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第九話 駆け込み寺

 こうして『両親仲直り作戦~娘は家出編~』が決行される事となった。

 私の家出発言に両親が反応も出来ないほど驚いている内に、背を向けて走り出す。宣言をしたら駆け込み寺に逃げ込む、それが私の仕事だ。

 計画者なのに仕事が少ない……なんて思ったけど、私が入り込みすぎると今までと同じ、二人は子供の前だからと本音を隠してしまうかもしれない。


 振り返りたい気持ちを堪えて、私は足を早めた。



× × × ×



 家出と称してはいるものの私の駆け込み寺は敷地内にあったりする。

 場所は住み込みの使用人が暮らす建物で、外見はお洒落なアパート、その中の一室。

 呼び鈴に手を伸ばすと、カンカララーン、と甲高い音が響いた。今が明るい時間帯で良かった……これ夜中だったらご近所トラブルの火種だったよ。


「はーい……?」


「マリアベルです」


 子供の声で返答、扉が開いた先にいたのは予想通りケイトだった。

 

「はやかったね」


「おせわになります」


 私の駆け込み寺はケイトの家。勿論ケイトのお父さんにも了承は貰っているしオルセーヌさんからも話がいっているはず。

 実行も居場所も報告してある、何とも良心的な家出だ。


「とうさんはまだしごとだから、てきとうにくつろいで」


「おじゃましまーす」


 きちんと玄関で靴を脱ぎ、スリッパはない。 白を基調としたカントリー風の内装で、絢爛豪華な我が家と比べると些か地味ではある。

 だがしかし、私が求めていたのはこれだ。理想を言えばもっと地味でも良い。シンプルイズベスト、良い言葉だ。

 自室に始まり我が家の内装は目に優しくない作りだったから、それがこの世界の標準装備なのかと思ってたけど違うんだね。良かった、夫婦仲が改善したら模様替えさせてもらおう。


「荷物はそれだけ?」


「えぇ、一日ならそんなにいらないかなって」


 私の背負ったリュックにケイトが少し驚いた様子で言った。

 一応ご令嬢の立場だからもっとでっかい荷物持ってくると思ってたらしい。

 そりゃ私が大人だったらもっと……キャリーケース並の荷物があったかもしれないけどさ、四歳児だし、化粧品もヘアアイロンも必要ない。

 いや、天然パーマに悩まされる私としてはヘアアイロンは必須なんだけど……四歳の手じゃどう頑張っても使いこなせないからね。


「ドレスとか、お手伝いの人がもってくるのかとおもってた」


「一応家出だから。ここに来ていることはオルセーヌさんにいってあるけど」


「それって家出?」


「お父様達はしらないから、家出のはんい内よ」


 私が荷物を下ろしている内に用意してくれたのか、振り替えるとテーブルの上にマグカップがのっていた。意外と気が利くんだね。今まで結構失礼な事言われてたから、見直したよ。


「ありがと」


「おちゃしかないけど」


「わたし、おちゃ好きよ」


 そう言ってから一口飲んだお茶の味は、やっぱり私の好きな味だった。

 この世界で、貴族の飲み物の主流は紅茶だ。その為様々な種類や銘柄への探求が止まらない。私が寝る前に飲むミルクティーも様々な銘柄が用意される。違いが分かった事無いけど。

 逆に、お茶は庶民の飲み物だ。その為種類も銘柄も限られて来るし、量産品なせいか味も平均的。令嬢としてそれなりに贅沢をしている私の舌には合わないはずの代物。


 でも私はこの安っぽい味が好き。


「こっちの方がおちつく。良いものはおいしいけれどきんちょうしちゃうから」


「おじょーさまなのに?」


「おじょうさまだからよ」


 作法に気を使わないといけないし、味の違いを繊細に感じ取らないといけないし、面倒臭くて仕方ない。特に味覚に関して私はかなり大雑把だ。

 高くても不味い物もあるし、ジャンクフードを美味しいと思う事だってある。分かりやすい味付けが好きなせいか、繊細な高級料理は正直難しい。

 マリアベルだったらそんな事無いんだろうけど……味覚なんて操作出来るものでも無いし。

 

「たいへんだな、おじょーさまも」


「楽もさせてもらっているから文句言えないけどね」


 お金に困らず、私の将来の為に投資も惜しまない。大人だったらプレッシャーになりかねない背景も子供の内は最強の後ろ楯だ。

 死亡フラグをへし折らなければならない身分としては特に、攻略対象に意見できる身分と保険と実益を兼ねた将来(まほう)の勉強をさせてもらえる現状は大変だけど不満は無い。


「……あとはお父様とお母様が仲よくなってくれたら言うことなしね」


「今日一日でかいけつすると良いね」


「する!絶対!!」


 と言うかしてくれないと困る!!

 お父様のスケジュールは今日しか押さえてないんだから。オルセーヌさん、どうかよろしくお願いします……!!



 心の中で合掌していた私の心労が解決するのは次の日。

 笑顔で並んだ二人に出迎えられ、その斜め後ろに控えたオルセーヌさんがしっかりと頷いてくれた事で成功を確信した時だった。

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