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第四話 「闇夜の慟哭」

お待たせしました。

五月上旬の分です。


プロットはミリも書かずに進める派ですが、作中の些細な現象にも、すべて理由と設定があります。

ご安心を。


一応R15指定はしてあるけれども、グロ中尉。

 三本爪のトリ足で踏みならされた地面にピースマークを刻みつつ、俺を乗せたチョコ坊が歩を進める


 見た目はニワトリ、しかしサイズは馬並み。

 後ろ脚だけの二足歩行だが、かといって羽が退化している訳でもないらしく、人を乗せた状態でも、ごくごく短時間――数秒らしいが、それが乗り手の命を救うこともしばしばあるらしい――なら飛ぶことも出来るそうだ。


 ファーファ。

 それがこの動物の名前だ。


 この世界では、もっさもっさの羽毛が尻の痛みを和らてくれる事から、個人の長距離移動手段として非常にポピュラーな存在だそうだ。


 チョコ坊という名前は、適当につけた。別にカイとかクイでもよかったのだが。


 時刻は午前三時。

 既に村を出て二時間ほど経過している。

 レノア婆さんの言った事が正しければ、明け方にはスタト村から一番近く、かつ、比較的大きな町である『コーエキーの町』に着くという。


「なんだか、大切なものを失った気がするなぁ……」


 東京に戻れないと知った時の喪失感とは違う、また別の感覚。


 あのままレノア婆さんの言われるがまま、ボールドに見つかることなく、自分の所持品を全て持ち出し、ほぼ押し付けられる形でファーファと言う動物を譲ってもらい――名前は好きにつけていいと言われた――あれよあれよと言う間に、気が付けば村を出ていた。

 後で聞いた所、レノア婆さんがボールドに眠らせる魔法を使っていたらしい。


 もちろん、抵抗しなかったわけではない。

 いくらなんでも急すぎだろう。


 村の人からしてみれば、ティープの森で倒れていたという謎の人物が、目を覚ました日の夜に忽然と姿を消してしまうのだ。

 不審と言うか、何と言うか。


 日中の村人への挨拶回りで、『しばらくはこの村でゆっくりさせてもらう事になるとおもいます』なんて言ってしまっているのだ。

 それが、夜のうちに居なくなってしまう、と。

 いやいや。いくらなんでも無理がある。

 村人はレノア婆さんが納得させると入っていたが、どうなることやら。


 それでも、俺が彼女に従い、半ば追い出されるような形でも村を出たのには、一つ、大きな理由がある。

 その『大きな理由』がこの世界においての俺の立場を、決定的に不利なものにしてしまったのだが。


「でも、だからこそ、みんなに迷惑をかける訳には行かないもんな」


 そう呟いた俺に、チョコ坊がふぁー、と鳴いて返事をくれた。


「……見たこともない世界で、お前と二人ぼっちだよ」


 ありがとう、と間抜けな顔をしたデカい鳥に感謝した直後である、気づいたのは。


 ファーファと言うこの動物の奇妙な名前は、幼児が車をブーブーと言うがごとく、鳴き声からつけられた安直なネーミングであるという事に。


          ◇


 失敗した! 失敗した! 失敗した!


 そう心の内で叫びながら、私はただ向いている方向に走る事しか出来ないでいた。


 事前に調べた事が正しいなら、ここはティープの森の近くのはずだ。

 いや、もう既に相当深くまで入り込んだのかもしれない。

 でも、もしかするとあと一分も走ればコーエキーの町に着くのかもしれない。


 そんな事すらわからない。


 持っていた荷物はすべて、アレに喰われてしまった。

 地図が無ければ、方位磁石も無い。


 ティープの森独特の、うっそうと茂る背の低い草木が足にまとわりつく。

 顔を上げれば屋根の様に広葉樹が生い茂り、月明かりすらここには届かない。


 闇。


 それが今の私の視界の全てだった。

 横にも、後ろにも、何も見えない。


 けど、音はちがった。

 後ろの方から確実に、私を折ってくるモノの荒い息と足音が聞こえてくる。

 そして、気づけばその足音は一匹の物ではなくなっている。少なくとも、三匹。

 方向も分からず走り回っているうちに、仲間が合流したのか。


 立ち止まることは許されない。

 さんざん迷った挙句、余所行きのドレスではなく、城の衛士から借りた(・・・)甲冑を着て出たのは正解だった。

 サイズの合っていない甲冑はガチャガチャと音を立てて、自分の体の表面で跳ねているけれども、それでも、あの装飾だらけで動きにくいドレスよりはよっぽどましだと言えよう。

