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第二十五話 神って疫病神の略ですか

 説明ください、誰か、今すぐ、状況の説明を!

 何て脳内でどれだけ叫んでも聞き入れてくれる人がいるわけ無いんだけど。

 でも何故だ、さっきまで影も形もなかったのに。

 私がスイーツに夢中で気付かなかっただけ?そんな馬鹿な。


「……マリアベル様、でよろしいですよね?」


「っ、は、はい。マリアベル・テンペストと申します」


 動揺しすぎてツバルを見つめたまま固まってしまっていた。不審……と言うか、困ったような笑顔で見られて漸く我に返った。

 動揺は現在進行形だけど、それ以前に私は貴族でここは社交場の一種。相手に自己紹介をさせておいて自分は呆けて無視するなんてあり得ない。

 慌てて立ち上がり、ドレスを軽く詰まんで頭を下げた。


「存じております。テンペスト家のご令嬢で、とても優秀な方だと」


「いえ、私は……」


「先程も見事にあしらっておられた」


「っ……」


 フランシア様と同じ事を言うのかと思った。罵倒の方ではなく属性持ちの方。だから否定しようとしたが、次いだ言葉には何も返せず曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。

 見られてたのか、さっきの。目立っていた自覚はあったけど近くにツバルがいたとは思えなかったのに。

 私の警戒心ってあんまり当てに出来ないかも。


「……それを、言いにいらしたんですか?」


 嫌味なのか称賛なのかは知らないが、だったらさっさとどっか行ってくれ。


「いえ、私はあなたとのパイプ役を頼まれただけです」


「パイプ……?」


 パイプ役。人や組織の間に立って両者の間の橋渡しをする役割の人の事。

 ……嫌な予感しかしないんだけど。


「ツバル、もう構わないか」


「ルーナ……呼ぶまで待てと言ったろう」


 ツバルの後ろから現れた、銀髪碧眼の男の子。

 着飾った人間が集うパーティーと言う場において、誰より耀くこの人こそ、本来ならおめでとうと祝福するべき本日の主役。

 ルーナ・ビィ・レオーノヴァ様。


「…………」


 貴族として、目の前に王子がいるこの状況で取るべき行動は頭を垂れて祝福をのべる事だけだが、ごめんそこまで頭回ってない。

 ハクハクと空気を排出するだけしか出来ない。

 ただ、私の想定していた中で結構悪い方の事態であることは間違いない。

 ツバルと話ながらもルーナ王子の目線は私から外れないし、これで背を向けて逃げ出したら確実に殺られる。不敬罪か何かで殺られる、多分。


「マリアベル・テンペスト嬢」


「っ、は、はい!」


 いきなり呼ばないで、心臓に悪いから。


「先程は、我が血縁の者が失礼を言ったようだね」


「血縁……って、フランシア様ですか?」


「あぁ」


 ツバルもだけどさ、何で知ってんの?あの時近くにいなかったよね?


「現場を見ていた方が教えて下さったんです」


 なんて、余計な事を……!

 思わず舌打ちしそうになった。してないけど。

 王子様の前で、そして私はお嬢様で、舌打ちなんてしたらヤバイ理由が多すぎる。


「フランには俺の方から言っておく、すまなかった」


「いえ、大した事ではありませんから……ルーナ様のお手を煩わせる必要はございません」


 と言うか、申し訳ないけど余計な事しないでください。

 王子様に謝らせてるだけでも問題なのにそんな事したら余計に目立つ。

 ……もうすでに目立ってるとか言わないで。


「大した事ではない、ですか……マリアベル様だけでなくお母様のご実家まで言われたと聞きましたが」


 この二人に報告した人、どれだけ詳しく言ったの?

 フランシア様の声は大きかった訳じゃないけど小さくもなかったし、目立ってた自覚もあったけどさ、そこまで詳しく言わなくても。

 いくら王族の分家と言え、私にあそこまで言ったのだから問題にはなるだろうけど……何でわざわざこの二人に言うかな。大人選べよ、それかもう無かったことにしてくれれば良かったのに……!

 ツバルもルーナ王子も物凄く疑いの目を向けてくるんだけど……これは言わなきゃ解放されない感じか。


「……目の色の事を多少言われました」


 かなりはしょったけど嘘は言ってない。事実メインで言われたのは目の色の事だったし。血統がどうとかは……正直あんまり聞いてなかった。


「確かにマリアベル様の瞳は珍しい色味ですね」


「だとしても、それは非難される事ではないだろう」


 ……何故だろう、恐怖対象から正論が出てくると凄く違和感。いや良いことなんだけどさ、何か……びっくりする。


「私は気にしていませんから、お二人もそうしてください」


「だが……」


「価値観は人それぞれ。私の目を美しいと見るか不気味と見るか、それは皆様にお任せします。私自身はこの色を気に入っていますから、他の方がどう思おうと関係ありません」


 だから不問にしてくれ、正直この事を大きくされると面倒臭い。


「ですから、王子も気にしないで下さいませ」


 そろそろ笑顔キープが辛いぞ。ついでに喉の方も水分がなくなってきてる。

 持ってきて貰った紅茶飲んだら……うん、ダメな気がする。私の為なようだけど、持ってきたのがツバルだし。

 何でも良いけどさっさとどっか行ってくれ。


「しかし──」

「ルーナ、お言葉に甘えてはどうだろう」


 助け船を出してくれたのは、ツバルだった。

 まさかのところから、だがしかしグッジョブ!


「公爵家の令嬢に分家が暴言を吐いたとあっては……どんな騒ぎになるかわからない。幸い王や他の大人には伝わっていないようだし」


 よし!そのまま!そのままルーナ王子の気持ちを折ってしまえ!


「……俺は、そう言うのは好かない」


「知っている。でもこのままではマリアベル様にもご迷惑だ」


 でも私を引き合いには出さないで……!


「正しくフランシア様を断ずるとしても、それはマリアベル様の預かり知らぬ場でやるべきだ。彼女がそれを望んでいないのだから」


「……分かった」


 全く嬉しくないハラハラドキドキで事態を見守っていたが、どうやらツバルはルーナ王子の説得に成功したらしい。

 ありがとう、今のでほんの少し好感度上がったよ。マイナススタートだからプラマイゼロにすらなってないけど。


「では今回はマリアベル嬢の寛大さに甘えるとしよう」

 

「ありがとうございます」


 寛大なんじゃなくて怠惰なだけだけど。

 フランシア様、今の私よりは歳上だとしても高校生ではなさそうだったし。中学生くらいだと思う。

 そんな相手に暴言吐かれたくらいで躍起になって迎え撃ったりしません。思春期とか反抗期とか色々あるんだろうなーって思えば可愛らしいもんだ。


「ツバル、俺は挨拶回りに戻るから」


「あぁ、分かってる」


「よし……ではマリアベル嬢、失礼」


 肩にかかったマントを翻して、私に背を向けたルーナ王子。

 諦めてくれたのは嬉しいんだけどさ……。


「……あの、ツバル様は行かれないんですか?」


「私はルーナの挨拶回りには関係ありませんから」


 私の隣には、まだツバルがいる。

 関係ないならなんで一緒にいたの……って、聞きたかったけど聞いたら話を蒸し返す事になりそうだからやめた。

 ルーナ王子、この人も連れてって。


「またフランシア様のような者がでないとも限らないので」


 どうやら護衛をしてくれるらしい。

 それはありがとう、でも私はあなたの隣にいるくらい絡まれた方がマシです……!


「紅茶、ぬるくなってしまいますよ?」


「……ありがとうございます」




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