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RAINBOW!~wanders of comet~  作者: 七須木雨人
集まる虹、揃う虹~商業都市ランギル~
11/28

第十話(*) 世界樹

更新遅くなりました。

(一応は)挿絵付きです。

「あのお姉ちゃんねー、マントアレルギーなんだよ。」

赤髪の少女が去っていった後、突如そんなことを言い出した隣の少女を、少年は驚いて見やる。一瞬ふざけているのかとも思ったが、表情は至ってまじめだ。

「ええっと…」

が、また唐突に、少女がしゃべり出す。今度は、少年の羽織るマントを指して。

「だからね、そのマントが嫌で機嫌が悪かっただけなの。だから君のことが嫌いなわけじゃないよ。」

これが笑っていたり、不自然に目をそらしながら言っていたりすれば、少年も疑っただろう。だが、隣の少女の表情はまじめそのもの。そこにさっきから優しくしてもらったという付加が加わって……結果、少年は顔をほころばせてこう言う。

「そっか!あのお姉ちゃん、これが嫌だったんだ!そうだよね、汚いもんね!」

完璧に信じた。信じてしまった。

もしこの場に二人以外の誰かがいたら、「いや、マントアレルギーって何よ」と突っ込んだかもしれないが、あいにく、こんな森の奥にそうそう人はやってこない。

「そういえば君、名前は?」

「僕?僕ロナ。お姉ちゃんは?」

「私ね、ルノーラっていうの。ルノで良いよ」

「分かった、ルノお姉ちゃん!」

慣れないお姉ちゃん呼びに少し照れながら頭をかいていると、突然脳裏にひらめく物があった。というか、大切なことをすっかり忘れていた。

「ロナ、ごめん忘れ物!ちょっと来て!」

「え…うん。」

そうして、茂みをかき分けていって…

ロナは言葉を失った。

「いやー、さっきの人食いすっかり忘れてたよ。」

「…これ…この巨大な炭……何?」

「ん?熊だよ?っていうか、炭とか言わないの!ちょっと焼きすぎただけなの!」

「……え。じゃあ、さっきの火柱って、これ?さっきのって、ルノお姉ちゃんが?」

数歩、ルノから遠ざかるロナ。

「そだよー。…お、良い感じ。じゃ!今夜は熊鍋でーす!おー!」

遠ざかるロナを、捕まえ、無理矢理片手をあげさせるルノ。

「え、え…え?」

「ほら。おー!」

「え、お、おぉー……」

「オッケー、んじゃ帰ろう!」

ルノはそういって、いとも簡単に、身長を超える熊を担ぐ。

そうして二人は森を出て行った。

一人は意気揚々と、もう一人は、目の前の人とは思えない存在に、畏敬の念と若干の恐れを抱きつつ。

挿絵(By みてみん)


ところかわってカディムの町の中。

いかにも力のなさそうな細身の少女が巨大な熊を抱えているにもかかわらず、道を行く人々が、特に関心を払うことはない。たまにこちらを見る人もいるが、「またルノか…」と言って、すぐ興味をなくす。

「ロナの家に帰る前に、うちにこれ置いてって良い?」

「うん!でも…ルノお姉ちゃん、それ重くない?」

「え?あぁ、うん。大丈夫!これ、魔法で浮かせてるから、ほとんど重くないんだ!」

「ルノお姉ちゃん魔法使えるの!?」

「そうだよー。知る人ぞ知る、天才魔法使いとはこのルノーラ様の…」

ルノが最後まで言い終わる前に、後ろから頭をはたかれた。

「この人通りの多いメインストリートで何恥ずかしいこと騒いでやがんだお前は。」

「あ、おっちゃんおはよっ!」

「もうすぐ夕方だ。」

ルノの呼ぶおっちゃんというのは、アラド酒場の店主、ディム・アラドのことである。ルノが夕食と言う名の有害物質を作ったときなどに、よくサージャと二人で世話になっている店だ。ディムは(ごついくせに)料理がうまい。

「サージャが居ないなんて珍しいな。別々に出て行ってもたいてい一緒に帰ってくるのに……ん?その坊主誰だ?」

「あたしの子っ!」

「坊主、お前誰だ?」

「ちょっ、ひど!あたしは無視!?」

ルノでは埒が明かないと思ったのか、ロナに直接聞こうとするディム。だが、ロナはその強面にすっかり怯えており、「あっ…え…」と、あまり話になりそうもない。あまつさえ、ルノ(熊)の後ろに隠れようとまでしている。

「おっちゃん顔怖いんだからさぁ、あんまり近づかないであげてよ。そんなんだから、ちっちゃい子に『悪魔の化身めー』とか言って石投げられるんだよー。」

「ちょ、お前、なんでそれ知って……」

「ルノは何でも知ってるもんねー!…じゃないや。この子はロナ。お母さんが、奴隷として連れて行かれちゃってー、サ-ジャの強さ見て追っかけしてたの。今家に送るとこ。」

いまいち要領を得ない説明だったが、ディムには何とか伝わったらしい。話の途中で肩をふるわせ始めた。ルノが、どうしたんだろうと顔をのぞき込むと、突然叫びだした。…盛大にツバを飛ばしながら。

