第二十七話 『魔砲』って、ロマンあるよね。
そう思う人、挙手!はーいっ!
「もーしもーし!?」
「…………」
はい、無視いただきましたー。嬉しくもなんともないね、うん。てかこれで何回目よ?さっきから延々黙りこくっちゃってからに。…………さすがに隊長さん、イジリすぎちゃったかな?反省反省。
「ま、それはいいんだけどね」
そこで少しだけ真面目になり、日頃のふざけた態度(一応自覚はしてるんだよ)をスッと消す。周りに聞こえない程度の声量で、そっと呟いた。どうもさっきからおかしいのだ。なにがおかしいって、方向がおかしい。何しろ、明らかにこっちは城じゃあないからね。それどころか真逆で、どんどん怪しいとこ―――――裏路地とか―――――に入っていく。まあとりあえず、わかることとしては、あれだ。
「こりゃあきっと、何かあるね…………楽しみだ」
それまでは見世物よろしく、大人しくついていくとしよう。
さて、もうかれこれ二十分は歩いてるだろうか。とりあえず誰か何でもいいから喋ってくんないかなぁ…………無言なうえに鎧着てるせいで相当暑苦しい見た目なおっさん達と歩き続けてるとか、ねえ?誰得?
「着いたぞ」
あ、着いた。ふむ、どう見ても普通な家…………普通すぎて物凄く怪しい雰囲気出しまくってるんだが、僕はどうすりゃいいんだろうか。って、入りゃいいのか。そりゃそうか。だとしたら躊躇う理由があるだろうか、いやそんな理由は見つからないね!
「おっじゃましまーすっ!」
バーン!なんて効果音が付きそうなノリで扉を開けると、まずあったのは真っ暗な部屋。あと埃の山。あ、クモが巣張ってる。
「…………ねえ隊長さんや、ホントにここで合ってるのかな?」
どう見ても空き家じゃないの。
「悪いが、その隣の家だ」
「開ける前に言って!!てか絶対わざとだよね!?わざとやったよね隊長!?どんだけおもちゃにしてたの根に持ってんの!?」
うわ恥ずかし。カッコ悪。勘弁してほしいよまったく。
「…………コホン。失礼しますよ~っと」
テンション下がってるのはご愛嬌ってことで。でも、今度はちゃんと人がいたんだよ!恐らくは人の女性で、かなりカリスマが高い。年の頃はパッと見さんじゅ――――――
「死にたいかい?」
「滅相もありませんっ!!」
いきなり叩き込まれた殺気に思わず冷や汗をかきながら、慌てて返事する。…………すぐに殺気が消えたところを見ると、別に本気で怒っていたわけではないらしい。というか、そうだといいなー!そうであって欲しいです本当に!
「本当かい?まあいいさ、入んな。遠慮はいらないよ…………なんて言わなきゃならないようなタマでもないかね、『氷眼』にして『大空の魔法使い』さん?」
っ!?まさか、もうそこまで調べがついてるとは、ね。まあ、この手の話し合い、というより化かし合いは、先に呑まれたほうが負けるって言うし。感情は極力抑えて何も余計なことは考えないようにして。それと、一つだけ言わせてもらおうか。
「わざわざ調べてもらったのに悪いけど、そりゃあちょっとばかり古い名前ですね…………盗賊団『王の杖』さん?」
「ほう、驚いたね。アタシらの名前を知ってるのかい?」
「舐められっぱなしじゃあ気が済まないんでね。ま、下らない男の子の意地ですな」
「おやおや、そいつはすまなかったね。それにしてもアンタ、ずいぶんと面白くなさそうな顔だね?せっかく人が苦労して経歴の洗い出ししてやったってのに、何か不満でもあんのかい?」
あ、顔に出てたか。うーん、まあいっか。まさか今更見なかったことにさせるわけにもいかないだろうしねえ。多少後悔していると、幸いにも向こうから話を変えてくれた。
「まあなんだっていいさ。今回ウチがあんな表の世界の警備団なんかの鎧を引っ張り出してまでアンタ一人を呼んだのには一つばかり理由があってね。コイツを受け取ってほしいのさ」
そう言って小さな小包をどこからともなく取り出し、投げつけてくる。とりあえずキャッチはしたけど…………なんだこれ、ずいぶん軽い包みだな。
「…………何コレ?」
とりあえず口に出してみる。正直まともな返事が返ってくるとは期待してなかったけど、あっさり返してくれた。
「アタシが聞きたいぐらいだよ、そんなの。つい2日前に玄関に手紙と………それとこんなのが一緒に置いてあってね。ちょっと見てみるかい?」
そういって取り出したのは、小型のメロンほどはあるルビーの塊。うう、そんなの万年金欠病患者にとっては目の毒でしかないよ~。
「まあウチも普段はこんな怪しい話には乗らないようにしてるんだけどね?ご丁寧に前払いでこんなもん貰っちゃあ蹴るわけにもいかないじゃあないか。で、しょうがないからアンタに引き渡したのさ。さ、用は済んだし帰った帰った。シケた面いつまでも見せてんじゃないよ」
「いやいやいや、ちょっと待―――――いや、やっぱお言葉に甘えてシーユーグッバイ」
正直質問だらけだったけど、ぐっと我慢。というか、ここは下手に喋らないほうがいい。理由?ただの勘ですが何か?だめだよ、直感は大事にしないと。じゃ、そゆことで―――――
「待ちな」
くっ………!遅かったか…………!
「そういやぁ一つ、大事な用があったんだよ。イヤだねぇ、アタシとしたことが。年は取りたくないもんだよ。な、アンタもそう思うだろ?」
これイエスって答えてもノーって言ってもなにかよくないことが起きる流れだよねー!?
「ま、そりゃいいのさ。安心しな、返事なんか期待しちゃいないよ。ただ、一つ頼みがあるんだけど、いいかい?」
「逃げます。いいですね?」
「駄目だよ。ああ、今ここで死ぬようなことはないから安心しな。ちょーっと動けないようにして、ウチのお得意さんとこに引っ張ってくだけだからさ」
「………………誤魔化す気すらない!?えーと、んじゃ一個言いたいことがっ!」
「ふむ。………なんだい?言ってみな。下らないことなら容赦しないよ?」
しょうがない、よね?いいよね、もう?
「え~と、まず僕の二つ名ですけど。今は『大空の魔法使い』じゃないんですよね~。ほらアレですよ、めでたくランクアップ!ってのを達成したわけでして。」
「ほう?じゃあ今のアンタは、なんて呼ばれてるんだい?」
喧嘩売ってきたのは向こうだし、ここは一つガツンとド派手に、パーッとやってやろうじゃないの!
「…………『天翔ける魔砲使い』、ですよ。じゃあ、そういうことで、【アクセルスター】!!!」
爆発音と共に、光の束が屋根を吹き飛ばして突き抜けていった。よし、それじゃ退散…………と、その前に。ふと思い出して受け取ったばかりの荷物を開けてみる。発信機でもついてたら面倒だし。すると、中に入っていたのは。
「えっと…………帽子?」
うん、間違いなく帽子だねこりゃ。柔らかい緑色の、ハンティング帽(ゴルフの帽子、って言えばわかりやすいかな?)。右耳のちょい上あたりに、真っ黒い羽根が一本突き刺さったのがアクセントになっている。黒い羽根?…………ああなるほど、そういうことか。ありがたく貰っておくよ、親友。
その帽子をしっかりと被り、勢いよく天井から飛び出した。