第十五話(*) 親子の絆と役人の愚痴と
うー、長いことあいてしまって申し訳ありません。星羅です。
なんか…差し絵描いてたら無駄に手間取りました。
…クオリティは気にしないでください。ライトが豪快に断髪してるのはドンマイです。
「ロナロナロナッ!ちょっと起きて!」
そういってロナが布団をはぎ取られ、無理矢理起こされたのは午前二時。
草木…どころか今お空に浮かんでいるお月様ですらついうとうとしたくなる時間。
そんな時間に、この家の主の一人―――ルノは、異常はほどハイだった。
「ロナッ!あたし急にランギルに行く用事が出来ちゃって!サージャが何か騒ぎ起こしたら困るし、出来れば早く会いたい人がいるの!」
相手が聞いているかどうかと言うことは二の次に、言いたいことを矢継ぎ早に話す。
「ふぁ…おねぇちゃん……なぁに…?」
「だからランギルに行きたくて!何か、知ってるような気がする人がいるかも知れなくて、その人が気になるの!くらっと来てふらっとして会わなきゃいけないような気がして!」
「ん、んぅー……んー…………よく分から…」
最後まで返事の出来ないまま、また寝てしまった。
無理もない。ロナはまだ子供。普通なら心地よく夢を見ている時間だ。
だが、それでもお構いなくルノは再びたたき起こす。
「サージャ起きてっ!…あっ、違ったロナだった。」
「おねぇちゃん…眠い…」
「寝たら今日の熊の仲間が来て食べられるよっ!」
「嘘っ!ヤダっ!」
眠気でぼんやりしていた頭が一気に醒めた。
幼心に、あの熊の丸焼きは恐怖だった。アレが生きていて襲ってくるなど考えただけでも恐ろしい。
怖々とルノを見ると「よかった、やっと起きた」と一人ごこちだ。
もちろん熊など居るはずもない。
―なんか…お姉ちゃん…意地悪…?
まさか、日の昇る前にこうやって無理矢理起こされるとは思いもしなかった。恐怖心につけ込んだ嘘をついてまで。
「……嘘つきぃ…眠い」
「いやぁー、ごめんね。ちょっと急用で。嘘ついたことは謝るよ。でも起きないんだもん」
ルノのロナに対する扱いは完全にサージャと同じになっている。
まぁ…サージャに同じことをしたら、間違いなく復讐の一撃を食らうのだが。
「で、急用というのはね…」
「さーむーいー!ヤバイ!寒い!やっぱりもっと着てくれば良かった!」
「嫌だよ!これ以上厚着したら不審者だよ!」
ルノの言うことには、サージャが向かった先には、サージャが追いかけた人とルノが追いかけたい人の二人が居るようで。どうもその二人が敵同士のようなので、サージャが行った先で、騒動になって巻き込まれて死んだりしたら、話が出来ないから早く行きたいと、そういうことらしい。別にそう簡単に死んだりしないのではないか、とロナは思ったが、ルノの説明の様子がどうにも必死だったので、口には出せなかった。
「でもさ…ほんとにロナは来なくても良かったんだよ?家で待ってればお母さん帰ってくると思うし…」
ルノはロナを起こしたときに、自分の家で母の帰りを待つか、ルノと一緒に来て途中で母に会うか、と聞いた。
ここからランギルまではほぼ一本道なので、ランギルに向かえば、おそらく途中で母と出くわすだろう。絶対に会える。早いか遅いかの違いだけだ。
「いいの!早くお母さんに会いたい!」
「でも、たまに肉食獣が出たりもするよ…熊とか」
「え…うー…いい!行く!熊からお母さん守らなくちゃ!」
それを聞いたルノは一瞬驚いた顔をして、
「そっか。」
そう言って優しげにほほえむ。
「じゃぁ、行こ。」
「さーむーいー。さーむーいっ、さむい、さーむーいっ。さっむーい♪」
『さ』と『む』と『い』のみで構成された、即興の歌を聴かされ初めて速一時間。
いい加減、飽きた。
「お姉ちゃんうるさい!」
ロナも言うことに遠慮が無くなっている。
「だってさぁ…寒いんだもん。夜だしさぁ。北に向かってるしさぁ。ランギルがここに引っ越してきてくれないかなぁ」
「いや、無理だから。お姉ちゃん魔法使いなら、なんか暖かくなる魔法使えないの?」
……目から鱗。
「そうだっ!その手があった!ロナ天才!偉いっ!」
ひとしきりロナを褒め倒した後。ルノはブツブツと何か呟きながら考え出した。
