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第六話 「偏屈者の邂逅」

滑り込みアウト!(更新したとき、六月上旬から三十分オーバーでした)


お待たせしました、六月上旬分・エンチャ六話です

「客人よ、貴方を歓迎しよう。

 ようこそ、商いの町へ。コーエキーの町で良き商売を、良き日々を」


 紋章の人物の言葉とほぼ同時に、門が完全に開け放たれた。


 その瞬間――それはまさに、音の大爆発。

 開かれた門から、洪水のような勢いで、町の喧騒が俺に向かって溢れ出してきた。


 東京の様な、道路を行きかう車やバイクのエンジン音とは違う。

 祭りにも似た、人が張り上げる声、それに応える声が町全体を覆っているのだ。

 他にも、なにやら独特な楽器と思しき音色など、その音の多様さは、俺個人の耳では聞き分けることは到底出来ない。


 一見、調和が取れていないような、それぞれの音が好き勝手に垂れ流されているように感じるが、それは間違いだ。

 人の放つエネルギーと言うべきか。

 そこには、音楽的な調和とはまた違った、音色と言う意味ではなく、エネルギーの質と言う意味での調和がある。


 地球の様な科学技術に頼ることの無い、全くの人力だけで町が回っている、そう感じた。


 コンクリートジャングルの半ば自動化された都市を人が行き来するのではない。

 人の手によって作られた、レンガ製・木製・何やらよくわからない素材(魔法的な素材か?)製の町を、人が、人と人との係わり合いで運営していくのだ。


 都会暮らしをするうちにいつしか忘れ去られた(マンションと言う住居体系もそうだ)『お隣さん』などを初めとした、暖かな人と人との付き合い。

 そういった付き合いが無くとも回っていくように設計された、社会システム。


 意図したことではなかったが、そういった『機械化』『自動化』と言った、冷たい社会を作る一番の要因となりうるような技術を研究していた俺には、はっと気づかされるような物があった。


 必ずしも科学が悪いとは思わない。

 だがしかし、ファンタジーのRPGの舞台が、オンラインゲームの舞台が、近代都市だったことはあったか?

 科学の世界に暮らすからこそ、むしろ、科学の無い世界に憧れるのだろう。


 ネット上の掲示板や、SNSなどのサービス。

 それらを通じての人と人とのコミュニケーションを、なぜあそこまで面白いと感じていたのか。

 そうか。コンクリートジャングルに埋もれるように暮らす俺たちは、意識しない心のどこかで、こういった世界を望んでいたのかもしれない。


 思わず、その景色に圧倒されている俺に、横合いから、衛士の一人が話しかけてきた。


「ファーファはこちらで預かろう。

 コーエキーの衛士が責任を持って管理すると、約束する」


 移動手段――十中八九、ファーファだが――を無料で預かるのは、この町の評判のサービスの一つえだそうだ。

 商いの町を名乗る以上、物流を活発化させるため、他の地方からも商人が訪れやすくなるように、こうしたサービスを行っているのだという。


「そうですか。それではお願いします」


 断る理由は無い。

 チョコ坊を彼らに預け、俺は単身コーエキーの町に入って行った。


 この――門をくぐる瞬間の興奮!

 こんなワクワクした気持ちを感じるのは、果たしていつ以来のことだろうか。


 気がつけば、ゲームすら作り手の側に立ってプレイしていた。

 やれ演出はどうか、メニューは使いやすいか、ユーザビリティを考慮しているか、もう少しスマートにプログラミングできないものか、ローディングの短縮が出来ないものか。

 もともと俺がロジカルで、捻くれた視点で考える性質たちと言うのを差し引いても、あまりにも『ワクワク』と言う気持ちとは無縁の生活だったと言わざるを得ない。


 町の中に入るや否や、大通りの両脇を固める様に立ち並ぶ屋台や店舗から、俺に向かって声がかかり始めた。

 自動車が無いからそうなるのが必然ではあるのだが、大通りは歩行者天国の様相を見せている。


 焼きそば! 焼きそばは要らねぇか!

 武器、防具、ハンターに必要なもんが揃っとるよ!

 皇帝直轄領の鉱山からとれた、上質な魔法石だ! 限定十個! 早い者勝ちだよ!


