(83)リーンの暴走とカードの後押し(2)
「フフフフ・・・失礼。ちょっと嬉しい視線を感じたので。で、聞いたところによると、アンタにそっくりなブタに見切りをつけて勝手な考えで第二王子を王位につけるですって?確かにブタが王位を継承すればこの国は大きく衰退するでしょうけれど、相当勝手な考えよね?第二王子はアンタの不始末を拭う道具じゃないのよ?」
ロイの愕然としている表情を尊敬の眼差しと勘違いしているリーンは嬉しさから思わず笑みが漏れてしまったのだが、取り繕いながらもとんでもない暴言を吐き続ける。
まぁ中身は正しい事を言っているので分からなくもないのだが公衆の面前で国家元首に一子爵令嬢が言って良い事かと言えば別の話しであり、周囲の民は興味本位で聞いていた内容がとんでもない話しであった為にこれから惨劇が起こる可能性に思い至ってそっとこの場から逃げている。
その代わりにこの場に来たのは一応フードを被って姿が良く分からないようにしている一行であり、ロイが周囲の民の視線がある為に疲労を感じてしまうが人目につかないように直接召喚したクラブの部隊の者達。
「我が主。ダイヤキング殿の指示によってこの場所はクラブの部隊が完全に掌握しております。これでリーン様が暴れても周囲に被害が行く事は無いでしょう」
ロイの陰に潜んでいるスペードキングが情報をロイに展開するのだが、実力的に言えばこのスペードキング一体でもこの場を完全に掌握可能な力を持っていつつも、最も重要なロイの安全を守る事だけに全力を削いでいるので些事はクラブの部隊に任せる事にしている。
「リーン、貴様・・・国家元首である余に対する暴言、先の王城での態度もある。いくら寛大な余にも限界と言うものがあるのは知っておろうな?」
「え?寛大?そっか。だから本物の魔獣のオークが第一王子の妃になった事を許しているのね。確かに寛大だわ!あははははは」
もう敬意も何もあったものではなく、実は少し後ろでこの状況を見守っている第二王子のミラージュは国王に平然と暴言と吐いて見せる子爵令状と怒りに打ち震えている父である国王バレントを見て気を失いそうになっている。
―――パシッ―――
流石にここまでの暴言を許せるわけもない国王側の騎士や密偵なので最も近くにいた密偵の一人が暗器をリーンに投げ込んだのだが、流石はロイのカードの力で必要以上に強化されている最強冒険者としての立場を確立しているリーンは、難なく直接手で触れても良い場所を見極めて素手で叩き落として見せた。
「あら?コレが全力かしら?だとしたら残念ね。こんなおもちゃじゃ私に傷一つつける事は出来ないわよ?」
直接的な攻撃を受けて一瞬で視線が厳しくなるが余裕のあるリーンと、その視線を受けても流石に訓練されて相当な力が有るのか怯む事のない護衛と密偵。
戦闘力のある存在と言う括りで言えば国王側は複数いるのに対してミラージュ側はリーンだけと言う状態になっているので、この場にノコノコ付いてきているロイや場合によってはミラージュすら人質の価値があると判断した騎士や密偵は何も合図をせずとも示し合わせたような行動をとる。
敢えて数人がリーンを多方向から攻めているその隙にロイとミラージュに刃を突き立てようとするのだが、何故か全身を布で覆った存在、この場に配置されているクラブの部隊がリーン、ロイ、ミラージュを守るような立ち位置に即座に移動する。
クラブの部隊はダイヤキングの指示により、更に万屋としての立ち位置を盤石にすべく行動を始めた。
万屋は謎の組織と言う立ち位置であるため、その時々で話し方を変えさせているのも忘れない。
「我らは万屋の従業員である。此度はそこな第二王子のミラージュ殿の願いを聞き届ける為に行動した。して、愚王バレントよ。我ら万屋が提供した、第一王子が願っていた美しい妃はお気に召したようだな。そこを考慮すると、当然公平を期すために第二王子の願いも叶えるのが筋と言うものだろう」
何となく納得しそうなことをダイヤキングの指示で言っているのだが、全てを知るロイからしてみれば“めちゃくちゃだ”と感じており頭を抱えたくなっている。
強引にオークを妃として押し付けておいて第一王子の願いを叶えた体にしており、公平を期すために第二王子の願いも叶えると言っているのだから・・・
流石のリーンも得体のしれない強さを感じているので何も口を出す事は無く黙って聞いているのだが、万屋を名乗っているクラブの部隊の言葉から自分達に敵対する存在ではなく、更には自分の知る万屋で間違いないだろうと思いつつもさり気なくロイを守れる位置に移動している。
直接的な圧を近距離でかけられている密偵や騎士達は全く動く事が出来ずにおり、国王バレントは平然と王城に忍び込めるほどの力を見せつけられていた経験があるので流石に反撃する様な命令を出せずにいた。
「我ら万屋は第二王子。いや、元第二王子であるミラージュ殿がシンロイ商会の従業員である事を認める。仮に第三者がその立場を脅かすような事があれば、相手が誰であれ万屋が容赦のない対応を行う事をここに宣言する。理解したか?その相手とは、ブタを擁する王族であったとしても・・・だ」
「ひぃ・・・」
国王バレントはここで初めて直接的な殺気を受けたので情けない声を出してしまったのだが、万屋を名乗ったクラブの部隊はその態度を見てしっかりと話しの内容を理解したと判断したのか霞のように消えて行った。
一気に殺気が収まった為にまるで動けなかった騎士や密偵も慌てて国王の近くに駆け寄り無事を確認すると、ミラージュには一切視線を向けずに国王を抱えて一気にシンロイ商会から出て行く。
「えっと、ミラージュさん?私は何もしなかったけれど、これで貴方は商会の従業員である事が認められたと思うわ。良かったわね。じゃあロイ君、お姉ちゃんとお店をもう少し見て回ろうか?」
ある意味大惨事が起きていたのだがまるで興味が無いとばかりに意識を再びロイだけに向け始めたリーンを見て、ロイも毒気が抜かれたのかフッと笑顔になりミラージュに一声かけると休憩所から出て行った。




