第三十四話 無理難題
と言うことで、ネリエルに会うためジュリアーノ家に来たは良いが……正直、何をしたら良いのか分からない。
あの時はお母様に余計な事を知られたくなくて反射的に引き受けちゃったけど、多分レイヴさんもイリアさんも私の事買い被ってるだけなんだよ。
引きこもりを改善させる方法なんて見当もつきません。
「えーっと……私の事は」
「レイヴお兄様から聞いてます」
「そう、ですか……」
会話が続かない。私も元々人当たりが良い訳じゃないし……と言うか、絡まれることの方が多いからね。フランシア様とかどっかのヤンデル人とか。
何でなんだろう……顔面のせいか?確かに歳と共に年々顔立ちもきつくなっていってるけど、まだ十歳だから許容範囲じゃないかな。
「ごめん、なさい……」
「へっ?」
ごめん、一瞬存在忘れてた。存在感無さすぎないか……私が別の事考えてたって言うのとあるだろうけど。
あれ?今なんで私謝られたんだろう。
「ぼ、僕のせいで……わざわざ、来て、もらって」
「気になさらないでください。私が自分で引き受けた事ですから」
声がつっかえがちなのは怖がってるのか、それとも通常運転なのか。出来れば後者が良いけど、それはそれで困るな。
うーん……まずは話し方を改善すべきか。
私がレイヴさん達から頼まれたのは二つ。
一つは彼の引きこもりを社交界くらいには参加するまでに改善する事。
もう一つは、彼に人との会話を慣れさせる事。
二つ目が何とかなれば連動して一つ目も何とかなるんじゃないか、って思ってたんだけど……まず二つ目の難易度が高かったって落ちか。
「そうだな……まず、ネリエル様は外がお嫌いですか?」
「へ……?あ、えと……そ、そんなことは」
「正直な気持ちを言ってください」
「ほ、本当に嫌いではない、よ……でも、お部屋が一番……安心、する」
外が嫌いなら目立たずにやり過ごす方法を探したけど、そうでもないなら改善の余地はある。
声が小さくて、話し方がつっかえつっかえなのは慣れるまで仕方ないとして、頭がぐらぐら動いて視線があっちこっちいってしまうのは治さないとダメだな。
挙動不審な上に顔が髪と眼鏡で隠れているから不審者に間違えられかねない。
「ネリエル様、目を見て話せないなら相手の鼻先を見るようにすると良いですよ」
「え……」
「先程から、私の目を見ようとしてくださってますよね?でも長い時間は耐えられなくて反らしてしまう」
ネリエルの目が確認できないから分からないけど、多分何度か目、あってたはず。
目があって、我慢して、耐えられなくなって反らす。だから頭がぐらぐら揺れてるし、挙動不審に見えるのだ。
確かに目を見て話す方が良い、って言うけど苦手な人は多いと思う。目は口ほどに物を言うって言うから、心を読まれる気分になるし。
「鼻先なら、相手から見ると目を見ている様に見えるらしいです」
まぁネリエルの場合前髪と眼鏡が邪魔でどこ見てるか分からないけど。
「そ、そうなんですか……」
「あまり頭を揺らすと挙動不審に見えますから」
「は、はい……」
一先ず会話さえどうにかなれば社交界に出るだけならなんとかなるはずだ。出るだけは、だけど。それ以上は保証しかねる。
にしても……これどこまでやって良いんだろう?
正直、彼を変える方法は知っている。彼のルートも勿論経験済みだから。
前髪を切って、眼鏡を外して、後は誉めに誉めちぎれば良いのだ。
簡潔にまとめ過ぎかもしれないけど彼のルートでのヒロインの行動はこんなもんだ。字面で見るとネリエルが物凄くちょろく感じるけど、ヒロインが頑張ったから……だと思いたい。
しかしそれを、私がやってしまって良いものか。
だってネリエルに自信を持たせるのはヒロインの仕事だし……何より私は彼の家庭環境を知らないはずの人間だ。
下手な口出しは逆効果になって、さらにネリエルを追い詰めかねない。
でもやりとげなくて何度も呼ばれるのも嫌だ。ジュリアーノ伯爵にバレたらどう利用されるか分かったもんじゃない。
どうしたもんかなぁ……。




