第五十四話 新キャラがつれてくるのって両極端だよね。
授業を受け、放課後になると部活見学。
そのサイクルを繰り返すようになって、気がついた事がある。
私、本当に趣味がない。
園芸は趣味だと思ってたけど、やっぱりケイトに付き合ってた影響だから一人でだとやろう思わないしなぁ。
そんな気持ちで園芸部に入るのは申し訳なさすぎる。それにケイトにも失礼だ。
となると……いよいよ候補が尽きてきた。
「まだ迷ってるの?」
「入りたいのが中々……」
「別に強制じゃないんだし、無理に入らなくても良いんじゃない?」
うん、その通りなんだけど。
ゲームとの共通点を潰したいって言うのもあるが、私自身部活を経験してみたいって気持ちもあるからなぁ……ならさっさと決めろよって話なんだけど。
「何、マリアさん部活迷ってんの!?」
「……サーシア様、ごきげんよう」
出た、サーシア。
頑張って交流を最小限にしてはいるんだけど、やっぱり隣の席って強い。授業のペアだったり日直だったりで強制交流が増えて、気付いたら『マリアさん』呼びになってるし……私は断固として『サーシア』呼びを貫く!
「サーシャ、急に話に入ってこないでよ、驚く」
「ごめんごめん、隣にいたら耳に入って来てさぁ」
流石、人気者。すでにクラスの大半とお友達だから、当然エルやプリメラもその中に入ってるよね。
私はカウントされてない事を祈る、せめてクラスメイト止まりで。
「サーシャ君はもう部活決めたの?」
「うん、俺はサッカー部」
うん、高等部でもそうでしたね。何回も応援しに行きました。キャーキャー騒ぐだけで何の貢献もしなかったけど。あ、でも部費は増えたはず。
「それより、マリアさん!迷ってるならサッカー部とかどう!?」
「……私、女の子よ」
この学園のサッカー部は男子だけのはずだけど。
何、こいつには私が男に見えてるのか。
「分かってるよ!選手じゃなくて、マネージャーになってくれないかなって」
「あぁ、そっちの事」
マネージャーねぇ……女の子が一度は憧れるポジションだ。エースと恋仲になるなんて少女漫画じゃお約束。
サッカー部なんてイケメンの多そうな部なら尚の事、わざわざ勧誘しなくても向こうから寄って来そうなものなのに。
それに、私が言うのも何だが貴族の令嬢にマネージャーが勤まるとは思えない。
蝶よ花よと育てられてきたご令嬢に雑用が出来る訳ないじゃないか。
「……私に勤まるとは思えないから」
それにサーシアと同じ部活なんて良い予感が一つもしない。
「あぁ、仕事はスコア付けと備品管理くらいだから簡単だよ?掃除と片付けはやらなくて良いし」
それマネージャー必要?
「後は生徒会と部費について話したりとか」
……何か、マネージャーはマネージャーでも『部活動を助ける』類いのマネージャーじゃなくて『芸能界とかの付き人的ニュアンス』のマネージャーみたいじゃない?平民だけでなくお貴族のご令嬢がなる可能性も考慮すれば妥当な線かも知れないけど。
とは言え、私運動部除外なのです。それはマネージャーも変わらない。
たまに忘れそうになるけど、ここ魔法学校なので。部活の備品は軒並み魔法道具。勿論、模擬杖同様制御魔法がかかっているから危険はないんだけど……運動部だったら、特に球技は流れ弾ってやつがあるんですよ。
サーシアルートでの一幕に、応援に来ていたヒロインを同じく応援に来ていたマリアベルが罵倒し始め、ミスショットに見せかけてフェンス越しのスーパーショットをおみまいされるというのがある。
めちゃくちゃ怖かったです。高等部だから属性がすでに決まってて、火の玉が飛んできたからな。
一瞬、サーシアのルートは私ここで死ぬんだろうかと思ったくらいだ。
マネージャーなんかになったら、フェンス越しじゃないんだよ?そんな恐怖耐えられる訳がない。
「申し訳ないけれど、私運動部は……」
入りたくないとは明言し辛くて、何とか誤魔化そうと試みた。だって理由が理由だからね、攻略対象と同じ部は断固拒否ですなんて言えるか。流れ弾が怖いですは、根拠無く大丈夫と言われてしまえば終わるので言えないし。
話題を変えたい……そう思っていた時、丁度私達に近付く影が見えた。
「サーシャ、話してる所悪いけどちょっといいか?」
ナイスタイミング!良いです良いです、持ってけ泥棒!