空中に色とりどりの文字を書き始めて、ロナが驚いているのも気にしない。
「んっと…炎系の魔法を体のまわりに…あー、いや、うーん。…ちょっと違う…ま、いいか、完成!じゃ、ロナちょっと離れてて。」
「はーい」
「フィア・レイズ・クラーム縮小版!」
ルノが勢いよく叫ぶと、
叫ぶと…
……叫ぶと……何も起こらなかった。
「あれ?おかしいなぁ…、ちゃんと配列を登録したはずなのに…。どっか矛盾した所あったかなぁ?」
「お姉ちゃん…縮小版ってなに…?」
ロナが若干引きつった笑みを浮かべて聞いたそのとき。
―ボゥッ
「キャァァァァァー、おねーちゃん燃えたぁぁぁ。火ぃついた!水っ水!死んじゃヤダぁ!」
ルノのまわりを緋色の炎が取り囲んだ。
それは明らかに、ルノから発火しているように見えて。
でもって、この辺りに火を消せるような物はなくて。
火を消すには地面を転がるくらいしかないのだが、ルノはいっこうに動こうとしない。ただその場に突っ立って居るだけだ。
「お姉ちゃん早く!火!火ぃ消して!」
ロナが完全にパニックになって慌てふためいていると、突然炎の中から声がした。
「いやいや、大丈夫だから。」
そう言って、火の固まりは手(らしき物)を一降りする。すると一瞬で炎は消え、無傷どころか服の焼け焦げなども一切無い、炎に包まれる前そのままの、ルノが出てきた。
「いやー、暖かくなるってことは、体のまわりに熱い物があれがいいんじゃないかと思ったけど、失敗だったねー。前が全然見えないや。アハハ」
「いや、問題って…そこ?」
「え…他に何か問題あった?」
「え、んと…無いか。無いよね。」
魔法については、あまり気にしないことにした。深く関わらない方が身のためだと、直感がそう告げていた。
「でもさー、どうしよ。いい案だと思ったのに失敗しちゃったよ。」
「…ねぇねぇ、物を暖めたりする魔法って無いの?」
「んー…無いこともない。でも駄目なんだよ。元々体温って言う自分主体で変化する温度を持ってる物には効かないから、私を暖めようとしても出来ないの。」
「じゃあさー、まわりの空気を暖めるとか…」
…………目から鱗。第二弾。
「そうだっ!その手があった!ロナ天才!偉いっ!」
「……そのセリフさっきとそのまま同じじゃない?」
「いいの、いいの!無機物の温度あげるだけなら簡単!……よっしゃ出来たぁ!それじゃあ、いっきまーす!…―今、大気の魔に、三連の理を捧げる。聞き届けよ!『何かほわって感じで、まわりが暖かくなったりしたら幸せだなっ!』―」
「何その呪文っ!」
そんな後半おふざけとしか思えない呪文を唱えたのにもかかわらず…
目に見えて変化はない。ただ、明らかにルノの周囲だけさっきより温度が高い。
「やったぁ!大・成・功!イエーイ!」
「いや…大成功はいいんだけどさ…さっきのって呪文だよね…」
「そうだけど…?」
「さっきのとか、最初の方は何かかっこよかったのに、何か…」
「あぁ、何かほわって(以下略)が気にくわなかったの?そうは言ってもね…。呪文考えるのめんどくさいし。ていうか、結構いい感じだと思ったんだけど…。」
「ないない、それはない。」
「ま、呪文はねぇ、何でも良いんだよ、それで登録しちゃえば。簡単に説明すると、私の使ってる魔法は、『これからこの系統の魔法使いますよ』って言う意味の準備の呪文があって、その後に大きく魔力を引き出す呪文を挟んで、最後に『この魔法を放ちます』って呪文があるの。最後以外は飛ばすごとに魔法も規模が減るかなぁ…。で、作った魔法は、最後の呪文でいわゆる保存?って…言っても分かんないよね…。」
「うん。さっぱり。」
「ま。そう言うもんなんですよ。」
「ふーん」
そんなこんなと話しているうちに、二人はサロベイユの関所にたどり着いた。
そこにいた門番は偶然にも、先刻サージャの相手をした門番だったのだが、二人はそんなこと知るよしもない。と言うわけで…
「おっじさーん、開っけて♪」
「うわっお前らこんな時間になにやってんだ!?歩いてきたのか!」
「そうそう、ちょっとランギルに用があって。時間外なのは分かってるんだけどさー、開けて?」
