第三十八話 カウントダウン
グレイ先生から始まり、ルーナにツバル、ネリエルとまで関わりを持ってしまった。ルーナはまだセーフゾーンだけど他三名は……特にツバルとは不安しかない関わり方をしてしまっている。喧嘩とは違うけど、色々ヤバイものを売り付けちゃった感はしないでもない。反省はしてないけど後悔はしてる。
それでも、まだ何とか救われていたのは彼らとの関わりが所詮は『社交場』に留まった一時的な物だからだ。
ほんの数時間、やり過ごせば後はいくらでも避けようのある関係性だったから。
だが、それもいつかは終わりが来る。
気が付けば中等部入学まで……後、半年。
× × × ×
「どうしよう」
カレンダーをみて気付いた事実に私は打ちひしがれていた。だって……後半年だよ?半年なんてあっという間、その後は六年にも渡る共同生活だからね?しかもケイトもいない、ネリエルは一年後、同級生には攻略対象がいるっていう三重苦!
テンペスト家は学園から遠いので私は寮生活が決定してるんです。うん、知ってたから覚悟はしてたけど、すでに五回経験してるし。
でもそれは今とは状況が違ったから平気だったのであって『私』としては初めてですからドッキドキです。
勿論、楽しみのドキドキではなく不安のドキドキですからね。
「……とりあえず、準備は始めないといけないよね」
新生活スタートに向けて、早め早めの準備です。
入学だけでなく入寮の準備もあるから早くもないけど。
教材は全部送られてくるから心配いらないけどその他は全部自分達で用意する訳だからね。寮への引っ越しも含めて。普通の学校だったら制服とかの採寸も全部学校に行ってやるんだろうけど……お貴族様は色々規格外でして。
「マリアちゃん、仕立屋さんが来たわよ」
「あ、はい!今いきます!」
行くのではなく、来てもらうんですね。聞いたときは驚いたけど外商とか、ドレスを作る時も仕立屋さんが来てくれるから納得ではあった。
まぁ普通は学校の制服まで適応されるとは思わないだろうけど。
「お待たせしました」
応接室に行くと、すでにお母様と仕立屋さんが準備を進めていた。
採寸をする人、デザインをする人、会計……お母様と私を除いても四人。ついでに生地の見本が閉じられたファイルだとか、試作のデザイン画だとか。私には使い方が分からない道具もあったりして。
再度確認しておきますが、これは中学校の制服採寸です。ただそれが貴族規模だからとんでもない事になっているだけで。
「では、失礼いたします」
まだ若い、お姉さんと呼んでも違和感の無い女性が私の体にメジャーを巻いていく。私はただ腕を少し広げて突っ立っているだけ。
お母様はその間にデザイン担当の人と話を進めている。
アヴァントール学園の制服は、式典用の基準制服さえ作れば後は自分の好きなようにオプションを着ける事が出来る。つまり、好きに着こなしていい。
女子の基準は白いフリルブラウスに紺色のコルセットスカート、白のショートケープ、紺の細リボン。
男子は白のブレザーに紺色のスラックス、紺のネクタイ。
因みにこれは中等部の制服で、高等部に上がるとスカートとスラックスが紺と黒のチェック柄に変わる。
とは言えこのまま着ている生徒はほとんどいない。
そのままでも十分可愛いんだけど……改造が許されるならするよね、自分好みに。特に貴族は『自分だけのオリジナル』とか『世界でただ一つ』とか言うのが好きな性分だし。
大抵はケープやリボンを変えたりするだけなんだけど……私が見てきた高等部の生徒で、基準制服とは別にスカートを真っ黒の布地で作ってきてる子がいた。
さすがに私は基準制服とは別に作る気は無いけど……どうせなら好きな風に変えたいよね。
「……はい、もう大丈夫ですよ。ありがとうございます」
数分もすれば採寸は終わり、後はデザインだ。
ソファーに座り例として持ってきてくれた沢山のデザイン画を見て、基準制服にプラスしてリボンとケープ……後靴下と靴も可愛いの作ろうかな。
「スカート自体が可愛いし、ネイビーはどんな色とも合うから……折角だし色々作りましょうか」
何だか私よりもお母様が乗り気だな。いつの時代も母親と言うのは娘を着飾るのが好きらしい。
「カーディガンは沢山あっても困らないわよね。色や柄を変えて……あら、これ可愛い!」
「ドルマンスリーブですね」
ドルマンスリーブ、ポンチョ、ロングケープ、ロングカーディガン。羽織るものだけなのに出てくる出てくるデザイン画。私よりもお母様が気に入って、あれよあれよと言う間に色々作る事になっていた。
まぁ私も女の子なので、可愛い服を着れるのは大歓迎なんですけどね。出来あがりが楽しみだなぁ……。
……あ、中等部入学後の対策考えるの忘れてた。