第二十六話 しちてんばっとー
遅くなって申し訳ありませんでしたぁぁぁぁっ///
その割に低クオとか分かってますから、すみませんm(´・・`)m
とりあえずいってみよ~!!
「お…やめ……放せ、、よ……。。。」
などと抵抗を試みるが無駄だった。今ボクはルノに無理やり手を掴まれ、あげさせられ……引きずられている。ああ見えてルノの握力は異常だ……。というかこの間知り合った奴らは皆、非常識だ。
「ジェン~、速く行かなきゃいけないんだよ~。自分で走ってよー、ねー。」
ルノがぬけぬけと言う。いや、本人にそんな自覚は無いんだろうけど……。
それにしても、こうやって引きずられているとなんだか、不思議な気分になってくる。
強いて言うならそれは――――――――――既視感
何かを追いかけていた。ボクは森をひた走る。ボクの隣には、誰かがいて共に森を駆けていた。膨れ上がる焦燥、忍び寄る恐怖。「あっ。」ボクがよろめくと、その誰かはボクの手首を掴んで走り続けた。誰かの指が、今よりずっと頼りなかったボクの手首に食い込んだ。ボクらは泣きそうに走り続けた。
「ジェンっ?速くって言ってるじゃん!!走ってよっ!」
ルノの声で我に帰る。
「……ごめん。」
ぼそりと謝り、足を速めたものの、意識は渦巻く思考に飲み込まれていった。
追いかけて、なんとしても追い付かなくてはならなかった。何を追いかけていたのか、誰と追いかけていたのか、どうして追いかけていたのか……。今となっては何も分からない。それがいつのことであったかすら覚えていない。記憶喪失……とは少し違う。あえて表現するならば、どうしても思い出すことの出来ない、夢。断片は嫌というほど鮮明に思い出されるのに、大切なところがそっくり抜け落ちてしまったかのようだ。
覚えているのは走って走って走って、必死に走っているところ。それから、すっごく怖くなって、絶望。下卑た笑い声。ボクの隣にいた誰かは泣いていて、ボクは何も出来ずに突っ立ってて。叫び声がしたところ。その叫び声は悲鳴だったのか怒号だったのか……。
でも。その先を思い出そうとすると、目の前が真っ赤に染まる。鮮やかなその紅はまるで、まるで……。
あ、っと思った次の瞬間、左手に痛みが走った。更に次の瞬間に、やっと自分が転んだことを知った。
「ジェン?大丈夫……?もしかして握りすぎた??」
いや、握りすぎでは転ばないけど……。微妙にリアクションずれている(いつもだけど)ルノ。それにしてもさっきのは……。
「ねー、ジェンんー。早く行かないと駄目なんだよー。クラがなんかやってるんだよー。」
いや、思い出してはいけない。なんとなくそんな気がする。意識の奥へ、奥へと埋没させるんだ。
「ねぇジェンっっっ!!!」
「うるさいっ。」
「でもクラが……。」
もう限界だった。耐えきれなかった。
「クラがどうしたっていうんだよ。別に昨日今日知り合ったようなやつを気遣う必要ないだろ。ボクはあの軽薄男のことを何も知らない。ボクは知らない人の為に尽くせるような奴じゃない。そもそもお前だってボクのことを何も知らないじゃないか。ジェンなんて本名ですらない。仲間でもない奴のことをどうして引っ張り回すんだ。」
勢いに任せて言ってしまう。しばらく前に市場で思ったことは、すっかり忘れ去っていた。あの記憶の断片はボクにそうさせるだけの力があった。しかし……
「何言ってるの?」
いつものルノの声、いつもの話し方。しかし、いつにない迫力を伴ってルノは一笑してのけた。それを聞いてボクは、背筋にヒヤリとしたものを感じた。まるで、誰かがルノと共に僕を嘲笑ったかのような。
「仲間じゃないから?知らないから?ジェンは市場で、そういうの無しにして喧嘩止めたんじゃなかったの?何を今更。知らないと気にしちゃ、助けに行っちゃだめなの?ジェンの馬鹿ぁ。馬鹿馬鹿大馬鹿ぁっ!」
「そ‥‥‥それは、その‥・」
そんなに馬鹿って言われても。ルノからは妙な迫力が消え、いつも通りになっていた。
「ほら、行くよっ。早く立ってよ。」
言われてボクは自分がまだ座り込んだままだと気づいた。でも・・・立ち上がりたくない。このまま座り込んで、ルノが、クラが、記憶が遠ざかってゆくのを待っていたい。
暫くして、渋々ながら立ち上がる。
「あっ。」
ルノが何か思いついたようだった。こういう時はまず、いい事なんてない。
「ジェンって本名じゃないんだよね?じゃあ、本名聞いてあげたら来てくれる?」
人が思い悩んでいる時に、また謎な提案だった。しかも聞いてあげたら、だって?
