第十八話 行動開始
メリークリスマス。
真野優 あらため 麻婆豆腐がお送りします。
コツ、コツとブーツが木製の階段を叩く音が響く。
下では何やら宴会を開いているようだが、なんで会ったばかりのメンバーで酒を飲まなければならないのか、理解ができない。
しかもクラとやらとサージャと名乗る女は、敵対していたはずなのに今ではもうそんなことを忘れてたかのように、同じ卓についているし。
「さてと、明日からようやく行動できるな。待ってろよ、クソ親父」
さっさとシャワーを浴びて、寝ることに決めた俺は、ようやくつかんだ、俺の復讐相手の顔を思い浮かべた。
六年前、俺の母親は父親に殺された。
当時子どもだった俺は、近くに遊びに行っていたおかげで助かったものの、家に帰ってみれば母親が瀕死で倒れていて、助けることもできなかった。
その後は、親切な近所のおば……お姉さんに育ててもらえたものの、一年前、父親がまた俺の前に戻ってきていた。
その時あいつは、「お前の母親を殺したのは俺だ」と宣言した挙句、俺まで殺そうとした。
母親を殺された復習をするために、鍛えていた剣技で対抗しようとしたがあっさり負け、仮死状態にされてしまった。
たまたまおばさ……お姉さんが回復魔法の使い手だったおかげで一命は取り留めたものの、父親の足取りは不明。分かったのは魔人ということと、あいつは今のままでは殺せない、ということのみ。
それから一年、俺は必死で自分を鍛えながら、父親を追っているというわけだ。
――――確実にこの手で殺すために。
これまで倒した敵は、魔人三人、Sクラスの魔獣が五体。後は雑魚だ。
それでもあいつに匹敵しそうな実力の持ち主はいなかったから、あいつは多分魔人の中でも特別なんだろう。
そしてつい先日、強力な魔人がこのあたりに現れた、という報告が各都市のギルドに通知され、その討伐以来を、俺は単独で受けてランギルへと来た。
装備も整えたことだし、明日からは本格的な探索に入る予定、と。
現状を確認し終えると、まだまだ喧しい下の宴会の騒ぎをBGMに、俺は意識を手放した。
「さてと、今日もまた俺の邪魔をしてきやがったら容赦なく殺すか……」
比較的穏当なことを考えながら、スピカの気配を探ると、ちゃんといた、起きて分かるところに。
朝食を運んできた従業員の女性に礼を言い、目玉焼きとハム、パンに水という、手抜きな気がするメニューを掻き込み、備え付けのテーブルの上に置いて部屋を出る……窓から。
建物の二階から飛び降りたぐらいで死ぬほどヤワな身体はしていないから、という問題でもないだろうが、下手に正規の出入り口から出ていって、面倒なことに巻き込まれたくないからである。
重力加速度9.8m/s2で、五メートル程度の距離を落下するのにかかる時間はおよそ0.5秒。
その間に、「あぁ、失敗したな」と悟れたのは早いのか遅いのか手遅れなのか。多分最後だと思う。
落下した先で、二日酔いでふらついている感じの、緋色の髪をした見覚えのある女がこっちを向いたからだ。
あ、ヤバい……と思った時には、腰に手をやって魔剣パラドックスを抜き、「存在斬撃」を放っていた。
これは短距離なら一瞬で転移できる技で、パラドックスの能力でもある。
本当なら戦闘で使うのだが、タイムラグなしで発動できるため、今回は激突回避のために使わせていただいた。もしパラドックスが叫べるなら、「アホなことに使うんじゃねえっ」と怒っている、かもしれない。
が、あくまで攻撃技は攻撃技。
今回破壊されたのは、近くの舗装された道+発動前に少しかすってしまったサージャの頭髪が本の、ほんの少し。
一瞬で状況を把握した俺は、慌てて逃走を図ろうとしたが、突如現れた、光出てきた鞭に動きを阻害された。
いうまでもなく、先ほど危うくぶつかりかけたサージャの仕業だろう。
無表情を保ったまま、ゆっくりと後ろを向くと、そこにはニヤッと恐ろしい笑みを浮かべた彼女の姿が。
