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第二十二話 希望はイージー、現実はルナティック

 

 愕然とすると言うのはこういう事なのだろう。ルーナ王子とソレイユ王子の事で他の攻略対象にまで頭が回っていなかった。


 ツバルとネリエル、二人とも攻略対象だがルートの内容は真逆だ。

 伯爵家の末子であるネリエルは、性格設定がとにかく暗い。いつもおどおどしていて、気弱で、分かりやすく言うならばいじめられっ子の典型例。モスグリーンのふわふわした猫っ毛やエメラルドグリーンの丸々したたれ目、可愛らしい顔立ちの中性的な美少年なのだが、それを長い前髪と分厚い眼鏡で隠した陰気なキャラクター。

 理由は彼の両親にある。すでに社会に出ている二人の兄がとても優秀で、元々内気だったネリエルは事あるごとに比べられて育ってきた。

 お前は駄目な奴だ、役立たずだ、恥さらし。

 毎日のように浴びせられる罵詈雑言に、ネリエルの心は根本からぽっきり折られて一切の自信を失っていた。

 そんな彼をヒロインは慰め、元気付け、次第にネリエルは明るさを取り戻していく。

 ここまでなら、悲しい想いを心に抱えた美少年とそれを包み込む美少女の甘酸っぱい青春ラブストーリーなんだけど……それを良しとしないのが、皆様ご存知悪役令嬢マリアベル。

 明るくなった事で明らかになったネリエルの美しい容姿に目をつけ、二人が近付く事を嫌がり引き裂きにかかるのだ。

 丁度その頃、ジュリアーノが外交に成功した事でテンペスト家との縁談が持ち上がり……うん、絶対マリアベル何かしたよね、タイミング良すぎだもん。

 その後もすったもんだしながら、ハッピーエンドでは親とは縁を切り小説家として成功したネリエルはヒロインと結婚。めでたしめでたし。バッドエンドではヒロインと引き裂かれたネリエルは、マリアベルと結婚するくらいならと海に身を投げる。

 私?私はハッピーエンドならエピローグで没落、バッドエンドならネリエルの兄に色んな罪を着せられて処刑されます。

 安定の悪役の末路ですね。でも私はネリエルに対してはそこまでの危機感を覚えていない。

 確かに私の末路はいつも通りに明るくないものばかりだが、ゲームとしての彼のルートは本人の性格故か他に比べて穏やかな物なのだ。 悪役(マリアベル)の登場が一番少ないのも彼のルートだから、と言うのもある。


 そして、その真逆を行くのがツバルのルート。

 正直、彼のルートめっちゃ怖いんだよ。グレイ先生が一番関わりたくないと思ってたけど、訂正する。一番関わりたくないのこいつだ。

 ネリエルのルートが白ならば、ツバルのルートは真っ黒だ。いや、真っ赤かも知れない。

 何故ならば彼のルートは一番人が死ぬ、と言うか死んでいる。勿論私も含めて。


 ツバル・ミリアンダは侯爵家の子息で、一人息子とされている。

 しかし実は彼、身分は平民よりも更に下、つまり奴隷なのだ。

 ツバルの母親はミリアンダ侯爵が囲っていた娼婦で、彼女はツバルを生んだ二年後に女の子を生んでいる。父親は勿論、ミリアンダ侯爵。

 しかしミリアンダ侯爵は、娘が生まれるとすぐ母子を放り出してしまった。家を追い出され路頭に迷った親子は、奴隷へと身分を落としてしまう。

 スラム街での生活を強いられ、母は亡くなり妹も劣悪な環境から病に伏せっていた……そんな時、ミリアンダ侯爵の本妻との間に出来た跡継ぎが亡くなると言う事態が起こる。

 ただ一人の跡継ぎ、一人息子。ミリアンダ侯爵は考え、思い付いた。

 昔娼婦に産ませた男子、ツバルの存在。ツバルを息子として、跡継ぎとして迎え入れようと。

 勿論、ツバルは嫌がった。

 例え貴族になれるとしても自分達を苦しめる元凶に下りたくなど無い、と。

 しかし、ツバルには病を抱えた妹がいる。

 妹への薬と引き換えに、ツバルはミリアンダ家に入る事となる。

 それが侯爵家の子息、ツバル・ミリアンダの誕生である。


 ここまででもうすでに暗いだろう。そしてツバルはこの過去に相応しく性格を歪めていた。

 何て言うんだろう……ヤンデレ?デレ見た事ない私からすると病んでるって印象だけど。

 ミリアンダ家に入ってから出会ったルーナ王子とは幼馴染みの関係なのだが、カレンへの接触も元々ルーナ王子と関わる女を見極める為だ。

 いくら王子様だからって、幼馴染みの為にそこまでするか?私はケイトの為にそんな事しないぞ。

 この時点でツバルの『愛情』が重いのは理解していただけたと思う。

 因みにツバルのルートはルーナ王子のルートからの派生だ。ルーナ王子とある程度関わるとツバルが小姑みたいに登場する。

 そしてそこからツバルを攻略しようとすると……はい、お邪魔虫(マリアベル)のお出ましです。

 ツバルとヒロインがいい感じになってくると、ミリアンダ侯爵の命令でマリアベルとの婚約する事になるんですねー。私は絶対嫌だけどなこいつだけは。

 ツバルのルートでマリアベルは妹にまで嫉妬し、彼女とカレンの殺害を企てる。自分でも信じられなかったけど、マジでやりよったのよマリアベル。

 ハッピーエンドでは暗殺は失敗、マリアベルは殺人教唆で逮捕。バッドエンドでは暗殺は成功、ヒロインと妹を失い復讐に取り付かれたツバルに惨殺されます。


 本当に怖い。ハッピーでもバッドでも怖い。オートモードの時ですら恐怖だった。

 よりによってなんでこんな面倒な奴を忘れてたんだ……!


「明日……死ぬかも」


 勿論物理的では無く精神的な意味で。



× × × ×



 一晩経って、絶望気分のマリアベルです。

 夜通し考えたけど、ルーナとツバルの対策は思い付かなかった。ネリエルの事はすでに念頭から消えている。

 ルーナだけでも四苦八苦なのにツバルまでなんて……無理ゲー過ぎだろ、難易度はイージー希望なんですけど!


「マリアちゃん、準備出来た?」


「はい、入ってください」


「失礼……まぁ、やっぱりよく似合うわ!」


「うん、綺麗だなマリアベル」


 私の着替えやヘアメイクをしていたアンが下がって少し。ノックへの許可を出すとお父様とお母様が入ってきた。

 二人とも私をとても誉めてくれるけど、私からすればお二人のがびっくりするくらい綺麗です。

 誕生パーティーといっても相手は王子様、式典並みの仰々しさに相応の装いが義務付けられてるんだろう。いつもは控えめなお母様ですら今日は煌びやかに飾っている。

 二人とも九歳の子どもがいるようには見えない。


「キルア様、お車の用意は出来ていますよ」


「今行く」


 それじゃあ行こうか、と言うお父様に、笑顔を返せる訳も無く。

 私は丸腰で戦場に赴く無謀さに泣きたくなった。


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