「ね、いい考えじゃないっ?ねぇ、本名教えてよ!それで一緒にクラのところに行こっ。」
「嫌だ。」
「えぇぇー、いいじゃんっ。ジェンも聞いてもらいたいんじゃないの?」
「そんなことは……。」
ない、と言いけれないところが辛い。もしかしたらボクは誰かに聞いてもらいたいのかもしれない。
「うーん、じゃあ当ててあげるっ!えーとね、ジェン……ジーンとか?」
「違う。」
向こうは強硬手段に出たようだ。
「ジェ…ジェニファー。」
「違う。」
「ジェ、ジェー、ジェリンダ。」
「無理やり感あふれてるぞ。」
言いあてられるかと緊張しているのに、普通に答えられてしまう自分が憎い。
「ジェ、、ジェニー。」
「男の名前だ。」
「ジェクシー。」
「結婚情報誌?」
「ジェリール。」
「誰だ?」
「ジェットマン」
「ロケット花火か?」
「うーん、ジェンヌとか、ジェンナとか?」
「違ぁ……。」
わなかった。ついに当てられた。
「あ、あっちに蝶々だっ。」
「え、ちょっと……?」
―――――――――3分後
「みて、ジェン~っ。キレーだよぉ!」
ボクの名前どこ行った。しかもまた蝶。ちなみにボクは蝶があまり得意ではない。
「やめろ。あと今までの話は……?」
「えー?あぁ、まあ、人生はしちてんばっとーで頑張ればいいんだって!」
七転八倒?話の流れが全く見えないし、しかも微妙に用法を間違っている気がする。
「そういえばしちてんばっとーって何のことかな?」
聞かれても困る。こっちが聞きたい。するとルノはなにか思いついたらしい。
「技の名前だね。」
「はぁ?」
これにはさすがに声が出た。なんの技だよ。
「七転抜刀だね、うん。七回前転して抜刀するんだよ。」
「………………。」
「ジェン?怒った?なんか違ったっけ、えぇっ?」
大真面目に言って大真面目に戸惑うルノ。それを見ているとついつい
「くぷっ、ふふふ。あははははは。」
笑ってしまった。
「あははははは、ははっ。くふふふっ。」
「ジェンが壊れた、壊れたよっ!どうしよう。」
ルノが焦る。ボクの笑いは止まらない。別に面白くもなんともない駄洒落だ(本人には洒落を言ったつもりもない)。それでも笑いを止めることはできなかった。なんだか、いろいろとどうでもよくなった。ボクは笑いながらフードを外した。フードに隠されていたボクの長い白銀の髪が、光を受けてキラキラ輝いた。
「ジェンナだよ、ジェンナ。正解だよ。よし、じゃあクラんとこ行こっか!」
「え、えぇっ、誰?いっぱい笑ってるよなんか明るいよあのジェンが。根暗さんが、壊れたよ?」
なかなかに酷い言われようだ。それでも
「ジェンナだよ。ほら、行くよっ。」
ボクは笑いながらもう一度言った。
「うん、なんだかよく分かんないけどいいかっ。よーし、れっつごー。」
ルノはいつもの単純さで、走り出した。
七転抜刀。
ボクもいつか、七回目の転倒を経て、抜刀できる日が来るかもしれない。
なんか、そんな気がする。
ちなみに……
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「ねー、ジェンは何転目?」
「ん?秘密ぅ♪」
「♪?誰?」
「だからジェンナって言ってるじゃん。」
「うん、で、何転目なの?」
「えーっと、秘密だけど~、何転目かなぁ♪」
「別人だよね?え、なんで??」
……ジェンナちゃんは、フードを取ると人が変わります。