第二話 動き出す虹・2人目
どーも。真野優(現前戸 翔)です。
二人目を執筆させていただくことになりました。
文才に欠けていますが、何卒よろしくお願いします。
では、ライト君の登場です!
「……これで任務は終了だろう」
たった今、高電圧の雷撃で燃やした、荷馬車を後にして、少年はぽつりとつぶやいた。
もうそろそろ日没を迎えようとするランギル近くの草原には、焦げた草で形作られた丸いサークルが、複数くすぶっていた。
それを成した本人である少年の名前は、ライト・カシオウスという。
今彼が、ギルドから引き受けている任務は、『奴隷商人の侵入阻止』。
この時勢、どこに行っても、人が人を襲う光景は絶えない。
盗賊団は暴れまわり、戦争も必ずどこかで起こっていると言ってもいい。
そんな中、人を商売に利用することを思いついたのが、奴隷商人たちだ。
どんな仕事をしているのかは、言わなくてもわかるはずだ。
数分後、ふとライトは遠く先の方を向いた。
「チッ。また来たようだな」
遠くから鳴り響く馬蹄の音だけで、彼が奴隷商人たちを判別できるのは、特別な力があるから、等ではない。
商業都市、ランギルでは、荷物を運んで来る商人たちの、名前と来る周期、取引する品物の三つを、一人一人登録し、『紅印状』という許可証みたいなものを発行して、それを見せなければ中には入れないようにしている。
もちろんそれだけでは、偽装されてしまう可能性がなくもない。
奴隷商人が来るということは、近隣のどこかの村や国に被害者がいる。そういった情報を集める任務をギルドで依頼し、その結果をもとに到着時期を計算。算出された日時には、予め商人たちに「その日その時間帯には来ないように」と言っておくか、都市の中に滞在しておいてもらうことによって、その時に来るもの全てが奴隷商人等の、まっとうな商売をしない人間か、その日始めて商人としてランギルに来る、運の悪い人かのどちらかになる。
運の悪い人なら早々に諦めてもらうのか、というわけでもなく一応は積み荷をこっそり確認する、という作業を挟むことを依頼に含めておき、中身がまともな物なら通すようにしている。
閑話休題。
数分後、荷馬車の背後に回ったライトは、微風を起こして荷馬車の幌をはためかせる。
その中に見えたのは、おそらく「サイレント」の魔法をかけられ、意識を奪われているであろう、鎖に繋がれた人が十数人ほどと、緩衝材のつもりなのであろう、わらの束。
これでは、声はもちろん、身じろぎした際にでるかすかな振動すらも、生じることはないだろう。
ライトでさえ、中身をあらかじめ知らされていなければ、感づくことすらできないかもしれない。
「制裁決定、だな」
姿を見られないよう、もう少し距離を取り、雷撃を発射するのと、弾かれたように護衛の傭兵が荷馬車から飛びだして来るのが同時だった。
狙いが甘かった雷撃は、隙だらけの護衛が出てきたのとは反対の方向にずれてしまい、辺りの土を抉って、砂煙を巻き上げただけ。
「チッ」
すぐにこっちに向かって走ってくるものと思って身構えていたが、護衛の傭兵は、何故か森の方へ駆けて行った。
おそらく、彼が察知した気配というのは、ライトの相棒の魔獣、『スピカ』だろう。
一角獣のスピカは、その気配を消すこともできるとはいえ、四六時中気配を消しているわけではない。
おそらく、タイミング悪く今、眠りについてしまったのだろう。
実力の分からない相手を、相棒の方に向かわせるのは危険だと判断したライトは、すぐさま牽制の雷撃を放つ。
さすがにそれが命中するほど甘い相手ではなく、予想通りかわされたが、動きを止めることには成功した。
「人の相棒に喧嘩を売った罪、しっかり償ってもらおうか」
そう言いつつも、自身の持つ最大火力ではなく、三分の一ほどに加減した雷撃を放つ。
もっとも、雷魔法に特化した魔力を持つ彼の三分の一の雷撃は、普通に優秀な魔法使いの全力と等しいのだが。
そしてそれは、相対している傭兵が何かつぶやいたかと思うと、「ベクトルが逆なだけの全く同じ雷撃」によって相殺された。
「なんだと!」
ライトの持つ魔法知識の中には、そんなまるで相殺するためだけにあるような魔法は存在しない。
彼が驚くのも無理はなかった。
直ちに最大火力を持ってして殲滅しようと、条件反射のように、右手に魔力を集中させていく。
「おーい、今ので勝ち目が無いのはわかったんじゃないの?でも、君も含めた全員で僕たちが通る間大人しくしててくれるって言うんなら、まだ見逃してもいいよ?・・・・どうする?」
