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第五話 「交易の町」

お待たせしました。

五月下旬分、エンチャ五話です。


そろそろ作者のダークサイドが見えてくる頃。

「……日の出、か」


 山の向こう側から日が昇り始め、這うように冷気が漂う朝の森を、日の光がゆっくりと温めていく。

 まともに日の出を見たのは、幼いころに父親に連れられて見た初日の出くらいなものだったと思う。


 道はしばらく前から、『森を貫く馬車の通れるスペース』と言った感じから、石畳による舗装道路に様変わりしている。

 段階的に道が広くなって行き、今では馬車四台ほどが横並びに通れそうなくらいの広さだ。


 本来、人の住むべき領域で無いはずの所に無理矢理に居住空間を作ったようなスタト村とは違って、人が住むべくして住んでいる場所がこの町なのだろう。


 さらに暫く進むと、森が切れて木々が疎らになり、道の向こうに朝日に白く輝く城郭が見え始めた。


 『ある程度の大きさの』町とは言っても、こんなにまで立派な城塞都市なのか。

 常に外敵からの攻撃に脅かされているのだろう、と意外な形でこの世界が過酷な環境にあるのだと気づかされる。


 城郭で囲まなければならない程に重要なのは、王都くらいなのだろうと思っていたが、どうやら根本的に考え方が違っていたようだ。

 ただ人がまとまって住んでいることだけではなく、魔物に対して一定以上の防衛能力を持っていることが『街』としての最低条件なのだろう。どちらかと言うと、スタト村が異常だったのかもしれない。


「そろそろ着くぞ。起きられるか?」


 俺の太ももの上に横たわる一人の人物。

 その恰好こそ干された布団の様ではあるのだが、その『干された布団』はそんじょそこらのモノとはレベルが違う。

 高級品。絹とかサテンとかそんなレベルじゃない。


 何を言ってるのか。

 要するに、美人なのだ。可愛いのだ。全部許せちゃうのだ。


 魔物の犬三匹を始末し終え、若干途方に暮れつつ、倒れた甲冑の人物を揺すり起こしにかかった俺。

 悲鳴自体は女性の物だったが、現場に倒れていたのは甲冑の人物。俺の聞き間違えだったのか、それともこの人物は、悲鳴を上げた女性の護衛か何かだったのか。


 よく分からないが、とりあえず起こすか。


 そう思った俺は、とりあえず甲冑を脱がしにかかる。

 騎士は見栄えを気にするとは言うけど、その象徴たる甲冑もれっきとした防具。素人が引っ張った程度じゃ簡単には脱がせられないのだろう。


 脱がし方とか知らねーわ。

 半ば投げやりになって、兜を引っ張った。


 すぽん。


 ほとんど何の抵抗もなく抜けた。

 頭ごと取れたんじゃないか!? 思わず手に持った兜に目をやると、当然、兜の中身は空で、丈夫そうな顎紐もついている。もちろん千切れてはいない。


 では何故、こんなにも簡単に兜が脱げたのか。

 甲冑の人物に目をやると――


 小柄な、金髪の女の子だった……。


 流石にこのまま飛ぶとなるときついだろうが、人二人を乗せて歩く程度ならば、ファーファにはどうという事はない。見た目で『これくらいしか積めないだろう』と思う二倍は優に積める、その(間抜けな)見た目をいい意味で裏切る積載能力こそが、ファーファの魅力なのだろう。


 ぺちん。ぺちん。


「起きないのか? いいのか?」


 ばしばし。べしべし。


「知らんぞ。このまま町の人に引き渡しちまうぞ」


 むにゅー。むにむに。


「いいんだな。起きないんだな」


 なに俺一人で喋ってんだろ。

 アホくさ。


 しかも、見ず知らずの女の子にこんなべたべた触って、だ。


 でもな、女の子と半径一メートル以内の距離にいるなんて、それこそ何年ぶりの事か。ここ数年、半径一メートル以内に何かいるとすれば、それは十中八九、機械だったのだから。


 嬉しいなんてもんじゃない!

 しかも相手は寝てる! 寝・て・る!

 かっちこちになって(下ネタではない。決して下ネタではない)、表情筋をひきつらせたこの間抜けな姿を見せずに済むんだいやっほおおぉおおぉぉう!


