪の男性が入ってきた。老人と言うには若々しいが年齢は多分お爺さんと言っても問題無いだろう。老紳士、と言うべきか。学園の給仕さんの一人だろう。
給仕さんが来た事よりもユリウス様が淹れるのではない事に納得してしまった辺り、私も随分毒されてきたな。長いものには巻かれる主義なので抗いはしませんが。
応接セットに座り、給仕さんが飲み物を用意し終えて部屋を出るとユリウス様は生徒会の説明を始めた。
「生徒会の仕事はほとんどが紙の上の処理、事務仕事だ。特に募集している書記は行事時期も関係なく事務処理ばかりでな……どんな状況でも特別忙しくはならないが逆に暇になる事もない」
特に今年は王子が会長になった事で接待は例年よりも忙しくなるだろう。そうなると接待に駆り出される王子に代わり他の役員の仕事は増える。その上王子に合わせて役員の身分も王族や上位貴族で集めているので、王子だけでなく他の役員も接待に駆り出される可能性は高い。
何でそんな面倒な人を会長にするかな……歴代の王族が会長になった時か、直近ではソレイユの時に学習しなかったのか。
「テンペストの令嬢なら家柄は問題ないだろうし、入って貰えんなら助かるが……まずは他の連中が来てからだな」
「そう言えば去年からの持ち上がりは四人だよね。もう一人は新しい子入ったの?」
「あぁ、一年の男子が一人。クラスCだったはずだから知り合いかもな」
「え……」
同じクラスに生徒会の人いたんだ……誰だろう。
中等部で起こる出来事については全く知識がないから、出来るだけ物語に関わりのない人でお願いしたいんだけど。
「ま、これから紹介するから。もうそろそろ来るはず……」
噂をすれば影。小さく扉の開く音がして、私は視線を向けた。
この時、私は失念していた。
王子が会長となった事で厳しくなった身分制限をクリア出来、生徒会役員になっても可笑しくない優秀な人材を。
何より、ルーナ王子が生徒会に入るとなれば絶対に共に居るであろう人間を。
そして私にとって、最も警戒していなければならない存在を。
思い出したのは、銀色の隣に並んだ美しい水色に気が付いた時だった。