ちょっとだけ可愛くねだってみるが、門番は険しい顔で首を振る。
「駄目だ。夜が明けるまで、ここは誰も通さない決まりになっている。それにここから先は、足場も悪くて危険なんだ。君たちみたいな子供を暗い中歩かせるわけにはいかないよ。他にも暗くなってここに泊まってる人がいる。悪いこと言わないから、今日は止まって行きなさい。」
「いやいや、そんなこと言わずに!身分証明書だって持ってるよ!ほら。」
「だーめ。」
「えー!じゃあ、いいもん!強行突…」
「ロナッ!!」
悲鳴とも似た、甲高い女性の叫び声がルノの言葉を遮った。
驚いて振りむくと、三十代半ばくらいだろうか、疲れてはいるようだがなかなかに美人な女性が一心不乱にこちらへ駆けてくるところだった。
―あれ?…どっかで見たことあるような…
「お母さんっ!」
―あー、ロナのお母さんかぁ…道理で見たことが…
「って、お母さん!?もうここまで来てたの!?速っ!」
ここからランギルまで、ルノの足で歩いても二日半はかかる。それを…
「はぁ……親子の愛だなぁ…」
見れば二人は、涙を流して抱き合っている。
もう会えないかも知れない。その不安から、今解放されたのだ。
絶対会えるなんて言われても、その目で互いを確認しないうちは、不安は消える物ではない。
「…やっぱいいなぁ。私も早くサージャの所に行こう。…よし!おじさんこれ身分証明書ね。後であの男の子にこの手紙渡しといて。あ、後、今度はサージャを遊びに行くねって伝えてくれると嬉しいな。」
「ちょっと待って。だから夜が明けるまでは…って、あれ?何処行った?」
「ここだよ!塀の上!通してくれないなら強行突破するだけだから!じゃあねー」
そう言い残して塀の向こう側へ飛び降りる。
「いや、だから夜は……まぁ、いいか。どうせ今日一人通しちゃってるしな。うん、仕方ない。……てか、とんでもない身の軽さだな…あぁ、俺もあんな特殊能力が欲しかったよ。そうすればこんなところで役人やらなくてもよかったのになぁ…。おれ、伝説の傭兵とか、そう言うのに憧れてたんだよなぁ」
感動の再会を果たした親子の涙も、役人の哀しい独り言も、暗い道を駆けるルノの鼻歌も呑み込んで、夜の闇は、まだしばらくその帳をおろしている。
二日後、夕暮れ…
「だからお前が何者なのかっつうのを聞いてるんだよ。同僚なのか?」
「お前には関係ない。私はこいつに用があるんだ。」
「俺はどっちにも用事無いけどね…」
「答えないならイエスってことでいいな。ちょうどいい。さっき買ったナイフを使ってみるか。」
「何か勘違いしているようだが、まあいい。喧嘩を売っているのなら買おう。うるさいのが居なくなるならこっちも好都合だ。」
「あの…ちょっと僕の話を聞…」
『あ?』
「す、すいません…」
まさに一触即発。
どちらかが、動けば即座に殺し合いが始まりそうな、不穏な空気。
そこに…、やけにハイテンションな声が割り込んできた。
「はーい!ルノちゃんご登場ー!ただいま到着しましたっ!みんな楽しそうだね!」
「帰れ」
「誰だお前」
「え、救世主?」
反応は三者三様。引きつった表情を浮かべる優男が、突然の乱入者に「救世主?」等と口走ってしまったのも、状況が状況なだけに無理もないだろう。
「で、サージャ、なにやってんの?何となく事情は分かるけど」
「分かるならいいだろう。」
「サージャがそこの黒髪に用があって、そこの金髪が、サージャを黒髪が仲間だと勘違いしてて、サージャがとばっちりで怒られてる。…で、いい?」
「まあ、大体そんなものだ。お前、記憶を見せてもらってきたな。」
「ピーンポーン!」
鷹揚にうなずくサージャと、満面の笑みで、手で大きく丸を作るルノ。
一瞬、場の緊張がほぐれたように見えた。
「ちょ、ちょとまて。じゃぁ、そこの赤髪の女は、そいつとは無関係なのか?」
「…さぁ。ただ同僚などと言う近しい間柄ではないな」
「なんだ…それを早く言えよ。」
「えーっと、注目!ここでルノから皆さんに一つ提案があります。私さ、そこの金髪の人に用事があるの。で、サージャと金髪の人は、そっちの黒髪の人に用があるわけじゃん。私ね、日が暮れる前にランギル一回入らなきゃいけないから、用事に時間かけられないの。だからさ、私の用事済ませたら、二人でその黒髪の人シメればいいと思うんだ。」