 ……何がともあれ、起きないのなら、まあ仕方ない。

 警察っぽい人たち――そういえばボールドが『憲兵』なんてのが居るって言ってたか――に引き渡せば、それで万事解決だろう。

 あまりこの子をだしに使うのも気が引けるが、それで感謝料なんかでも貰えれば、万々歳だ。


 道はいよいよ広くなり、その先に大きな馬小屋らしき建物と、城郭の大きな門、そしてそれらを警備する衛兵らしき人たちが見えてきた。


 見えるかな、とチョコ坊の上から衛兵たちに向かって手を振って見せた。

 あちらからも見えていたのか、いや、こちらよりも先に気づいていたのか。……まあ、とにかく、向こうもこちらに手を振りかえしてきた。


「スタト村からのぉーっ! 行商人かぁーっ!」


 衛兵の一人が大声でこちらに問いかけてきた。

 何もこんな遠くから確認しなくても、とは思うが、もし町に対しての敵であった場合、早めに対応を取らないといけないのだから、こういう対応なのが普通なのかもしれない。


 こちらも負けじと言い返す。

 こんなにまで大声を上げるのはいつ以来の事か。


「旅の者だ! 街へ入らせていただきたいッ!」


 この道はスタト村にしかつながっていないのだから、『旅の者』という答えは変なのかもしれないが、今の自分の立場を説明するとすれば、これくらいしかないだろう。

 ここらへんの受け答えの文句は、既にボールドから教わっていた。


「積荷は何だーっ!」


「自分の生活用品くらいだ!」


 この子の事も言わないといけないのかな。


「――それと、ティープの森で、魔物に襲われていた人を保護した!」


 魔物に、のあたりから明らかに向こうの反応が変わった。身構える、と言うよりは、どよめくと言う方が近いか。

 向こうの人の動きがにわかに騒がしくなり、数人の人があわてて動き始めた。

 門の詰所と思しき建物に駆け込むもの、そこから出てくるもの。門の隙間から町の中へと入ってゆくもの、出てくるもの。


「もしや! その方はき――」


 き――。

 何を言おうとしたのか、俺に向かって叫ぼうとした人物は直後、同僚によって口を塞がれてしまった。

 口の動きなど到底見えはしないが、数口、言葉を交わすとその周囲の人も全てを察したようで、何も言っていないぞ、と言う風に再びあわただしく動き始めた。


 とりあえず引き取ってもらうか。

 そう思って言葉を続ける。


「残念ながら勝手が分からない! しかるべき場所で保護してやっていただきたいっ!」


「分かった! その方の特徴を簡単に言ってくれっ!」


 ちらりと女の子に目をやり、大声で返す。


「小柄な女性! 歳は十七くらい! 金髪で、長髪だ!」


 俺の言葉が届くや否や、むこうはそれまでに輪をかけて騒がしくなり、しかし、それと同時に納得に似た気配が漂い始めたのを感じた。


 すると、門から、役職こそ衛兵と同じなのだろうが、周囲の彼らよりも明らかに位が高いと思しき人物が出てきた。

 胸の部分に大きく紋章の描かれた服を着た、位の高そうなその人物が指示を始めてすぐに、その場の喧騒は鳴りを潜め、駆けまわっていた人は皆、いずれかの建物に姿を消した。

 その場に残ったのは、紋章の人物を含めて、五人だけである。


 おいおい……。

 思わず女の子を凝視する。


 お前って、そんなに高位の人間だったのか――?


          ◇


「よい……しょっと」


 女の子を抱きかかえ、両手に抱える。俗にいうお姫様抱っこだ。

 これをチョコ坊にのったまま出来てしまうのだから、この世界に来た俺の体は相当にスペックが上がっているようで。


 大事なのはイメージすること。

 力を込めるのではなく、『莫大な力で女の子をいとも簡単に持ち上げる』イメージを描く。それが無ければ俺のスペックは、地球にいた頃のひ弱なインドア人間のそれでしかない。