「いけ!自称天才魔法使い!その子の母を助けてこい!」

「いや!もうギルドが助けたから!そして自称は余計!」

「…ホッ、なんだそうなのか、良かった。そしてどう考えても自称だろ。」

「自称じゃないもん他称だもん!っと、日が暮れちゃう。じゃあ、そろそろ行くね。」

そういってルノはあっさり背を向ける。その結果ディムは背中の熊としたくもないご対面をすることになり…。

「なぁ、お前、だいぶ前から気になってたんだが…。それ、人食いじゃねぇの?丸焦げでよく見えんケドよ。んな図体でかい熊はあいつぐらいだろ」

「ピーンポーン!正解!あたしとサージャに手ぇ出そうとなんてするから、哀れ今夜の晩ご飯。またお裾分けに行くね。」

「…あ、あぁ、お裾分けは良いんだけどよ、前みたいに生肉そのまま置いてくのやめろよ?でかいは臭いわで、客が怯えてしょうがなかったんだぞ。」

「大丈夫!今回は『みでぃあむ・れあ』だから!じゃあね!」

そういって今度こそルノとロナは帰って行った。

二人の話を立ち聞きしていた人々に「いや!どう見ても丸焦げだろ!」と突っ込まれながら……。


「じゃ、ロナはここで待っててね。あたしちょっと森にもう一回用事あるから。」

ここはルノとサージャの自宅。熊を近所に配り終え(大半の家で苦笑された)、一度はロナの家に向かったのだが、結局幼いロナを一人で置いておくのは危ないと判断し、ひとまずルノと一緒にいることになったのだ。

「一応、扉は外から開かないようにしておくけど、鍵開けちゃだめだよ。」

「はぁい。」

その返事を聞いて、ルノは満足したようにロナの頭を軽くなで、手を振りながら森の方へ走っていった。


森の中、夜の闇の中を、白い固まりが走る、走る、走る――――

そして、どんなに森に精通した猟師でも立ち入らない最深部に、消えた。


「ししょー、起きてー。」

ルノは、目の前の巨木に話しかける。だがそこには誰もいない。ただ、木があるだけだ。だが、ルノは話かけ続ける。

「ししょー、起きてってば!緊急事態なの!聞こえてるでしょ!……燃やすよ!!」

「…………ったく、師匠に向かって燃やすとは何事だ、ルノーラ。」

どこからか声が聞こえてきた。人の声とは違う、もっと重厚で、脳に直接響くような声。

目の前の木が話している。

にわかには信じがたい光景だが、巨木は確かにそれを信じさせてしまう圧倒的な貫禄を持っている。

「だって、ししょー起きてくれないんだもん!今日サージャがね、」

「よい。知っている。で、なんだ?」

「サージャがどうしてランギルに行ったのか知りたくて。」

「それが緊急事態か?そんなこと分かるはずも無かろう。私が分かるのは、実際にあったことのみ。お前の相方が何を考えていたかなど、私の知ったことではない。それにあいつは合流しろと言ったのだろう?ではそのときに聞けばよい。」

「またまたー、ししょーならあのときサージャがロナの記憶の中に何を見たのかくらい分かるでしょ?サージャあのとき透視してたからね。何か見たのは間違いないんだよ!それにサージャきっと教えてくれないしねっ!」

夜の闇も合わさって、物々しい雰囲気の中、ルノは一人だけフランクな口調を崩さない。

「お前はこの老木にまた無理をさせる気か。第一私はあまり人間は好かんのだ。」

「でも私には、魔法教えてくれたじゃん。」

「それはお前らの親がっ……」

「…?」

「いや、なんでもない。…はぁ、仕方ない。どれ……よし、ルノーラ、私に触れてみろ」

ルノが言われた通りに触れると、突然、頭の中に次々と映像が流れ込んできた。

ロナの記憶、

サージャの記憶、

ランギル付近の、空間の記憶

「サージャはこの黒髪をみてランギルに…でも、この人誰だろ?んー……いや、見覚え無いなぁ。他に…………―ッ」

次々と現れては消えていく映像の中に――ルノは小さく息をのんだ

 あれ?あたし、この人…知ってる?え、でも…誰?…え?…あれ、え、え、え……?

「おい!ルノーラッ!」

「ふぁっ?…ハァ…ハァ……はえ?」

「はえ?ではない!急に動かなくなったと思えば、突然ふらっと倒れたのだぞ!」

よく見てみれば、自分の身体が不自然に傾いだまま、見えない何かに支えられている。

「あー、ししょーありがと。…なんか怒ってる?」

「それは大切な……それより、いったい何を見た。」

「んー、よく分かんない。でも…あたしもランギルに行かなきゃ。」

ルノは立ち上がりながら―元々倒れていたわけではないが―言った。もやのかかったような自分の記憶に一抹の不安を抱えながら。

「じゃあ…ロナも心配だから…そろそろ行くね。」

ふらふらと重い足取りで立ち去ろうとするルノに巨木は何か言おうとしたが…やめた。何を言ってもコイツは「だいじょーぶ、だいじょーぶ」なんてヘラヘラと笑うだろう。

なら…

「ルノーラ、気をつけろよ」

その言葉にルノは一瞬驚いたように立ち止まって…そして晴れやかな表情で言う。

「ありがと世界樹シグルムッ! 」

こうしてルノーラは師匠である世界樹シグルム―世界の初まりの木―を後にする。すぐにランギルから帰ってきて、まただらだらとここで過ごすつもりで。

すぐに帰ってなどこれなくなることは

彼女も、

世界樹も、

誰も、―――知らない






はい、なんか誤字脱字あったらすみません。世界樹は、世界の始まりを同時に、生まれた木です。何でも知ってます。ルノがししょーししょー言ってる通り、ルノの魔法の師匠です。

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