第八話 不吉な予感
どうも、またまた七人目ではなく、今度は真野優です。
諸事情により七人目の登場は遅れることとなりそうですが、それまでは六人で回していくことになります。
では、第八話どうぞ!
あんなにイライラする戦いは初めてだ……っ!
正直に言おう、あれは自分の完全な不注意だった。
まさかあれほどあざとい手を使って来られるとは思ってもみなかった。
あの護衛の少年、なかなかやる。以前魔法を打ち消した上、今度はどうやら吸収されたらしい。
しかもタイムラグほぼなしで放った雷撃を防ぐだけの反応速度……相当高ランクの傭兵か何かだろう。
ふと、物音がして顔を上げると、そこには先ほど自分に蹴りを当てて逃走していった少年の姿が。
「またお前かっ!」
思わず手が刀に伸びる。下手に魔剣を使うと、剣に溜められた魔力まで持って行かれかねない。
ならば、最強の剣という説もある刀を使った方が得策。
「失礼ですがお客様、店内で暴れられますと他のお客様のご迷惑となりますので……」
「……他に客なんてあいつしかいないだろう」
つい口からツッコミが漏れてしまったとはいえ、意識はずっと少年に向けたまま。
「さて、名前ぐらいは聞かせてもらおうか」
「では言おう、我は天地創造の神である」
「嘘つけ」
「・・・・はいはい、つまんないの。えっと、僕の名前はクラディー・ウェル。たださ、普通は自分から名乗るものだと思うけど」
「俺か?偽名でよければいくらでも教えるが」
そんな些事は今は別にどうでもいい。
「単刀直入に聞かせてもらおう。お前はあの荷馬車が何を運んでいたのか知ってるのか?」
――もしこの質問の答えがYesなら、問答無用の全力であいつを殺す。
そう心の中で決めていた。
「ん?ああ、あれは確か香辛料だった・・・かな?で、それがどうかした・・・・・・・のがよ~く伝わってくるよ、その暗い仏頂面見てると」
さらりと失礼なことを言われたのは無視するとしよう。とにかくこいつはさっき、演技と悪知恵で逃走したような奴だ。素直に信じる訳にはいかない。
が、嘘だと決めつける証拠もない。
「知らなかったなら教えてやろうか?あいつは、奴隷を運んでいた。人身売買、つまりは犯罪者だ」
「まさかっ!」
速攻で、しかも否定で返された。
「嘘じゃない、なんなら捕まってたやつらに話を聞きに行くか?ちなみにあいつはサイレントの魔法を使ってたみたいだから、物音がしなかったとかそういう言い訳は聞かないからな」
「・・・・・いいよ、君が正しいとしよう。なら、どうする?」
「いやなに、もし知った上で護衛なんて引き受けていたんなら……」
刀に手をかけ、思い切り全身の力を込める。
「……其の命をもらっておこうと思ってな」
「なるほど、ね・・・・・ただ、僕は知らなかったんだ・・・ッ!ただまあ、こんな話を続けてもしょうがないね。今日下手に動くのも無理があるだろうし、片を付けるとしたら明日か・・・・けじめはキッチリつけとかないとね・・・・」
ほお、こいつ自分から挑発してきたか。明日には片を付けるだと?
けじめをつけるつもりとかなんだとか、何を考えているのかはわからないが……。
「いいだろう、売られたケンカは買う主義だしな。さっきは油断していてやられたが、次からは同じ手は食わないぞ」
「へ!?ちょ、ちょっと!?何勝手に臨戦体制に入ってんの!?だから迷惑掛かるって!他のお客さんとか・・・・っていないしっ!んじゃマスターに・・・・ねえなんでこっちにウインクしてんですかマスターさん?もしかしてここ喧嘩専門酒場?」
「何を今さら」
怖気づいたのか?まあいい、俺もバトルジャンキーじゃないんだ。
相手が戦わない、っていうならまあ手を引こう。・・・・・・『喧嘩専門酒場』ってのは存在しないと思うぞ。見世物代わりに喧嘩を容認する酒場ならあるだろうが。
それにマスター……。一つだけ忠告すると、多分その顔でウインクはどうかと思うぞ。
「というわけだ、マスター、話は済んだ」
「了解です。ではお二人様、それぞれお部屋に案内します」
え、まだ僕は前払いの宿賃もなにも払ってないんだけど、というクラディーの声は、聞こえなかったものとする。
ちなみに酒場というところは、この時勢だ。宿屋を兼ねているところが多い。というよりは、宿屋の食堂を酒場として開いていると言い変えた方がいいのかもしれない。
案内された部屋は結構良い部屋だった。
夜景とかそういうものにこだわる気はないが、固いベッドで寝るよりは、ふかふかで柔らかいベッドの方が良いに決まっている。
とりあえず任務の時に汗もかいたことだし、シャワー(水と炎の魔法の応用だ)でも浴びてすっきりするか。
バスルームのドアを開けた俺の耳に飛び込んできた雑音。
それは。
「ふんふんふーん、ふふーん♪いやー、ここは眺めがいいなー♪」
何やら上機嫌な、少年のものらしき、鼻歌だった。
思わず俺は、炎の魔法の出力を誤り、熱湯を浴びる羽目になってしまったのだが、それはしょうがないことと言えよう。
これはあれか、俺に夜討ちしてくれとでもいっているのだろうか。
というか、もう少し防音処理ぐらい施しておけよ。
奴隷商人ですら、サイレントの魔法を使えたんだぞ!
そこまで愚痴が脳裏をよぎった時には、俺はもうサイレントの魔法の発動準備を終えていた。
約十五分後、夜着に着替えた俺は、色々と精神的に疲れた体を休めるために、読書の予定を削ってベッドに入った。
何故かはわからないけれど、この時の俺はまた明日からも、厄介事に巻き込まれる気がして、大きなため息が漏れた。