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第十五話 異常はチャンスを連れてくる

 私とグレイ先生が衝撃から立ち直ったのは、それから数分後。グレイ先生が私に振り返った事で止まっていた体内時計が動き出した。

 二人でただ見つめ合って、驚きと感動を伝え合う。この瞬間だけは以心伝心(テレパシー)を信じても良い。

 率直に言おう、魔法すげぇ。


「どうでしたか、使ってみて」


 ぱちぱちぱち。両手を叩く音で私達はようやくオルセーヌさんを見た。

 すみません、正直忘れてましたごめんなさい。


「あ……あの、凄くびっくり、して……でも何か、感動しました、ぶわって……っ」


「ふふ、初めてなのに素晴らしかったですよ」


 何を言いたいのか分からないが、どうやらグレイ先生は物凄く感動したらしい。

 両手に模擬杖を握り締めて目をキラキラさせている。

 何か、年相応なグレイ先生、初めてだなぁ……。

 私がまだ幼いせいかグレイ先生はいつも大人びた調子を崩さないんだけど、今は年齢に見合う少年らしさがある。


「では、次はマリア様の番ですね」


「あ……は、はい!」


 うぅ、緊張する……!

 杖を握る手のひらにじんわりと汗をかいてるのがわかる。

 振った瞬間すっぽ抜けたりしないかな。握力云々じゃなくて手汗が原因で失敗とか……令嬢として微妙なラインだ。


「すー……はー……」


 鼻で息を吸って、口で息を吐く。

 深呼吸。大丈夫、私は正常。出来ると思えば出来る。私はきっとやれば出来る子だ。


「っ……」


 心を決めて、勢い杖をよく振り下ろした。


 ──起こったのは、その刹那。



「え──」


 可笑しい、そう思った時には遅くて。

 閃光と共に衝撃が腕を伝い、私は耐えきれず杖を放り出して尻餅をついた。

 私の手を離れた杖は、まるで自分の存在を主張し、強調し、認識しろと言わんばかりに輝きながら脈打っている。

 まるで、生きてるみたいに。

 

「マリア様……!!」


 オルセーヌさんが焦った様子で私の名前を呼んだけど、私はそれに反応する事が出来なかった。

 焦っていた。ビビってもいた。混乱してもいた。

 何が起こっているのか、上手く理解できなかった。

 ただひたすら何で?どうして?と疑問ばかりが頭を駆け巡っている。


 グレイ先生と同じ事をしたはずなのに、どうしてこうも違う結果が出たのか。これが個人差だったら笑っていられたけどオルセーヌさんの反応を見る限り、これは個性でなく異常であるらしい。

 どくん、どくん、高鳴る私の心臓にリンクしているかの様に杖も鼓動を繰り返している。


「マリア様、こちらへ……っ」


 オルセーヌさんがこちらに近付きながら手を伸ばしている。必死に、私を、グレイ先生を庇うために。

 しかしそれよりも早く、目に痛みを与えるほどの光は吸い込まれる様に消え、大きく刻んでいた鼓動は止んだ。

 何事もなかったかのように一瞬の静寂が広がったけど、それで安心できる訳はない。

 嵐の前は、いつだって冷たいほど静かだから。


「っ……!」


 再び強すぎる光を放って、でもそれがただ輝いているだけでないことはすぐに分かった。

 例えるなら爆弾が弾け飛ぶ一瞬前みたいな、衝撃が来る前兆の光。


 あ……これ、ヤバイ。


「マリア……ッ!!」


「え……!?」


 私の体が攻撃されるより先に、誰かが私を呼んだ。

 その声が誰かとか、返事をするとかよりも早く、私の体は暖かい何かに包まれた。


 それを最後に、私の視界は暗転した。






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