 でも、だからと言って何が変わるというのだ。


 立ち止まることは許されない。

 よくよく考えてみれば、なにもかも、自分には到底無理な事だったのだ。

 そうだ、ロクに運動もしていない小娘一人に甲冑と剣を与えた所で、一体何が出来るというのだ。


 立ち止まることは許されない。

 剣などなくとも、自分の魔法なら、あの魔法大学の先生だってほめてくれた自分の魔法なら、やれるって、だいじょうぶだって。

 あんな魔犬の一匹や二匹、一瞬で塵にして見せるって。

 だったらなんだ、このざまは。

 ほら見ろ、歯ががちがち鳴って、まともに呪文の詠唱だって出来やしない。


 立ち止まることは許されない。

 生まれつき持っていた自分の地位に天狗になり、血統ゆえの魔法の才能にあぐらをかき、エリートを気取っていた自分への罰だ。

 その地位だって、血統だって、結局は親から与えられたものではないか。

 それを失った私には結局、何が出来て、何が残るというのか。


 立ち止まることは許されない。

 そうだと、自分は無力なのだと気づけただけでもそれは十分な収穫だと言えようか。

 でも、自分は今から喰われて死ぬのだ。

 それを今さら知ったところで、何になるのだ。


 もう、駄目ね。

 足がもう動かないもの。


 そう静かに、心の中で呟きつつも、しかし身体は恐怖に抗い続ける。

 まともに動かない足を引きずって……


 気づけば、私はただ叫んでいた。


 荒い息。

 地を蹴る音。

 背中に衝撃。


 押し倒される――。


 土に顔から突っ込み、衝撃にくらくらする頭で、最後の言葉をいくつか考えたけど、どれも私の頭をただぐるぐる回るだけで、それらが口から出ることはなかった。


 ごめんなさい。

 口だけでそう呟いで、直後、意識が途切れた。


          ◇


 午前四時。

 季節はよく分からないが、昨日の朝からして、今は割と早めに日が昇る時期なのだろう。

 今はまだ真っ暗だが、あと、一、二時間もすればすぐに明るくなるはずだ。


 チョコ坊の上で揺られることさらに一時間。

 レノア婆さんから渡されたパンをかじりながら、ただただ真っ直ぐな道を進む。


 踏み鳴らされてはいるのだが、その幅は大型の馬車がやっと通れるほどしかない。

 つまり、ほとんど森の中という訳だ。


 見たことはないけど、もし魔物なんかが、茂みから出てこられたらたまったもんじゃねえな、とは思っていた。

 しかし、安全についてはつい数日まで、ザ・平和ボケ大国ニッポンで暮らしていた身だ。


 道を歩いていて何かに襲われるというのは、どこか実感がわかなかった。


 実際のところは、馬車の轍(適当に言えば、タイヤ痕みたいなものである)の幅の方が気になっていた。


 と言うのも、標準軌と呼ばれる、現代の世界の鉄道の実に六十パーセントが採用している、軌間(レール幅)は古代ローマで使われていた馬車のそれを起源としているからだ。


「大体、1.4メートルくらい……ほとんど標準軌と同じか?」


 そんなことを考えていた、そんな時だった。


「きゃあああああああああああああっ」


 暗闇を引き裂くように響く、女性の悲鳴。


「――ッ!」


 近い。

 まず頭に浮かんだのはそれだった。

 声からして、大体距離は数百メートルくらいなものだろう。


 本気で走って行けば、悲鳴の主のところまで辿り着けない事もない。


 しかし、行ってどうする?


