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第十七話 悪い予感は嫌になるほど当たるよね

 目を開ければ、薄紫色をしたベッドの天蓋の裏。

 昔はピンクと白で纏められた大変可愛らしいお部屋だったけど……申し訳ない事に少女趣味過ぎて落ち着けなかったので一新させてもらった。

 今は私室も寝室も白を基調にアクセントカラーも薄めの紫にしたから目にうるさくなくて、例え高校生が使っても違和感の無い部屋だと思う。

 家具小物一つ一つの装飾が上品だけど凝っているし、天蓋ベッドなんて使っているから決して普通でもシンプルでもないけど。

 前に比べれば全然許容範囲内。


 とまぁ、現実逃避はこのくらいにするとして。

 私は何でここにいるのでしょうか?


「えーっと……」


 どこまで覚えてるっけ?

 たしか今日はオルセーヌさんの最後の授業で、何事もなくグレイ先生と授業受けてたよね。

 それでオルセーヌさんが最後に模擬の杖で魔法を使わせてくれて、グレイ先生が成功したから、次は私の番で──。


「あー……」


 思い出した……いや忘れてた訳じゃないけど。

 私が杖を振った途端急におかしな事が起きて、これはヤバイなって思って……そのまま気絶しちゃったんだ。

 あんな事になるとは思ってなかったけど、何より私にまだ気絶するだけの繊細さが残っていたとは。かなり焦りはしたけど、怪我をした訳でもないのに。


「……あれ?」


 と言うか、何で私無傷なの?

 あの現象が何かは、私もよく分からない。でもあれがある程度の『攻撃力』を持っていたのは確かだ。

 気絶した私がそれを避けられたはずもない。


「あの時……」


 起き抜けでぼんやりした頭に鞭を打ち、必死の気絶する直前の事を思い出す。


 誰かに、呼ばれた気がする。

 誰かに呼ばれて、その腕に庇われた気がする。

 耳に残る声には、聞き覚えがあった。あんな焦って上擦った調子の声は初めて聞いたけど、それでも間違えようのない声。


「グレイ先生……?」


 声変わりで大人びた声質はお母様よりも随分低い物だったけど、お父様やオルセーヌさんに比べれば貫禄のないまだまだ子供の声。

 私を庇ってくれた声の主はグレイ先生で間違いない……はず。


「マリアって呼ばれたような……」


 最後に聞こえた声は、確か『マリア』だったと思う。

 でも……グレイ先生は私をマリア様と呼ぶ。

 いくら生徒と言えど、私は公爵令嬢でグレイ先生にとっては雇い主の娘でもある。だから呼び捨ては無理だって、グレイ先生が来たばかりの頃に断られた。

 妥協案の『マリア様』にも初めは難色示されたし。 『マリアお嬢様』は長いって駄々捏ねてやっとオッケーしてくれたんだよ、確か。

 ……やっぱり、グレイ先生じゃないのかな?それとも言葉の方を覚え間違いしてる?


「マリアちゃん!気がついたのね!」


 喜びの声に顔を向けると、寝室の扉の所にお母様が立っていた。

 うーん、と私が頭を悩ませている内にお母様が室内に入って来ていたらしい。起きてないと思ってノックしなかったんだろう。朝呼びに来てくれる時はしてくれるし。


「お医者様は大丈夫だって言って下さったけど、心配したわ。痛いところはない?気分悪くかったりしていない?」


「心配かけてごめんなさい、お母様。大丈夫、どこも痛くないし気持ち悪くもないわ」


「良かった……待ってて、今お父様達を呼んで来るから」


 お母様は上半身だけ起こした私の頬や肩を触り、納得すると頬にキスを落として寝室を出ていった。

 初めの頃を思うと随分明るくなったなぁ……会えなくてやきもきしてたのが嘘みたい。

 軽やかな足取りで出ていったお母様は帰ってくる時も同様、ただし後ろには安堵の表情を浮かべたお父様とオルセーヌさん、そして何故だかグレイ先生もいる。

 いや、グレイ先生がいるのは問題ないよ?怪我とか心配だったし、迷惑かけた訳だし、謝りたかったけど……今、何時だと思います?

 中庭にいた時はまだ高かったはずの太陽はもう残像すらなく、空は真っ暗、お星様お月様がこれ見よがしに煌めいてる。つまり、間違いなく夜。夕方ですらなく、夜。

 帰らなくて大丈夫?親御さん、心配しない?


「マリア、良かった……心配したんだぞ」


「顔色も良さそうで、安心しました」


「お父様、オルセーヌさん、心配かけてごめんなさい。もう大丈夫です」


 お父様は頭を撫でてくれたし、オルセーヌは軽い触診をしてくれた。

 ただ何故かグレイ先生は黙ったまま、私を囲む三人の大人に自ら隠れるようにして立っている。

 喋らないし、動かない。お父様達に隠れて顔は見えないけど、隙間から見えた体には怪我らしいものは無くて、それだけは安心した。


「マリア、本当にもう大丈夫なのか?」


「はい、むしろ寝ていた分体力が回復しました」


「そうか……なら、少し話があってな」


「……はい、何でしょうか」


「俺では無く、グレイアスからだ」


 神妙な面持ちで『話がある』なんて言うから、てっきりあの出来事についてだと思ってこっちも真剣に聞く姿勢を示したのに。

 あっさりと引いたお父様にきょとんとしてしまったが、横に退いたお父様の陰にいたグレイ先生にきょとんとしたまま固まってしまった。

 もしかして、私何かしでかした……?

 グレイ先生が私を助けてくれたんだと思う。その人から話があるって言われたら、もう良い予感とかしないよね。自分の記憶に無いから割増で。


「俺達は席を外しているから、終わったら言いなさい」


「はい、ありがとうございます」


「え、あの、ちょ……っ」


 何でそこだけで話を進めるんですか。私の意見は無視か!

 何て言葉を口に出せるわけもなく、結局私はお父様達を見送るしか出来なかった。


「病み上がりなのに、すみません」


「いえ……ダイジョウブです」


 病み上がり、と言うか気絶してただけだしね。無傷だし、寝たから色々回復したし、体はすこぶる元気ですよ。

 精神面は真逆だけどな。


「あの……お話って?」


「俺は、今日で家庭教師を辞める事になりました」


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