その右手には、鞭の柄が握られている。
「さて……ライトだったか? 覚悟は良いんだろうな?」
「事情の説明をさせてくれる気は」
「そんなものは欠片も無い。炎獄の檻」
容赦なしで特大の攻撃魔法をぶちかましてきてくれやがりました。
俺の足元に紅色の魔法陣が輝いたかと思うと、其処から半球状に数千度の焔が出現する。
剣を鞘に納めてもう一度抜けば、転移もできるのだが、思ったよりも頑丈な鞭のおかげで抜けない。
こいつ、今まだ戦った魔人よりやや上の実力持ってんじゃないか。
その場で思いっきり膝を曲げて跳躍し、炎の檻を突き破る。もちろん数秒後にそこに戻ることになるのは分かっているし、それまでにあれが消えることもなさそうなのも認識済みだ。
俺は空中で自由に動かせる数少ない部位、左手に魔力を集めて、強い磁界をもたせて辺りから砂鉄を集める。
集めたそばから融解するそれを魔力で固めて即席の鉄の弾丸をいくつか作り、それを電磁石の反発を利用した「レールガン」の要領で全弾、炎の檻に向けて発射。
音速をこえた弾丸から放たれる衝撃波が、炎の檻の火勢を弱めたところに着地、ダッシュで炎の檻を抜ける。
そしてそのままサージャにむけて、高電圧を纏った右手を突き出した。所謂「スタンガン」の再現である。
横に跳ぶことでそれをかわしたサージャは、追撃とばかりに幾つもの炎弾を乱射。
俺ももちろん黙ってやられてはいられないため、生み出した雷撃で応戦する。
そしてその弾幕に向かって突撃しながら、右手で腰から雷切を抜き、鞭を切断する。
無茶な体勢から斬撃を放った反動で、全身に激痛が走るが無視する。
切断した途端燐光を放って消滅した鞭は気にせず、そのまま雷切で斬りかかる。
ちょっと驚いたような顔をしたサージャだが、持っていた薙刀でそれを防ぐ。
一端後方に跳んだ後、得物を虚空から取り出した「アッキヌフォート」に持ち替え、魔力付与済みの矢を上空に向けて連射。
そして今度はパラドックスに持ち替えた俺は、そのままサージャの胴体を貫こうと残像を伴うような速さで剣を突き出した。
サージャもとっさによけきれないと判断したのか、飛んでいった矢に不審そうな顔を浮かべたまま、自分の身体の前と上に炎の盾を出現させ、薙刀を振るった。
上空のさまざまな角度から、狙い澄ましたように降り注ぐ矢は盾に阻まれて燃え尽き、俺のパラドックスは彼女の心臓を貫く寸前で、彼女の薙刀は俺の首に当たるか当たらないかのところで、動きを止めた。
もちろん寸止めするつもりはなかったから、理由としては騒ぎを聞きつけたらしいルノ、ジェン……それと、今まで外にいたらしいクラが飛び出してきて(本人の様子を見る限り偶然通りかかっただけのようだが、俺には関係ない)、止めたからに他ならない。
彼女にとっても多分同じことだろう。
「おい、何で止めるんだ、先に殺してほしいのか?」
「下がってろ、軽薄男。今回は殺すぞ」
改めてパラドックスの切っ先をクラに向けた俺は、視界の端で同じように薙刀の刃をクラに向けたサージャが映っていたのを黙殺する。
ルノや、どうやら女だったらしいジェンにはまだ恨みもないことだし気にしないが、毎度毎度邪魔ばかりしてくれるクラはもう許す気はない。
飛び降りる前も、しっかり殺人予告しておいた通り、ここは消すべきだろうか……。
一瞬そう思った物の、こいつも割に実力はあるようだし、さっきも少し消耗しているから、これ以上戦闘をすれば親父かもしれない敵との本戦に差し障る。
迷った時の即時撤退。俺は存在斬撃の際の転移でスピカのもとに跳び、そのままさっさとあの場から逃走した。
はい、お疲れ様でした。
これを読んでいる方がもしリア充なクリスマスをお過ごしでしたら、そのまま爆は(ry
ちなみに、ライトがなぜレールガンやスタンガンについて知っているのかは、また後々明らかになる予定です。