第二十五話 爆破オチからはじまるおはなし
「ほんとこの飴おいしいねー」
ルノ、サージャ、ジェンは先程クラに貰った飴を買いに市場にやって来ていた。
「確かに。」
クラに場所を聞いていなかったため探すのに少々手間取ったが、混んだ市場でなんとか屋台を発見し、店主の女性に作りたての飴をもらって今に至る。
「嬢ちゃん気に入ってくれたかい?」
「うん!すっごく美味しい。」
「そうかい。昨日はなんかヘラヘラした優男が、試供品山ほど持ってっちまって厄日だと思ってたけど、今日はいいお客さんが来てくれたねえ。」
ルノたち三人は顔を見合わせた。
飴を大量に持ってったヘラヘラした優男が誰のことだか分かったからだ。
「あー、ごめんなさい。私たちその優男に飴もらってここに来ました。」
「あら、そうだったの。あの男、見つけたら一発殴ってやろうと思ったけど、こんな可愛いお客さんたち連れてきてくれたからチャラにしようかしらね。」
そう言って、飴屋のお姉さんはウフフと笑った。
「そうだよ。争いは良くないもんね。クラもつかまっ……あれ?そういえば、結局クラってなんで連れてかれたの?」
「は…?」
「え…?」
不思議そうな顔をするサージャとジェンに、ルノは首をかしげる。
「……お前、分かってなかったのか。」
「うーん、なんか四字熟語がいっぱいでてきたよね。」
サージャは本気であきれたという顔をしているが、ルノからしてみれば、役人はひらけかすように四字熟語を並べ、サージャは必要量の30%しか喋らず、ライトは急に矢をぶっぱなす始末。
それで状況を理解しろと言われても無理な話だ。
実際は、役人は四字熟語など言っていないし、サージャはルノに説明する気は無かったし、ライトは言葉足らずながらも一応クラを助けようとしたのだが、ともかくルノのなかでは、自分にきちんと説明しない全員が悪い。ということになっている。
サージャは渋々と言った様子で説明してくれた。
「クラが、奴隷商人のアジト襲って物とか色々壊しまくったら、市民と商人両方から訴えられたという話だ。上手くやらなかったあいつの自業自得だな。」
「それはちょっとあんまりなんじゃ…」
サージャの言い様に、さすがにジェンが口を挟む。
が、サージャはスルーして話を続ける。
「だがまぁ、ライトのやつがギルドの依頼書らしきものを届けていたし、すぐに釈放されるだろう。」
「そっか。じゃあ早くクラを助けに行かなくちゃね!」
「またあれか。私は行かないからな。」
「え、話噛み合ってな…」
「えー、しょうがないなぁもう。じゃあ行こジェン!クラを助けに!」
「ギルドが…」
ジェンが理解出来ずに困惑しているにが、ルノは一切構わず腕をつかんで引きずっていった。
サージャは厄介払いが出来たとばかりに、手を振っていた。
もちろん、途中から放置されていた飴屋のお姉さんに説明がされることはなかった。
「なんなの。」
「なんかねー、クラが危ない気がするんだよね。絶対ねー、行かないとまずいんだ。」
ジェンはルノの言い様にやっと合点がいった顔をした。
「クラモドキのあれか。」
「だからなんなの、その倉もどきって。」
ルノが訊ねるが、ジェンは答えず目線で続きを促す。
ルノは不服そうながらも、続きを話し始めた。
「だからー、クラを連れてった役人と奴隷商人はぐるなんだよ。うん、そんな気がする。だからねー、きっとギルドの依頼書?を届けてもダメだと思うんだ。」
「確かに、不法な奴隷商人が、被害届を出すのはおかしい……」
「そうそう、飴の恩は一応返さないと。だからね、ジェンちょっと協力して。」
そういってルノはジェンを物陰に連れて行った(引っ張っていった)。
「じゃーん!これなーんだっ!」
「…カード?」
「えへへー、実はねー、ルノも分かんないっ!!……ジェンどうしたの?グーに青筋浮かんでるよ?」
「いや…」
「ま、いいか。これねー占いに使うカードなんだけど、名前覚えてないんだよね。世界樹に教えてもらったんだけど。でもとにかくね、いろいろ教えてくれるよ。みてて。」
そういってルノは手に持っていた四枚のカードを地面に並べた。
「んっとねー、この占いは一人の人について占うんだ。左上から、『いつ、どこで、どうした』がカードにうかびあがってくるの。でねー、この3つはうまくいくんだけど、この右下の『どう思った』だけほとんどうまくいかないの。なんでなんだろ?」
「さあ。」
「うーん、ま、今はいいか。あ、本当はこのカード13枚あるんだけどね、あたし8枚までしか持ってないんだ。それに、これ以外の4枚は全く使えないの。」
ルノの力説はジェンにはどうでもいいようで、気のない返事をしながら、あくびまでしている。
木偶人形並みに鈍感なルノでも、流石に気づいたらしく、慌てて話を戻した。
「わっ、ゴメン、退屈だったよね!?なんか面白い話あるかなー…えっと、昨日クリュプス亭の裏で野良トカゲが…」
訂正、木偶人形に失礼だった。
ジェンが無言で地面に置かれたカードをこづく。
「あ、忘れてたっ!オッケーオッケー今やります。えー、大気に宿る精霊よ、星読みの主を呼び起こしたまえ。星読みの主よ、我に真を。瞬く星よ真実を描け。えー、対象はクラ…クラ……あれ?あー…クラフィー?」
「クラディー・ウェル。」
「あ、そうそう。ゴホン、対象はクラディー・ウェル。今から三時間後をよろしく♪」
すると、どんな原理かはわからないが、並べられたカードに、珍妙な絵がうかびあがっていた。
右上のカードにはガラスビンの中に大勢の黒フードの人物がいる絵が。
左下のカードには飛び跳ねる辞書と変顔するクラの絵が。
どうでもいいが、似顔絵がなかなか似ている。
「二つ曇ってる…」
最初と最後のカードには、なんの絵も浮かび上がらず、灰色のもやがかかったようになっていた。
「ああ、『いつ』のカードは今時間指定しちゃったから表示されないんだよね。『どう思った』は…あ、この場合『どう思う予定』になるんだけど、やっぱりうまくいかなかったかぁ。……ま、だいたい分かったしいいげど。」
「これ、何を言ってるのか分からないんだけど…」
「んっとねー、総括すると、今から3時間後に狭くて大勢の怪しい人に囲まれてる場所で、クラが真面目で固い人をバカにする。だね。このまま進んだ場合の未来。やっぱり助けに行かないとダメだよ。」
「これが正しいならその必要性は認める。飴の恩。」
「んじゃ行こ。目指すは怪しい人のいる狭い部屋!出発進行!」
ルノはジェンの手をつかんで高々と上げさせた。かなり無理矢理。
そしてそのままグイグイ引っ張りながら走っていく。
「ちょっ、ま、狭い部屋ってどこ!?」
「走ってれば着く気がする!!」
「そんなわけがっ!」
そんなこんなで走り初めて約10分、
二人から見て南西の方角から、とてつもない爆発音がした。
さんざん引っ張られてますが、ジェンの手首は無事だったようです。