そこそこプライドが高いと自負しているライトにとっては、相当に屈辱的なセリフだが、相手に戦う気がないというのなら、無理に森を消し飛ばしてまで撃退する必要もない。
それに今回の目的は、護衛の退治ではなく奴隷商人を抹殺すること。任務には「ランギルに到着するまでに」という条件は入っていなかった。
こっそり後をつけて、護衛が別れた後で、奴隷たちの解放ついでに始末しておけばいい。
ならば、とりあえずいったん立ち去るそぶりを見せた方がいいのだろう、と荷馬車とは反対方向に走り出し、十秒ほどすると、今度は足音を立てずに、こっそりと接近する。
もし積み荷のことも知っていて、「あの少年」が犯罪の片棒を担いでいるというのなら容赦はしないが、おそらくそうではあるまい。
城があるわけでもないランギルには、当然家来や臣下という立場の存在もいないわけで、門番が務まるほどの技量の持ち主は、傭兵だけで賄われていた。
そして、だいたいの傭兵がそんなつまらない任務を嫌がるため、御多分に漏れず、門番に誰何されることもなく、ランギル内へと到達した荷馬車から、まだ10代後半になったばかりというような少年が降りてきたのを確認したライトは、彼が遠ざかっていくと同時に、荷馬車に跳び乗った。
幌をくぐって、中に入ると、「解呪」を発動して、掛けられていたサイレントの魔法を解き、人を起こすのにはちょうどいい程度の水をそれぞれの奴隷たちにぶつける。
雷に特化したライトの魔法は、火や水、風、土、光や闇といった属性の技があまり使えない。
多分全力で放っても、さっきの少年の十分の一以下の出力しかないだろう。
ただ、訳あって、彼は詠唱なしで魔法を発動できるため、そのタイムラグのなさと、剣技、雷の三つを持って、E~Sのうちの、S級傭兵として知られている。
「静かに。ここから動かないで。貴方達を捕まえた男がいなくなってから、外に出て待っておいてください。ギルドに案内しますから」
ライトは捕まえられていた人々が頷くのを見て、ひらりと外に跳んだ。
そしてほぼ同じタイミングで、いかつい顔の商人が飛び降りてきた。
「ほぉーう。貴様、何をしたかわ―ってるんだろうな? ああ?」
「臭いから息をするな、屑」
すごむ商人を一瞥したライトは、鼻をつまんで挑発する。
面白いようにこめかみに血管を浮かべた商人が、腰から太い剣を抜く。
「これでも俺は一応、剣も魔法も使えるんだぜ。貴様みたいなひよっこ、ひとひねりにしてくれらぁっ!」
さすがに言うだけあって、そこらの一般兵士よりは早い踏み込みと鋭い斬撃。しかも、魔法障壁で身体と武器を覆っているところから見ると、本当に、奴隷商人にしておくには惜しい腕の持ち主だった。
とはいえ、手加減をしてやられてやるほど、ライトは甘ったるい人間ではない。
ライトが鞘から抜いたのは、彼が使う雷撃と同じで、青白く光り輝く、魔剣。
魔法障壁で覆っていたはずなのに、すっぱり切断された自らの剣とライトの魔剣を交互に見て、唖然とする商人だが、その隙が文字通り命取りとなった。
「そこで消し炭になってろ!」
彼が最後に見たものは、自らの首をはね飛ばす魔剣の軌跡と、轟音を伴って天から降ってくる極太の雷だった。
その後、無事に奴隷たちを解放し、任務終了の報告をすませたライトは、もらった給料を財布にしまい、普段から使っている宿に向かおう……とした。
のだが、あれだけの轟音を発生させてしまった自業自得というかなんというか、辺りから湧いてくる野次馬の中の、傭兵と思しき中年男たちに捕まって、近くの宿に連れ込まれてしまった。
「坊主、やるなぁ!たまたま外を歩いてて目撃したんだが、ありゃ魔剣だろ?しかもあんな短い呪文であれだけの雷を発生させるたぁ、もしかして坊主、『雷帝』か?」
ジョッキに注がれたビールを丁重に断り、その上顔を思い切りしかめていたにもかかわらず、傭兵たちに囲まれたライトは、諦めたように溜息をついて言った。
「……一応、ギルドから与えられた二つ名だとそうなっているな」
ライトが言った途端、さらに騒がしくなる気の良い傭兵たち。
ただ、もうお約束というかなんというか、女将の鶴の一声によって、大人しくなる彼らは、見てて笑いを誘うのだが、ライトの仏頂面は消えなかった。
「すみませーん、今晩ここに泊めてほしいんですが」
ふとその時、聞き覚えのある声がして、思わずライトは宿の入口の方を振りかえった。
「お前は、さっきの!」
運命の歯車は、ゆっくりと回り始めたようだ。
いかがだったでしょうか。
説明チックな文章になってしまって申し訳ありませんでした。
こ、今度こそ次は文才のある方の担当になりますので、見捨てずに明日の更新をお待ちください。