 まず一番に浮かんだのが、魔物に襲われている、という事だろう。

 だがしかし、落ち着いて考えてみろ。

 人間の暴漢に襲われている、って言うのもあるんじゃないのか?


 あの人の良いボールドの様な人物ですら、奴隷を買っているような世界だ。

 娼婦や、性奴隷として使われる人も数えきれないほどいるだろう。


 悲鳴から既に数秒経っている。


 チョコ坊は立ち止まったままだ。

 焦燥感が体を支配してゆく。


 武器はあるのか?

 自分の力で太刀打ちできるのか?

 そもそも何かの罠ならどうするんだ?


 そこまで一気に考えて気が付いた。


 悩んでいるのは、助けに行くか(・・・・・・)ではなくなっていた。


 頭のどこかで、既に結論はついていたのだ。

 武器などない。無いが、しかし、ここで黙って素通りするのは、何か、嫌だ。


 ならば、と、飛び跳ねる様にしてチョコ坊の背中がら降りると、一瞬呼吸を整えて、


「――行くぞ」


 妙に低い声が出たのは、緊張しているからだ。

 ひっくり返ったり、変な声が出るよりずっとましだ。


 体の震えは止まらないが、しかし、心は静かだった。


 一気に体をかがめて、――跳躍。


 全身を駆け巡るエネルギーが、脚へと集まって行くのを感じた。

 足は揃えたまま、身をかがめてクラウチングスタートに似た姿勢を作る。


 足を徐々に延ばし、体の内を駆け巡る莫大なエネルギーを、爪先へ。

 自分の足元で爆弾が爆発したんじゃないかと思うほどの、――爆発。


 足元の土を四方八方に吹き飛ばしつつ、ほぼ水平に、砲弾の様に飛び出した俺は、悲鳴の主を救いに行くのだという事は分かっていたが、しかし、口の端が吊り上るのを抑えられなかった。


 スポーツは、得意ではなかった。

 体を動かすのも、得意ではなかった。


 得意ではないというより、そもそも向いていないという感が強かったと思う。

 嫌いではなかったが、向いていない事を続けようとも思わなかった。


 しかし、この世界での自分は――原理はよく分からないが――体育の授業で輝いていたクラスメイトたちと同じ気分を味わえるような、『思い通り』を手に入れていた。


 歓喜と言うには、あまりにも現実味のない状況。

 木の枝を掴み、木の幹を蹴り飛ばし、最初の跳躍以降一度も地に足をつけることなく飛ぶ(・・)俺に、数百メートルの距離は短すぎた。


 しかしその歓喜も、三匹の犬の様な何かに襲われている甲冑の人物を見た瞬間に、頭から消えてなくなった。


 犬の様な何かの放つ違和感に、頭が芯から冷えていくのを感じた。

 精神が研ぎ澄まされて、余計な思考がみな削ぎ落とされてゆく。


 視界が狭まる。奇妙な犬しか見えなくなる。

 耳が遠くなる――自分の呼吸音しか聞こえない。

 普段意識しない筋肉の位置や動きまで、完璧に把握できる。


 時間の流れが遅れて――俺だけが世界から放り出されたような、ふわふわした感じ。


 空中で姿勢を変えつつ――走り幅飛びの要領だ――甲冑の人物にのしかかっている一匹に狙いを定める。


 見たことも、聞いたことがあった訳でもなかったが、自然に、ごく静かな気持ちでアレが魔物なのだと理解できた。

 魔物から放たれる違和感。

 その感覚は、どこか、デジャヴにもにた、頭の処理落ちの様な、嫌悪感を俺に抱かせた。


 自分の知覚しきれないような速度で景色がすっ飛んで行ってるようにも、通り過ぎてゆく派の一枚一枚すべてを認識できるようにも、感じられた。

 早い世界にいる自分と、遅い世界にいる自分と。


 しかし、その狙いは、どちらもあの犬に向かっているという点で同じだった。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」


