第3話 力水
「理くんが〜いまぁ買ってるやつってぇ〜好きなやつなのぉ~?」
ひとこと一言を伸ばして言うクセ、まだ直ってないようだ。
そして理くんは何も答えない
「そういえばぁ、化科君って好きな人とかいるのぉ〜?」
ちゃっかり理君を下の名前で呼んでいる。
あいつは後で丑の刻参りで呪ってやる。
あれって実際効果があったからね!
理君が心底面倒くさそうに口を開く。
「いないよ。僕、恋愛とか恋とか、数値で表せないものは信じないから」
そう冷たく言い放つと、買ったジュースを持ってクラスの方へ戻っていってしまった。なんか2本買ってるんだけど、もう行かなくていいようにって、なんて頭が良すぎるんだ。
あいつは開いた口が塞がらないって顔をしていたから放置してクラスに戻る。
あいつ、甘超巫山は中学生時代、私のことをいじめてきたのだ。
「なんで本なんか読んでんだよ。ダッサww」
とか
「本を読んでたらモテるって勘違いしてるんですか〜?」
とか、それはそれはひどいことをされた。そのくせ男子の前ではあの甘ったるいふざけたような声で振る舞う。
中学生の時は先生もあいつの傀儡みたいなものでいじめも無視されていた。
いじめるようなやつなんてみんな馬鹿だと思っていたが、そこそこの偏差値のこの学校に来れたということは要領よくできるタイプなんだろう。
ってそんな事考えている場合ではない。
理くんのことを追いかけてクラスに戻る。
「はぁぁ。あの人なんだったんだろ」
理君がため息ついてる。あいつめ!
いつかあいつの家に髪の伸びる日本人形送ってやる。
けど、第二関門の世間話できなかったなぁ。
そうやって落ち込んでいると、理君が席を立つ。
私はそんなことに気が付かずに唸っている。
理君が私の席の隣に来る。
「これ、良かったら飲む?」
不意を突かれ変な声が出る。
「ひょ?」
「いや、いらなかったらいいんだけど。さっき俺のせいで飲み物買えなかったでしょ。なんか変な人に話しかけられて」
こんな奇跡みたいなことって起こりうるのだろうか。私は明日から毎日神棚に祈りを捧げることを誓い、言葉を返す。
「いやいや、理君のせいじゃないよ。けどせっかくだしもらうね」
「どうぞ」
そうやって渡されたのは……力水。
チョイスは謎だけどありがたい。
私はお礼を言って話を変える。
「あのさ」
理君がどうかしたかという目でこちらを見る。
「そろそろテストが近いけど、勉強してる?」
「いや、まったくしてない」
良かった。私と全く一緒だ。違う方面から見たら良くないけど。
そうすると理君は席に戻っていく。
私は理君について行き、彼の耳で囁く。
「一緒に勉強しない?」
彼はちょっとびっくりしたあとに、答えをくれる。
「君、文系科目いける?」
「もちろん!」
このあとに続く言葉は何もなかった。
けど、私にはわかる。これはYESの意であることに。




