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第四十三話 探検探索

 そのまま私とグレイ先生は敬語を外した話し方になれるのを名目にお喋りをしていた。

 すると後ろからパタパタと小走りで近付いてくる足音がして、振り返ると。


「マリア、ごめん待たせた……グレイ先生?」


「……ケイト、君?カイトさんの息子の」


「はい、お久しぶりです」


「久しぶり。大きくなったなー」


 待ち合わせをしていたからか、急いだ様子で駆け寄ってきたのはケイトだった。

 予想外の人物にポカンとするケイトとは対照的に、グレイ先生は一瞬驚きに目を見開いただけでケイトがこの学園に居る事自体には然程驚いていないみたいだ。

 グレイ先生はケイトが平民でお金持ちでもないって知ってるはずなんだけど……。


「マリアの入学と一緒にケイト君の事も書いてあったんだよ」


 私の疑問を詠んだかの様に、質問として声に出すより早くグレイ先生は答えを教えてくれた。

 なるほど納得。

 お父様は私の事を溺愛しているけど、私の幼馴染みで親友のケイトの事もとても気に入っている。 今回の進学に関して言えば、貴族として生まれた時から学園で学ぶ事が決まっていた私よりも急に進学、それも寮に入る事になったケイトの方が心配なのかも知れない。

 研修の身とは言え教師として学園にいるグレイ先生に気にしてもらえたら多少は安心だし。ケイトがそれに甘んじるかは別として。


「二人はもう寮に?」


「少し校内を見て回ろうかと。一人でも良かったんだけど、折角だからケイトも一緒にって」


「俺も途中入学で校内の事分からないから、ついでに」


「相変わらず仲が良いね、二人は」


 グレイ先生が私の家庭教師を辞めて……五年くらい、だっけ?

 どうやら私とケイトの関係性は五年経った今も変わらず見えるらしい。事実変わってないんだけど。

 あぁでも最近はネリエルも加わったから全く変化が無かった訳でも無いのか。


「それじゃあ目的も果たした事だし、俺はもう帰ろうかな」


「帰るんですか?」


「元々マリアに入学祝いを渡しに来ただけだから。それに研修生が自分の持ち場以外に行くのはあまりよろしくないんでな」


 身分を問わずお金持ちの血脈が集結したアヴァントール学園はセキュリティも厳重だ。

 学園に進学すると、王子でもなければ態々護衛をつけてはもらえない。中高一貫の学園で、ほとんどの生徒が寮に住み、教員寮まで完備した中で全員に気を配っている余裕なんてない。個別で雇うと言う選択もあるが、あまり人の出入りを円滑にしすぎると今度は警備に支障が出る。

 その為アヴァントール学園は生活の全てを学園敷地内で行えるようになっている。

 学園の敷地内には学業だけでなく生活に必要な品が手に入る街まで存在し、それを城壁で囲んだ姿は城郭都市をイメージして貰うと分かりやすいだろう。因みに街の名前は『オズタウン』と言う。

 そうやって生徒が学園敷地外に出る理由を無くす事で誘拐のリスクを減らしているらしい。

 

 そうした警戒体制のせいか研修生と言う新参の大人は一番に警戒される。学園の教師を抱き込むより、自ら教員となって騒ぎを起こそうとする者の方が多いらしい。

 その為研修生の間は行動に制限があり、あまり自由にあっちこっち出歩ける訳ではないらしい。勿論がんじがらめにされる訳ではないが、上司の目が光るのを無視できる図太さがないのならあまり目立つ様な事はしないに限る。


「それじゃあ二人とも、またね」


「はい、また」


「これ、本当にありがとうございました。またお会いしましょうね」


 ひらひらと手を振るグレイ先生に同じように手を振り返して見送る。

 次会うのはいつかなー……中等部にはこられなくてもオズタウンに出れば制限なんてないし、その内お礼を渡しにいかないと。


「これって?」


「さっきグレイ先生に頂いたの」


 そう言って、手のひらに乗るバレッタをケイトに見せた。

 赤、ピンク、黄色、オレンジと様々な色のストーンで作られた花が少し角度を変えるだけで煌々キラキラと輝いていてとても綺麗で可愛らしい。

 こんな女の子の為の物をグレイ先生が選んで買ったのかと想像すると少し面白い光景だな、似合うから余計に。


「スイートピーだな」


「へ?」


「その花、スイートピー」


 ケイトが指差す先は私の手のひら、正確には手のひらの上のバレッタについた花。花びらの形が蝶々みたいで可愛らしい。

 どうやらスイートピーとはこの花の名前らしい。

 私も名前は知っているけど、花自体は見たことがなかったから分からなかった。


「スイートピー……」


「『門出』って花言葉があるから入学祝いにはぴったりだな。後は『青春の喜び』とか『優しい思い出』とか」


「そうなんだ」


 お父さんも庭師で自分もその勉強をしてきたケイトだから、花について詳しいのは別に良い。昔から知ってるし、今更驚かないけどさ。

 花言葉まですらすら出てくる男子中学生は物凄い希少価値だと思うよ。


「流石ケイト、庭師の勉強をしてるだけあるわ」


「今は魔法を勉強する身だけどね。スイートピーとか、節目に使いやすい花言葉を持つのは覚えておくと使えるから」


「なるほど」


 将来有望で嬉しい限りですよ。

 本当なら今も家で庭師の見習いをしているはずだったんだよね。そう思うとちょっと考えさせられる。ケイトに言うとお前が気にする理由ないだろとか言われるから口には出さないけど。

 グレイ先生は兎も角、ケイトは完全に私が巻き込んだみたいな感じだもんなぁ……。


「マリア?」


「へ……っ?」


「行かないの?」


「あ……うん、行こっか」


 いかんいかん、少し思考が飛んでた。私達の目的は学校探索、下校時刻があるんだから悠長にはしてられない。

 私達は生徒手帳に載っている簡易の地図を片手に食堂を出た。ミルクティーは少し残しちゃったけど……ごめんなさい美味しかったです。

 

「思ったより特別教室の数は多くないのね」


 学園の大きさに比べると地図に載っている教室の数は随分少なく感じる。

 いや、高等部の校舎が別にある事を考えると建物の方が広すぎるのか。


「数より広さが場所を取ってるんじゃない?」


「……なるほど」


 確かに、教室広かったもんな。椅子と机が豪華で場所を取るタイプのだったからあんまり気にしてなかったけど。

 何だかんだ貴族として生活して来た私よりも、平均的な生活を知っているケイトの方がそう言う事に気が付きやすいのかもしれない。

 兎も角、数が少ないのは有り難い事だ、手間が減る。

 私とケイトは生徒手帳型地図を片手に特別教室のエリアへ向かった。 


 

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