 ほとんど怒鳴るように、雄たけびをあげて、空中で両足から犬に突っ込んだ。


 犬が俺を警戒していなかったのか、突っ込むのとほぼ速度を変えないまま、犬を両足の裏に貼り付ける様にして、甲冑の人物の上を飛び過ぎる(・・・・・)。


 ちらと目の端に映った残りの犬二匹は、何も理解できていないようだった。

 一瞬で視界から吹き飛んだ仲間の一匹、と。


 そのまま、向かいにあった木の幹めがけて慣性で飛んでいく。

 ちょうど犬の腹のあたりに両足があり、木の幹に横から着地するようにして、犬を踏みつけた。


 犬の肋骨が砕ける気持ち悪い感触が足の裏から伝わってきた。

 感触自体は木の枝を踏み砕くのとそう変わりはないが、視界に映る光景が、感触が同じでも別物だと伝えていた。


 足裏が犬に沈み込む。

 それにつれて犬の口が徐々に開き、血と、内臓がそこから吹き出した。


 スローモーションで流れる世界。

 あまりに現実味のない景色に、血の気が引いていくのを感じた。


 今の今になって、この犬が甲冑の人物のペットとかで、ただじゃれていただけだったら、とか、そんな考えがわいてきた。

 なんで今更そんなことを思うんだろう、と疑問に思って、すぐに、それが無意識のうちの現実逃避だったと気づいた。


 く(・)の字に体を胴から折り曲げて、医学知識とか何もなくてもすぐにわかる、即死。

 そのまま足を延ばして木の幹から足を離し、後ろに着地し、たたらを踏みつつ、姿勢を直立に戻す。


 何故か、学生の頃、初めて見たエヴァの旧劇場版を思い出した。

 ああ、あれも、初めて見たときは震えが止まらなかったな、と。


 恐怖が遠のいていく――頭が麻痺しているのだ。

 痛すぎる痛みを感じなくなるように、あまりの恐怖に頭がその情報をシャットアウトしているのだ。


 何で、殺したんだろう。


 思いはするが、何を思っているのかを、頭がちゃんと処理しない。

 何で殺したんだろう、というワードが、ただ文字の羅列として頭のどこかに流れて行った。


 もはや、頭は何も考えない。

 さっきまでとは別の意味で、頭が冷え切っていた。

 ああ、冷えているのではなく、凍っているのだ、とも。


 そのまま自分でも信じられない勢いで背後に振り向くと、何も出来ずにいる残りの犬二匹に向かって、拳を作って、躍りかかって行った。


          ◇


 微睡の中から、水面に意識が浮かんできた。


 目はつぶったままだけど、目蓋にあたる柔らかな光で、朝なのだと分かった。

 ティープの森に火は差し込まないから、多分、ここはティープの森じゃないどこか。


 背中にあたる感触はふかふかだけど、多分、ここは城の私の部屋じゃないんだろうな。

 出てくるんじゃなかったなぁ。


 お父様も、お母様も、使用人たちも、皆怒っているんだろうな。


 首の裏に添えられた手は暖かいけれど、震えていた。


 心地よい揺れに目が覚める。

 ……いや、正確にはちがうか。


 私は、すぐそばから聞こえてくる、すすり泣きの声に目を覚ましたのだ。

おもてえええええええ

後味わりいいいいいいい


なんか、ごめん。

厨二エンチャはこんなに重たい話にするつもりはなかったんだけどなぁ。


もう俺自身の作風と言うか、どうしてもこうなってしまうのだから仕方ない。

(良かったら他のも見てください)


ラノベっぽい軽い話が書きたかったんだけれども、

ある程度リアルに現代人がファンタジーの世界に入り込むというのを考えた上で、

生殺与奪の部分は避けては通れないかな、と。


我ながら、アクションシーンの部分に限って異様に出来が良かった(当社比)のがなんとも。


……まあ、何がともあれ、無理矢理とは言え、冒険には出しました。


やっぱり冒険に出てからは筆がのるのる。


こう重くは書いてるけど、俺自身の筆力向上と、

欲を満たすためだけに書いてるから、

ちゃんとハーレムもしますよ!


うーん。

お気に入り減少は避けられないかも。


ほんとにごめん。

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