「マリアベル様にお客様なんだ」
「え……私?」
サーシアじゃないの?私に用があるのにサーシアに先に声をかける辺り、私と彼の人望の差が計れるよね!
中一でまだまだ子供だけど、着実に悪女顔は出来上がってきてるし……女の子の成長期って確か中学生とかだった気がするけどどうなんだろう。
「階段の所で待ってるそうです」
「分かったわ、ありがとう」
にっこりと、笑顔を浮かべてお礼をいったはずなのに、ペコペコと頭を下げられるのは私の顔のせいか。
同級生に敬語を使われる時点で相当距離を取られているけど。でもいきなり私の方から距離を埋めたらさらに離れる気がする。
別にクラス全員と友達!とかは思わないけど……せめて一般的なクラスメイトレベルにはなりたい。
まぁそれは今度考えよう。プリメラ達に相談するのもありだし。
「サーシア様、申し訳ありませんけれど……」
「うん、いってらっしゃい!」
「授業までには戻りなよー」
「いってらっしゃい」
「分かってるわ、行ってきます」
サーシアや、プリメラ、エルにも手を振って教室を出た。
階段の所とは文字通り階段の踊り場。普通なら扉の所で待ってるんだろうけど、先輩後輩、同級生外の場合は人目が集まりやすい。一度ケイトがクラスに来た時も目立ったから踊り場まで移動したし。
って事はケイト?でもクラスの人はケイトの事知ってるし、お客様なんて言い方するかな……?
広い校舎に相応しい長い廊下を歩きながら考えている内に、階段の踊り場から私を見つけた答えの方から笑顔で手を振られた。
「マリアちゃん!ごめんね、呼び出して」
「カカトレウス様?」
相も変わらずキラキラした笑顔が格好いいですねー……とか、場違いな事を思ったりした。ケイトだと思ってたからちょっと意外。
カカトレウス・バーニー様、私の中では攻略対象よりもずっとイケメンだと称えられるお美しい先輩。
部活見学初日に出会ってから廊下や食堂で偶然会った時などに話し掛けられ、いつの間にかマリアちゃんと呼ばれるまでになっていた。
攻略対象でも関係者でもない、私のゲーム知識に一切引っ掛からない相手ですからね。優しくて美しい先輩なんて、なつく以外の選択肢はない。
「カトレアで良いって、カカトレウスなんて、長いだろう?」
「ですが、三年生の先輩ですし」
「その先輩が良いって言ってるんだから、ね?」
「……はい、カトレア様」
イケメンの笑顔って有無を言わせない迫力がありますよね。カトレア様は女の子ですけども。
でも何でこんなに可愛がってくれるのか。自分で言うのも悲しいが、マリアベルは可愛いげの無い顔立ちをしてるからなぁ。
「あのそれで……私に何か?」
「あぁ、ごめん。話が逸れたね」
わざわざクラスにまで来るくらいだから急用なのかと思ったけど、この雰囲気ではそうでもない……?
と言うかカトレア様が私に用事があるっ事自体予想外なんだけどね。
「マリアちゃん、もう部活は決まった?」
「いえ、まだ迷っていて……」
どこに行こうか迷っていると言うより、行き止まりでどこにも行けないって感じだけど。
「入りたい部とかも、まだ?」
「はい……部活に入ろうと思ったものの何も決まらなくて」
私の場合、ただ『部活』に入っておきたいってだけだから、決まらなくても不思議はないんだけど。沢山あるから一つくらい興味が湧く部があるだろうなんて楽観視はすでに木っ端微塵だ。
やっぱりオートモードが切れても帰宅部になる運命なのだろうか。
心の中でため息をついた私だったが、カトレア様は逆に笑みを強めた。
どうしたのか不思議に思うよりも早く、私の手を取ったカトレア様は前のめりになって、顔が近い。近くで見ても綺麗な顔だな。
「ならさ、生徒会に入らないっ?」
「……はい?」