第5話 悪いところ
「うっわ、まじか」
思わず声が出てしまう。私は慌てて口をふさぐが、理君は言葉を発したことに気がついたようだ。
「ねえ、愛嬢さん。なんかしゃべった?」
「えっ?なんのことかな?たぶん店内ミュージックじゃないかなー」
かなり苦しい言い訳だと思うが、人を見てうわとか言う女だと思われたくない。
「ふ~ん。まあいいか。なに頼む?」
「えっと、え、何にしようかな」
こんな洒落たカフェになんてきたことないからメニューがよく分からない。べんてぃー?ホイップマシマシチョコチップ追加ソイミルク?どこの二郎系ですか?と言うのが私の感想だ。
私は強いて分かるツラペチーノを頼もうとするが、店員さんはそれを許さない。
「ツラペチー」
「こちらの新メニューなどおすすめですよこの時期の新作は全部出来がいいので。あっ
、アレルギーなどはございますか?」
私のことが嫌いなのかというレベルでいじめてくる。新作?……少年ホップかな?
店員さんのマシンガントークで私は混乱してしまい、何も喋れなくなってしまった。
「あの、えと、その」
いつもこうだ。テンパってしまうと、同じ事をぐるぐると考えてしまい、言葉が出なくなる。目が熱くなり、涙が溢れてしまいそうになる。理君にかっこ悪いところを見せてしまう。
もう帰りたい。そう思ったとき、君は助けてくれる。
「すいません。ツラペチーノと新作のカロリーマシ出来良きチーノを下さい。」
店員さんにそう告げると、スッと財布を出し、会計を済ませる。そして私を連れて、テラスへと出てきた。
「大丈夫?ツラペチーノでよかったよね。」
優しさを感じられて良きかな。
「うん。ありがとう。いくらだっけ?」
「いいよこれくらい。今回文系科目を教えてもらうお礼」
「けどそれなら私もそうだし。」
流石に助けてもらって、奢らせたくはないしなんなら私が奢ろうと思っていたのに。
「失礼します。こちら、ツラペチーノとカロリーマシ出来良きチーノです。ごゆっくり」
私たちは軽く会釈をし、届いた飲み物を飲む。理君が一口飲んだ後、バッグの中からおもむろに取り出す。
……数学と理科の教科書、参考書。
「じゃあ、やろうか」
私はこの言葉に反応できないまま体の動きをとめる。テラス席の柵の奥、そこには店から出てきた甘超がいた。
さっきに続いて2回目だ。しかも今回はアップグレードしている。甘超に気が付かれたのだ。
ゴミを見るような目でこちらを見てくる。
「あれ?どうしたの?やろうよ」
理君はやろうと催促してくるが、私の耳の入らない。
甘超の手がクイクイと動いている。私の身体はこわばるが、反対に足はガクブルと震えている。けど、あいつには負けていられない。
「ごめん、ちょっとお手洗い」
そう言い残して私は席を立つ。
困惑している彼をおいて甘超についていく。
彼の視線が痛いほど背中に刺さる。それも、曲がり角までだった。
カフェから角を曲がり 、少し歩いた薄暗いジメジメとした裏路地に着いた。
「ねえアンタ、なんで化科君といっしょにいる?」
私の背後の壁に手を付きながら、顔を近づけ甘超は言う。
私は萎縮していまい、声が小さくなる。
「…ぁから」
「は?聞こえないんだけど!」
さらに顔を近づけて喋る。いや、ほとんど叫んでると言ってもいい。それほどまでに彼を気に入ったのか。
けど、それで彼を譲るほど私もお人好しじゃない。その覚悟を決め、私はしっかりと話す。
「勉強会に誘ったからだって言ってるんだよ!」
甘超は急に叫んだ私に怯えてか、後ろの壁から手を離し、後ろに下がる。
「私が!彼を好きだから!どこか悪いところでもある?」
私はそう捲し立てると、少し息を整える。
「じゃ、彼を待たせてるから」
無様な彼女をおいて、私は颯爽とカフェへと戻った。