 ほう、と五人の衛兵から感嘆の声が漏れた。


「その方か」


 衛兵の一人が近づいてきた。


「はい。魔物の……犬、に襲われていました」


 そのまま衛兵に女の子を受け渡す。


 紋章の人物が一人を連れてこちらに来ると同時に、残りの二人は俺の荷物の物色にかかった。

 思わず抗議の目を向けると、申し訳ないという表情で「規則だ」と返された。


「魔犬の事か。……素手で倒したのか?」


 紋章の人物がさも驚いたといった風に聞いてきた。

 彼の後ろに立つ人物は、俺の服に付着した返り血に目を丸くしている。紋章の彼は、品定めをするような目をこちらに向けてきた。


「いや――えぇと、まあ、そんなところです」


 思わず言葉を濁してしまうのは、日本人の性か。


「ふむ……。まあ、いい。

 職務上の都合で、この人物について一切の質問を拒否させていただく」


「ええ、それで構いません。元より、深入りしようという気はありませんから」


 最後に、視界の端に、衛兵に抱かれた女の子を収める。

 高位の人物だろうから、これが見納めかな。

 そう思いつつも、あまり名残惜しい気はない。そもそも、喋ってすらいないのだ。かわいい子だったなあ、それくらいだ。


 彼女はそのまま、衛士と共に馬に乗せられ、どこかへ行ってしまった。


「物分かりが良いようで結構」


 紋章の人物は尊大に言い放つと、俺の荷物を物色する二人をにらみつけた。


「まだ終わらないのか!」


 怒鳴られた二人は心外だというように言い返す。


「いえ、その……見たことない、なにか……が、入っていまして」


 スマートフォンと、パソコンと、時計と、あと、いろいろ。

 やっぱり見せるべきじゃなかったと思いつつも、渋ってはかえって怪しまれてしまうか。


 しかし、どのみちバッテリーが切れてしまえば皆、無用の長物だ。

 今の自分にそこまで重要という訳ではないだろう。大切な相棒たちではあるが、命には代えられない。


 彼らの指示した俺のバッグを覗き込んだ


「ふむ……貴様、これは何だ?」


 凄い精度だったな、何だあの異様に複雑な加工は、鏡の様なものが埋め込んであったぞ、触ったことのない素材だ、あんなに均一に成形された金属があるのか――。

 ついさっきまで俺のカバンを物色していた二人が、紋章の人物の後ろで熱く語り合っている。


「コンピュー……カラクリです」


 とっさに言い直す。

 カラクリと言う表現がはたして正しいものか。


「カラクリ、とな。では貴様、細工師か?」


 細工師……はて、宝石でも作る職業なのだろうか。カラクリを作るのが細工師って言うのは如何なものか。

 と言うよりは、宝石なんかを加工する彼らが、手先の運動とか、副職として作ったりするのが、カラクリだったりするのかもしれないな。


 だがしかし。


「――いえ、技術者です」


 だがしかし。

 ここで細工師なんて得体のしれない職業を名乗るのは俺のプライドが許さない。


 俺は、技術者だ……ッ!!


 ……はい、僕ですか? 技術者です。ええ、機械工学、とりわけロボット工学に大変興味がありましてね。最近はロボットだけに飽き足らず、人工知能、AIなんかにも興味があって。趣味でそんなものも作ったりしていますね。プログラミング言語はCからC#(シーシャープ)、C++(シープラスプラス)、JAVAにFORTRAN、LISP、COBOL、ALGOL、APL、PL/I、ML、Simula、Smalltalk、Prolog、果てはDまで、メジャーなものからマイナーなものまで美味しくいただけます。いえ、ウェブ関係の方も勿論バッチリです! ええ、簡単なサイト作成はもちろんの事、データベースなんか使ったり、大規模なショッピングサイトなんてのもいけますね。お望みとあらば大抵のものは作ります。もし初めての技術でしたら一から勉強して作って見せます。いやいや、本職はもちろん機械工ですからね。作れって言われたらそれこそ何でも作りますよ! スーパー日曜大工です。パパもビックリです。武骨でいいなら家だって建てます。プレハブ小屋みたいなもんですけどね。コンクリート打ちっぱなしとか。無駄な装飾なんて要らないんですよ! そのまま最低限で最高に効率のいい姿こそが美しい! ほら、ステルス機の綺麗な機体形状や、新幹線のあの美しい先端部分! あれぞ機能美! 効率を極限まで追求した姿ですよ! 装飾なんていらん! 機能を追求すれば自然に美しくなるんです! 時には見た目も必要? 知るかッ! 勝手にそっちで飾り付けてろ! おしゃれなんてしらんわッ! 堅実な性能、安さ、頑丈、軽い、シンプル、仕組みが簡単! これぞ究極! もはや軍用品と何ら変わりないがそんなことは知らん! フハハハハハハ……。 


 俺から放たれる無言の重圧。


 いいんだぞ……俺はここでいきなりコンピュータの仕組みをゼロから説明した上にお前たちにあらかたのプログラミング言語の文法を叩きこんでやることだってできるんだぞ……!

