第九十八話 お口はみっふぃー
私が来た時少し扉が開いていた事、誰かいると思って室内を見たらすでに今の状態だった事、特に怪しい人影は見ていない事。
一通り、順を追って、説明した。控え室に来た関係者全員と、誰かが呼んだらしい教師も含めて。
あまり説明が得意ではない身だが、持ちうる全ての力を使って。可能な限り懇切丁寧に、頑張ったんだよ。
「そう……」
「君の主張はよく分かった」
主張じゃなくて事実だわ、嘘偽りない現実なんでお投げいだからそんな目で見ないで下さい。
お前が犯人だろ、嘘付いてんじゃねぇ……って顔に書いてあるからな。
とはいえ、私が犯人である証拠はどこにもない。私じゃないから当然だけど。納得はいっていないようだったけど、特にそれ以上何か言われることはなかった。
「クリス様、大丈夫ですか?」
「今から新しい衣装を作るのは不可能ですし……」
そういえば、あのボロボロにされた衣装の持ち主はクリスティン様だったようです。だから余計に私の容疑が濃厚になった訳ですけど。
コンテストの上位二名は、クリスティン様と私でほぼ確定だ。そんな中、クリスティン様の衣装が害されたとなると……そりゃもう一人の優勝候補が怪しいわな、この場合私。
これで私の衣装もボロ布にされていたらまた違ったのだろうけど、私のは衣装も小物も綺麗なまま、傷どころか埃すら被っていませんでした。オーダーメイドじゃないから候補をいくつも持っていたのに、一つも動いた形跡がない。
客観的に見て私めっちゃ怪しいな、これは少しヤバいかもしれない。
とはいえ、焦ってもいないんですけどね。これからの展開を想像すると面倒臭くて辟易するが、疑われる事自体は正直気にしていなかったりする。さっきから鋭い視線がぐっさぐっさと刺さるが、まぁ無視出来るレベル。
冤罪の挙げ句捕まったり、そのまま首ちょんぱされる事を思えば、疑われても捕まる事のない現状は煩わしいけど所詮その程度。簡潔に言うとへっちゃらです。
「私ので良ければ、お貸ししましょうか?」
「え……っ?」
「私が元々所持していた物ですが、社交界に着ていく分には問題ないものですし……候補としていくつか送ってもらいましたから」
うわー、めっちゃ睨まれてる……一応気を使ったつもりなんですが。犯人っていうフィルターのせいで全てが嫌味に聞こえているのだろう。
もし私が犯人なら全員分の衣装をやるわ。一人だけ、しかも自分と張り合う優勝候補の分だけなんて、疑われるの確実な馬鹿のやり方。部屋ごと荒らすか、ランダムで他の人のもやるくらいはしないと。元悪役の評価は赤点です。
ま、どちらにしろ私にはする理由もないし、まずクリスティン様のドレスを狙う事は出来ない。
だって私、クリスティン様のドレスを今日始めてみたのだ。どんな色かも知らなかったし、デザインに至ってはアフターしか知らないので未だに正規の形は分からない。
それを行った所で苦しい言い訳程度に捉えられそうだから黙っとくけど……多分私が見てないだけでどっかに名前かなんか入ってるんだろうし。
「私に合わせて作りましたからサイズが合えばの話にはなりますけれど」
「……それしか、無いわよね」
苦虫を噛み潰した様な表情で、渋々とクリスティン様は頷いた。本当は最重要容疑者に借りたくなんてないんだろうけど、今からオーダーしたって当日までに完成するのは不可能だし。実家から送ってもらう手もあるが、この件をあまり大事にはしたくないだろう。クリスティン様も、学園側も。下手をすればコンテスト自体が中止だ。
となると、クリスティン様の衣装が無い事になってしまう。制服で出る事が禁止されている訳ではないが、オーダーメイドのドレスが犇めく中では確実に浮く、悪い意味で。素材がどれ程よくとも、着飾った姿の華やかさに勝るのは難しい。
例え既製品でも制服よりはいくらかマシ、借り物であっても同様。
「……それじゃあ、お願いするわ。サイズは、ある程度なら誤魔化せるし」
「いくつかありますので、お好きな物をお選び下さい」
私が着る物を除いて、残りは三着。どれも派手さはなく、清楚もとい地味目な色とデザインだ。
私にはどれも似合わないけど……クリスティン様ならばっちり着こなすだろうね。清楚な美人だから。似たような衣装なのに持ち主より似合うってどうなんだろ。
これ確実に私が引き立て役だよね、これで私が犯人だったら恐ろしく頭悪くない?その辺を鑑みて頂けると容疑者から外しても問題なくない?私の口から言ったら、それを見越してーとか無駄な勘繰りを生むので言わないけど。
「今日の事は、皆の胸の内に」
解散する直前先生からも、そしてクリスティン様からも念を押された。下手に騒ぎを大きくしたくない事、下卑た勘繰りをされたくない事、犯人を刺激するのも危険だという事。
理由は多々あるが、とりあえず噂流すなよって事なんですが。
翌日には、私がクリスティン様への妨害行為を行ったという噂が学園中を飛び交っていた。
……うん、だよね。人の口に戸は立てられないから。