さも当然というように力説するルノ。
それに納得しようとする二人に、黒髪の優男は慌てて言う。
「ちょっとまって!その理屈おかしくない?僕さ、ライト……あ、こっちのね。はともかく、この子にはシメられるようなことした覚えないし!ていうか、それ三人にしか利点無いじゃん!僕は公平公正な意見を求めるよっ!」
「え…だって私、君には用事無いもん。別に何処でのたれ死んだっていいもん。」
「ちょ、ひどっ」
何か文句を言っているが…無視。
「まーまー、と言うわけで、金髪のあなたに質問です。」
「あぁ、何だ。」
突如始まった質問コーナーに若干戸惑っているようだが、そんなのいちいち気にしていられない。
こっちだって、この人に会うためだけに遠路はるばる歩いてきたのに。
別に馬に乗ってくれば良かった気もするのだが、サージャが歩いて行った(気がした)ので何となくだ。
「あなたのお名前を聞かせてください。」
「…ライト。ライト・カシオウスだ。」
「んっと。じゃぁライト。私の名前は何でしょう?」
「はぁぁ?」
突飛すぎる質問にライトは返す言葉がない。
流石に急すぎたと思ったのか、ルノも慌てて説明しだす
「えっとさ、私、六、七歳の所辺りから前の記憶が無くて…、ライトには会った覚えがないんだけど、何となく会ったことあるような気がするの。それでね、私の直感が会いに行けって言ったの。こう言うときの感は絶対従った方がいいんだ。だからさ、私のこと知らない?」
「そんなこと言われてもな…普通六、七歳の記憶なんてしっかりしたもんじゃないだろ。何処かで一度偶然会ったとかじゃないか?」
ライトはあくまで見覚えがないらしい。
「ううん、もっとしっかりした…いいからちょっと私の名前、あててみて。」
「知るかよそんなの!」
「いいから!何でも良いから言ってみて!」
「えぇ…何なんだ急に…じゃあ…ルノーラ?」
-え、嘘…ほんとに当たった…。
思わず硬直してしまう。
実は、ルノも名前まで当たるとは思っていなかった。
『知ってる気がする』だけで、ルノの記憶にもこの人の姿はないのだ。
それでも、会ってみたい、会ってみたいと言う衝動は止められなかった。
-…知り合い?やっぱり知り合いなのかな!
「じゃ、じゃあ、性はっ?性!」
「いや、そんなの知るわけ…」
「いいから答えてっ!!」
半分ひっくり返ったような声で叫ぶ。
自分には関係ないとばかりに黒髪をにらんでいたサージャでさえ、思わずこちらを振り返ったほどだ。
「はあぁ…えー…んと…ノア?」
-うそっ!当たった!やっぱり知ってるんだ!何かきっと…ん?うーん……何が何かなんだろう?…あれ?うーん、いや!きっと何か何かなんだ!
ルノが一人で盛り上がって心の中で訳の分からないことを言っていたそのとき、
「うあっ!」
突然、一人で訳が分からないといった風に考え込んでいたライトが、叫び声を上げた。
見れば、頭を抱えていて、どうも頭痛がしているようだ。
「え、ちょっと…大丈夫っ?」
普段のルノなら、「いやー、大変な頭痛持ちなんだね~」などと悠長なことを言っていたかも知れないが、今回はどうも、自分のせいのような気がした。
いや、『気がした』と言うより、確信に近い。間違いなく、世界樹のところでルノが倒れたのと、同じ類の物だろう。
-やっぱり…昔のことを知りたいなんて、思わない方がいいのかな……こんなに苦しそう…………でも…でも!
「…ごめんね…たぶんそれ、私のせい。でも、どうしても、昔のこと、知りたいの。だからごめん。また聞きに行くかも。お願い、どこに泊まってるのか教えて?」
ライトは途中から顔を上げていた。その表情を見るに、頭痛はおさまったようだ。
そしてしばらく悩んだ後、渋々と言ったように教えてくれた
「赤いランタンの隣に、赤き騎士クリュプスって書いてある酒場だ。」
うん、まぁ…そんな感じの話です。
ちょっとね…文章力のなさが浮き彫りになった次第です。はい。
そして長いです。私的にかなり。てか、ねみー…。