(92)決勝と交渉権の獲得
相当な戦力を有していると認識された、ハイス子爵家の名を背負っているクラブキング。
観戦している一般の者達だけではなく貴賓席にいる者すべてがあり得ない程の強さを持っている存在だと認識した事もあって、初戦で手も足も出ずに敗退したエックスに対しても名誉が守られる事となり、実在しないがミュール男爵を処罰する必要もなくなったと感じているバレント。
その間にも試合は進んでおり、貴賓席の者達は勝手に決めていたハイス子爵家との面会権を手に入れる為に自国所属の者達が出場した際には身を乗り出さんばかりに応援し、無駄に盛り上がっている。
「全く。勝手に決めたりあの商会に頼ったり、王族・貴族としての矜持が全く見られないとは呆れた連中だ!」
周囲にいる異国の王族・貴族達を見て心底呆れているバレントなのだが、自らの戦力である残りの首輪付きが今後クラーブと名乗った男に勝利できると言う甘い考えは持っていない。
初戦のエックスも相当な強者であったのだがまるで赤子の手をひねるかのようにあしらわれていたのだから、いくら能力、戦闘方法によって相性があるとは言え、格が違えば意味がない。
やがて大会も終盤になり、初戦の様子を見て誰しもが予想できた事だがクラブキングが勝ち残り、残りの一人は聖国ロナ所属の騎士ハワードが勝ち上がっていた。
「フフフ、これで私一人。聖国ロナだけがハイス子爵家と面会できることになりましたね。勝っても負けても交渉権は変わらない。素晴らしい状況になりました」
組み合わせの関係もあるのだが、勝手に決められている交渉権なるモノを得たのはロマニューレになったらしい。
冷静に考えれば交渉権ではなく面会権と言った方が正しいのだが、欲が前面に出てしまっているので有り得ない戦力を我が物にするべく交渉すると言う意識が強く出てしまっている。
「では、最後の試合になります!聖国ロナ所属ハワード対、ソシケ王国所属クラーブ!」
対戦者紹介時に、ハイス子爵の名前が出て来なくなり所属国家が紹介されている。
圧倒的な戦力だと誰しもがわかるクラブキングが所属しているのは自らの国家である事を殊更主張する様にとの国王バレントの新たな指示によるものなのだが、残念ながら真の目的であるロマニューレに対する牽制の効果は一切見せていなかった。
「はじめ!」
相変わらず白い覆面を被ったまま自然体を維持して動く事のないクラブキングと、標準的に盾と剣を装備して腰を落として慎重に動き始めるハワード。
「参る!」
騎士らしく正々堂々宣言した後に一気に攻撃に移行するのだが、宣言があろうがなかろうがクラブキングの敵ではなく・・・
―――パンッ―――ドサッ―――
避けるのが難しいと言われている体の中心部分に刺突を行ったハワードなのだが簡単に避けられた上に頬を平手で打ちぬかれ、たったそれだけの攻撃で白目をむいてその場に倒れてしまった。
「しょ、勝者・・・ソシケ王国所属のクラーブ!」
全ての試合がこのような形で、いくら相手が屈強であろうが民からは動きをまともに捕捉できない程の速度で攻撃しようが、結果的には試合開始直前から殆ど動いていないクラブキングと倒れている対戦相手と言う結果が繰り返された。
目的通りにハイス子爵家のメンツが過剰に保たれる形になったのだが、貴賓席ではその程度で済む状況ではなくなってしまった事は民と共に観戦しているハイス子爵家は知る由もないのでそのままダイヤキングの作戦は継続される。
圧倒的な力で優勝する事は当然だが、その後にハイス子爵家の背後には万屋がいる事を知らしめる手はずになっていた。
ハイス子爵家が万屋に依頼をしたのではなく、万屋が勝手に守護すると知らしめる事も重要であると考えていたダイヤキングによって動き始めるカードの者達。
優勝者として称えられている闘技場にいるクラブキングに視線が集まっているこの状況で、突如として空が部分的に暗くなる。
何をどうするのか一切聞いていないながらもダイヤキングから言われるがままに複数顕現させた者達の仕業である事は嫌でもわかるロイなのだが、目の前の家族が突然の事に驚くでもなく楽しそうにしているので共に楽しもうと思えている。
<皆の者、良く聞くが良い。私は万屋、万屋。大切な事なのでもう一度繰り返すが、よ・ろ・ず・や・・・である>
「あはははは!ロイ君、聞いた?随分と万屋を主張するのね。面白いね!」
天からの声にしか聞こえないので周囲の者達は唖然としている中で既に経験済みのハイス子爵家の面々は平然としており、リーンが嬉しそうにロイに話しかけている。
ロイとしてはどこに当初の目的である“裏”だの“秘密裏”だのがあるのか・・・と小一時間問い詰めたい気になっているのだが、動き始めてしまった暴走ダイヤキングを止める術などある訳がないと理解してしまっているので苦笑いのまま状況を見守っている。
<では、本題を伝えよう。我ら万屋、この大会の優勝者に対して報奨を与える事を決めていた。今回はハイス子爵家となるが、今ここで優勝者であるハイス子爵家の守護を担う事、ここに宣言する>
声がどこから聞こえているのか分からず、更には演出なのか突如として暗くなっている事もどのようにしたのか不明であり、少なくともこの声の主も有り得ない程の力を持っていると把握する事はできる。
後付けの理由ではあるが、そのような事など分かる訳も無い貴賓席にいる国王バレントはハイス子爵の戦力が上昇した事に苦虫を噛み潰し、ハイス子爵に面会して戦力を我が物にする予定のロマニューレは微笑んでいた。