 いいんだぞぅ~。俺は構わないんだぞぅ~。


「……そうか。何の技術者かは知らんが、変な気は起こすなよ。

 最後に一応、魔力のチェックをさせてくれ。お前が嘘を言っている訳ではないのは分かるが、一応規則なのでな」


 そういうと、紋章の人物はサッと片目を軽く抑えた。

 片眼鏡の様に、半径五センチメートルほどの円形の魔方陣らしきモノが展開される。魔法展開の残滓である魔素が、粉雪の様に瞬間的に散った(ボールドにこの現象がそうなのだと教えられている)。


 すると彼は、まさに片眼鏡の様にその魔方陣を通して、俺のバッグの中、とりわけ電子機器を見てゆく。

 暫くすると、魔方陣を軽くなでる様に振り払い、魔法を終了させ、俺に向き直った。


「魔道具の類ではないようだ。協力に感謝する」


 彼が言うには、数年前、遠くの町で魔道具を使ったテロがあったそうだ。


 魔道具と言うのは、魔法を発動させるきっかけである呪文を、直接刻み込んだ道具の事を言う。

 そのメリットは呪文詠唱をしなくとも、魔力を込めるだけで魔法の発動が可能だという事。それによって呪文の詠唱が困難なほどに大規模な魔法を詠唱無しで魔法の発動ができるのだという。

 対してデメリットは、普通に呪文詠唱を行って魔法を発動するよりも、大きな魔力を必要とする事。その他にも、そもそも呪文を彫り込まなければいけないため、生産コストが非常に高い事、流通量が少ない事などがあげられる。


「いえ、規則でしたら仕方ありませんよ」


 そう爽やかに返した。


 ……電子機器を動かすのに電気が必要なのと同じように、魔法もその行使に魔力と呼ばれる魔法的エネルギーを必要とするのだという。


 魔法的エネルギーにおいて、空気中を漂う魔法的エネルギーを魔素、人の体の中に存在する魔法的エネルギーを魔力というらしい。両者の間に明確な差は存在せず、体内にあるか、体外にあるか程度の差しかないらしい。


 あくまで便宜上でつけられただけの名称という事だ。

 強いて例えるなら、コンセントから供給される電力と、電池から供給される電力、と言った感じの差だろうか。


 紋章の人物が一歩下がり、残りの四人もそれに続く。

 

 想像以上にあっさり通されたが、この世界の常識では、魔法的なもの以外が危険であるという認識が無いのかもしれない。


 カラクリをカラクリと表現しているように、物理的な部品の組み合わせでの発明と言う物が壊滅的に無いのだろう。

 まあ、それも仕方ないか。あそこまで一般に普及していて、(ソフランが料理に使っていたように)便利なのだから、それ以外の方法や技術を研究しようという気も起らないのだろう。


「通ってもらって構わない」


 五人に軽く会釈する。

 五人も笑顔を返してくる。いい笑顔だ。


 確定するまでは敵と言う可能性をあくまで捨てない。それも、街の人々を守るためだからだ。

 しかし、善良な見方だと分かれば、それは、その瞬間からよき客人だ。


「今一度、彼女を救ってくれたことに、この町の住民を代表して礼を言わせてほしい」


 紋章の彼は右手を握り、肘を曲げ、心臓に力強く叩きつけた。

 これが、この世界の最敬礼に値するものなのだろう。


 後ろの四人も彼に続く。


「どういたしまして」


 俺も彼らと同じ様に、笑顔で力強く握り拳を胸に当てた。


 皆、笑顔だった。


 詰所から出てきた数人の衛士によって、門が開けられる。

 左右に門が大きく開かれてゆき、コーエキーの町がわずかに見えてくる。


「客人よ、貴方を歓迎しよう。

 ようこそ、商いの町へ。コーエキーの町で良き商売を、良き日々を」

ようやくファンタジー感が出てきた頃か。


後日、序盤五本は書き直しをしようと思います(いつになるかは分かりませんが)


今になって粗が目立ってきた気がしますので。

特に主人公の立ち振る舞いにおいて。


専門知識の下りですが、興味はあるものの実際の所、私はそっち方面の人間ではありません。


だいぶとんちんかんな事を書いているかもしれないので、

もしそっちの畑の方がいらっしゃいましたら、指摘して下さると嬉しいです。

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