 石造りの大通りの幅は、道路で言うところの六車線ほど。

 人が歩くことのみ(大八車は通るが)を目的に作られた道としては、相当広いだろう。


 もしかすると、軍事行動をする際は、横隊を組んで大人数で移動するのかもしれない、とも思った。


 声をかけられて、屋台を一つ一つ見ていきたいのは山々だが、しかし、今やるべきはそれではない。

 店は逃げないのだ。物色することなら、あとからでも適当に出来る。

 声をかけてくる彼らに愛想笑いを返しつつ、胸の中で渦巻く興奮を無理やり押さえつけつつ、とりあえず町の中心部らしきところへと歩を進める。


 何をしようにも、街の構造が分からないには、どうしようもない。

 町を囲う城郭の中を、無数の建物と大通り・小道が入り乱れるようにして構成する町。これがざっと歩いてみたところの感想だ。


 どうやって生計を立てるのか、そもそもどういった職業があるのか、社会システムはどうか――。

 この町の地図でもどこかで手に入れて、もし市役所的な場所があるなら、そこで町の説明でも受けてみたい。


 適当に周りを見渡し、気さくそうな商売人を見つけて話しかけてみよう。

 町を行き来する屋台の人たちよりも、固定の店舗を持っている人――つまり、この町に定住して居そうな人に話しかけるのがいいだろう。


 少し悩んだ末に選んだ店舗に近づき、その看板をよくよく見て、思わず唖然とした。


 『ハンター武具専門店 初心者用品取り揃えてます』


 看板に書いてあったのは、紛れも無い日本語だった。


          ◇


 に……日本語なのか! 日本語で書いてあるのか! ここでは日本語を使っているのか!

 何故だああああああああああああああああ何故なんだああああああああああああああああああッ!


 いやもちろん日本語は好きだし、むしろ苦労せずに読めるからありがたいけどさ!

 なんか、違うだろう!


 勉強するのは苦しいだろうけど、ファンタジー感あふれるミミズっぽい字を期待していたんだ、俺は!

 百歩譲って英語なら許したさ! 事実上の世界標準語だし!


 なんか違うだろおおおおおお!


 言語へのツッコミはさておき、と言うより、勉強せずとも読める事に感謝しつつ、店に立つおっさんに声をかけた。


「すみません、ちょっといいですか」


 俺が選んだ店は、武具専門店だ。

 店主が気さくそうだと言うのも理由の一つだが、一番は初心者用品があると言うことだ。

 初心者へのサポートは他店よりも充実しているだろう。


 ハンター初心者どころか、社会初心者なわけだが、細かいことは、まあ、後でどうにでもなるだろう。


 コンビニより少し大きいくらいの店舗には、所ぜましと武具が並べられていた。

 店の奥はそのまま工房になっているようで、赤く光る炉と散乱する工具類が見える。


 やはり町の中心部に固定の店舗を持っているだけのことはあり、そのレンガ造りの店舗は、今まで見てきた中でも一際大きな規模を誇っていた。

 店も老舗なようで、レンガの色が店の壁のところどころで変わっており、何度か増改築を繰り返したことがわかる。


 軽く手を上げながら近づくと、腕組みをして立っていた店主もこちらに気づいた。


「お! あんちゃん、ハンター志望か!

 いいねぇ、ほら見てってくれよ!」


 俺ぁダウニーだ、と爽やかに名乗った店主は、正真正銘のドワーフだった。


 茶色に近い金髪の髪とヒゲ。

 口元に輪のようにひげを生やし、そのヒゲの輪はもちろんもみ上げと一体化している。

 ウェーブのかかった(汗でびしょびしょの)髪はバンダナで後ろへ流してある。


 地球のファンタジーで見てきたように、低めの身長に毛むくじゃらの体毛、そして筋肉の塊のような姿だ。

 少し緑がかった、浅黒い肌からは、体筋構造が簡単に見て取れる。

 妖精の一種だからか、耳はとんがっていた。


 これでもドワーフでは大柄な部類のようだが、その身長は俺の肩にも満たないくらいだ。


 一言喋るごとに、オーバーなジェスチャーとともに汗が撒き散らされるが、あくまで爽やかである。

 むさくるしいが、あくまで爽やかである。


 人がよさそうだ、と思いかけた次の瞬間、その感想は木っ端微塵に砕かれることとなった。

 俺の背中をバンバンと叩きながら店内へと俺を連れ込むダウニーの、最初の台詞は、こうだ。


「最近の駆け出しはぁ、初っ端から、いっちょ前の装備を欲しいなんて言い始めるがなぁッ! 俺ぁそんなのお断りだああああああッ!」


 俺、唖然。


 客商売よ、あなた。

 断られてどうしろと。それにあんた、断れる立場じゃないだろ。


「初めの頃は筋力もねえッ、経験もねえッ、金もねえッ! そんな状態だからッ、武器も防具もすぐダメにするッ! だからやっすい防具にしておくのが、一番いいんだあッ!」


 こぶしを握り締め、通りに向かって叫ぶように(厳密には、大通りに並ぶ他の武具店、通りを行きかうハンターたちに)演説を始めるダウニー。


 そういえば、コンピュータの勉強を始めようと思い立ったとき、見栄を張って難しそうな参考書をかっては自爆を繰り返したなぁ。


 ああいうのって、結局、『かんたん』『やさしい』なんて文句が踊ってるようなやつを買うのが一番なんだよ。

 所詮初心者、見栄を張ったって仕方ないだろ、と気づくまでに随分かかったもんだ。


 唖然としたまま、どこか遠い目で昔を振り返る俺。


「ついでになぁ! 俺ぁ、戦場で見栄えなんてもんを気にする『騎士』なんて奴らも大っ嫌いだぁッ! 戦場に見栄もクソもあるかッ! ファッキン、ノブレス・オブリージュゥウウウッ!」


 両手でメガホンを作って。

 自重しろよ、おい。


 大通りに面した位置に店を構えているダウニー。当然、人の目につく。

 こんなところで、こんな大声で、『騎士』の批判。

 (よく分からないが、ダウニーの話から察するに、『騎士』がファンタジーや地球の歴史と同じく、貴族然とした高位の人だろうことは分かった)


 ……が、俺の視界に映るのは、苦笑いしながら俺を見て、通り過ぎたり、遠目に見物する人ばかりだった。

 勝手にアフレコするなら、『あーあ、可哀想に。また新人がダウニーに捕まってんぜ』と言った具合だ。


 なるほど。ダウニー……お前、有名なのか。


「とはいえ! そんな駆け出しのやつらの唯一の長所は勢いだ! 強者への憧れだ! 夢だ!」


 唯一じゃないな。結構あるじゃねえか。


 もはやどうしようもない。

 俺に出来るのは、手持ち無沙汰なまま、隣でオーバーアクションで演説をかますダウニーを見ていることだけだ。


「だからこそッ! 俺の店のモットーは堅実な性能ッ! 安いッ! シンプルッ! 頑丈ッ! 軽いッ!

 俺ンとこの技術はアアアアアアアアアアアッ! 世界一イイイイイイイイイイイッ!」


 堅実な性能、安さ、頑丈、軽い、シンプル、簡単な仕組み。

 ……俺の、モットーじゃないか。

 ……俺の、モットーじゃないか。


 俺の、モットーじゃないか。


「ほう……」


 思わず、口をついて出た言葉だった。

 お前、話が分かるじゃねえか、と。


 ほとんど素。何も考えず、ほとんど反射。

 言ってしまった瞬間、俺の頭の中を駆け巡る『マズった』の一言。


 やっちまった……。

 そう思って、恐る恐る(しかし、偉そうな口を叩いてしまった手前、平然な風なポーカーフェイスで)顔を上げる、そこにあったのは、珍妙な動物でも見る様な目で俺を見る、ダウニーのポカンとした顔だった。


 そして、彼はその顔をゆっくりと笑みに変え――


「坊主。お前、話が分かるじゃねえか」


 その瞬間、全てを悟る。


 彼の顔を見て、俺の口の端も自然と上がる。


「俺が見誤っていたか。

 お前も、俺達の側の、作り手ってわけだ」


「分かりますか?」


「おう、お前の目をみりゃぁ、すぐ分かる。

 こりゃあいいもんを作る職人の目だ。

 若えのにいい目をしていやがる……ッ!」


 まさか、この世界に来て、この極端な思想を理解する人に出会えようとは……ッ!


「野郎どもっ!

 新入りだぞおッ!」


 ダウニーが店の奥の工房に向かって叫ぶ。

 いつの間にかここで働くことになってしまっているが、特に異存はない。


 ダウニーの声に応えて、奥の工房から、さながらトーテムポールの様に、ずらりと、四人の男たちの顔が並んだ。

 ドワーフ、ヒト(ボールド曰く、ヒューマンと言うらしいが)、リザードマン(俗にいうトカゲ男である)、エルフ。


 単に身長差から、縦に並ぶと綺麗に全員の顔が見えるというだけなのだが。


「新入りか。歓迎するぜ」


 ヒューマンのおっちゃんが代表して告げた。


 初心者装備を扱うという看板に乗せられ、大通りの有名人である(良くも悪くも)ダウニーの洗礼を受けるはずだった青年が、予想を盛大に裏切り、むしろダウニーと固く握手を交わし、工房の男たち(これまた偏屈で有名な)と肩を組んで店の奥に入って行く。


 一見、人がよさそうに見えた青年もまた、彼らと同じく偏屈であったのだ。

 一部始終を見ていた人や、周囲の店の店主たちは、その光景にしばらく固まったままだったという。


 後になって、近くの店の人から聞いた話だ。

なんか、変な気がする。

いろんなところに違和感。


展開が速すぎるというか、なんというか。


と言うわけで、ディティールアップ期間に入ります。

プロローグから、文章を大幅改稿!


それと、更新ペースを上げようか。

さすがにこのままじゃ遅すぎるかな、と。

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